「パニック」について

常に、ビビりながら、生きてるんです。
何事にも、ビクビクしながら生きてるんです。

ビビりは、毛根がきゅっとなって、ハゲやすいと聞いたことがあります。

日頃から、パニックになってると、自分では気づかないもんで、
バイト先の先輩に指摘されて気づいたんですけど、
僕、パニックになると、ピアノ弾いちゃってるみたいなんです。

ピアノなんか習ったことないですよ。
習ったことないけど、手がティラノサウルスの位置でおろおろしてると、
ピアノ弾いてるように見えるらしい。

思い出してみると、初めてピアノ弾いたのは、小学校の時。

帰り道で、曲がり角から野良猫が出てきた時。

ピュンって出てきて、ハッてなって。
猫の方も、テクテクテク、ピョーーーーンってなってて。
んで、びっくりして焦って、ピアノ弾いちゃった。

チャチャ チャンチャンチャン チャチャ チャンチャンチャン
チャチャ チャ チャン チャ チャン チャ チャン

猫は、ギリギリ踏まなかったけどね。

最近も、電車に乗ってて。降りたい駅で降りようとしたら、
ドアの前におじさんが立ってて動かない。

まるで、弁慶の立ち姿。右にも左にも動かず、ビクともしない。

横を通ろうとしたら、おじさんが同じ方に動いてきて、
同じ方によけちゃう。みたいな。

アンガールズだったら、ジャンガジャンガしてたと思います。

で、パニックになって、ピアノ弾いちゃったんです。

その瞬間、おじさんに手つかまれて。
おじさんの目を見て、分かりました。
多分、不審者だと思われてる。

僕は、必死に弁解しました。

「いや、違うんです」
「違うも何も手が変じゃないか」
「僕、パニックになるとピアノ弾いちゃうんです」
「便利な言葉だなぁ そうやって今まで逃げて繰り返してきたんだろ?」

その男がこぶしを縦に並べてる。

<「どういうこと?」>って思ってたら、電車の棒あるじゃないですか?
つかむ用の。転びそうになった時、つかむ棒。
その棒にこぶしが縦に点2つ、ついてるみたいな。

リピートの音楽記号になってたんですよ。
繰り返しの。

「僕は本当に何もやってないんです」
「だんだん強く否定しているな」
「クレッシェンドじゃないんですよ」
「どうしてあたふたしているんだ なにもやっていないなら、威風堂々としていればいいじゃないか」

また、パニックになって、ピアノ弾いちゃう。

「残念だったな 同じ電車に私が乗ったのが運のつき。今日捕まることはもう決まっていたのだろう。そう、運命だったんだ」

デデデデーーーーーーン デデデーーーーーーン

「田舎のおふくろさんも泣いてるだろうな それを見たお父さんも泣いてるだろうな」

おとうさん おとうさん 魔王がいまーーーー

僕に、ピアノ弾かそうとしてくるんです。

「パニックになってピアノ弾いちゃうって、PPじゃないか」
「きわめて弱いじゃないんですよ」

このおじさん、多分、音楽の教養がある

「ここまで疑われたら、きわめて強い否定をするだろうね」
「フォルテッシモじゃないんですよ」


Fin.




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