日銀の「出口ない」出口戦略

あっぱれ。平山賢一さんの「日銀ETF問題」の刊行について、自分の第一印象です。長年、自分が遠吠えしていた問題に、しっかりと歴史観のデータも含めたロジックでストレートに問題提議されています。

先進国の中央銀行が間接的にも株式を購入することに2013年から違和感を抱きましたが、当日の一般的な意識は「株が上がれば良いんじゃない」に留まっていました。アベノミクスへの期待が高く、その主たる「矢」であった日銀の「バズーカ砲」の意義に問いかけることすらタブーであったかもしれません。

それから年月を経て、「異次元」な金融瀬策が常時化していることのリスク*への意識を高めるべきという意見を発信したら、日銀の某政策審議委員から意見校交換を求められたときもありました。でも、日銀の金融政策が大きく変わることありませんでした。
(*注:リスク=「リスクプレミアム」ではなく、=「不確実性」です)

当時(2016年)に公開された映画にかけて、GPIFは株式市場では自然的な現象の「クジラ」かもしれないけれども、日銀は人為的に生まれた異次元な「シン・ゴジラ」と唱えました。けれども「出口なき」の状態が長年続き、現在に至ります。とうとう日本銀行はGPIFを超えて、(間接的に)日本企業の最大な株主になっています。これは、先進国の資本市場であるべき姿でしょうか。

また、国の中央銀行のバランスシートに莫大なリスク資産を抱えると予期せぬ大ショックが起こって歯止めが利かなくなる市場の大暴落のときに、どのようなリスク・シナリオが考えられるのか。

日本銀行の純資産(2020年9月末)は4.2兆円です。一方、株式ETFだけでも(同)34.2兆円を保有しています。自己資本と比べて8倍の超高レバッレジです。私は90年代後半に大手のヘッジファンドに勤めていましたが、株式というリスク資産をヘッジ無しで。これほどレバッレジをかけているファンドを聞いたことありません。少なくとも破綻していないファンドでは。

もちろん政府機関はヘッジファンドは企業とは異なります。資産が痛んでも政府が借金を増やして資本注入すれば良いからです。ただ、通貨の番人であるはずの中央銀行に資本注入が必要になる。。。そのシナリオにおいて、通貨の価値はどうなるのでしょうか。著しく棄損されるはずです。

円安だから良いじゃないか? いやいや、日本はエネルギーや食糧を輸入している国です。その物価が急騰しているのに、賃金の上昇が全くついていけない状態で日本人の生活が困窮に陥ることは明らかです。

「出口がない」と日銀は意思表明すべきではないかと平山さんは提案しています。つまり、日銀が保有しているETFを個別銘柄へと分解して基金で保有するという案です。

なるほど、と思うところがあります。個別銘柄であれば、日銀の基金が株主としてきちんと議決権行使などコーポレート・ガバナンスを実施することができます。また時価40兆円ぐらいの株式ポートフォリオなので、全体の配当利回りが1.7%と想定すると、年7000億円ぐらいのキャッシュフローが生じます。

去年から浮上している「10兆円大学研究基金」の政策構想は、とりあえず、年5000億円程度の規模から始まりますが、財源は財投、つまり借金になり、せっかく大切な政策であることに関わらず、異論の声が色と上がっています。

であれば、日銀保有している株式ETFを国庫が託する基金に譲渡すれば、その配当利回りだけで、大学研究基金の財源が確保できます。

極めて単純な話でありますが、シンプルなことがベストな解決になることもありえます。

ただ、ここで大事なポイントが、その「基金」が日銀のバランスシートに乗っかったままであれば、通貨へのリスクも残っていることになるます。いかに、この株式ETF基金を日銀のバランスシートから外すという工夫が大事であるかと考えます。

いずれにしても、このような異次元な「出口」政策は日銀だけで決定できることではなく、政治主導が必要になります。ただ、直接的に票につながることない、けれども将来の日本の経済社会のリスクを抑える政策に、どれほど政治家から関心を持っていただけるのか。この課題は残ります。

#日経COMEMO #NIKKEI

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