株式市場における「格差」

2020年は、人類史上最大級なパンデミックで世界の人々の生活に制限され、多数が困窮に陥った年でした。そんな「ショック」を受けながらも、株式市場にはV字型で回復するだけなく、12月29日に日経平均株式指数は30年ぶりの高値を更新して、1年の高値圏で本日に2020年の取引を終えました。

株式市場は、世の中の経済の実態を正確に反映しているように見えないかもしれません。ただ、株式市場とは、必ずしも現況ではなく、新たな情報を常に消化し続けながら、将来の展開を値に「織り込む」傾向があります。

景気の足元は、感染の第三波を受けながら、コロナ禍の初期のショックを和らげる緊急財政支出の影響がはげ落ちている経済指標が目立ち始めています。ただ、現状では来春ぐらいまでの景気後退を、ある程度、株式市場は織り込んでいる感じがします。追加財政支出への期待が高まるからです。

むしろ、3~4か月後に新型コロナ・ウイルスの波が(ワクチンや集団免疫など通じて)収まり始め、景気が自立回復を見せ始めたときこそ、株式市場には下値を確認するリスクが高まるかもしれません。追加財政支出など政府からの資金注入の期待が後退するからです。

また、そもそも株式市場の動向の可視化の枠割を果たす株式指数が実態を表しているかという課題もあります。

12月初旬に掲載されたこの記事では、日経平均225株式指数の上位5銘柄は年初比58%上昇している一方、他の220銘柄5%安いという解説がありました。日経225の上位5銘柄と米SP500の上位5銘柄の今年のパフォーマンスが、ほぼ同じであるというとても興味深い分析も紹介されています。

つまり、全ての銘柄がV字型回復している訳ではなく、ごく一部が全体の指数を引っ張っているということになります。「格差」は社会現象だけではなく、株式市場でも生じている現象なのです。

そもそも財政政策の意義とは景気後退の際に特に社会的弱者を支えることだと思いますが、超金融緩和の政策と合わせると、社会や株式市場における格差を煽っている可能性があります。それはお金とは「成長」へと流れる性質があるからです。供給されたお金は低成長分野ではなく、高成長分野へと流れます。

また、日経225の上位5銘柄とはファーストリテイリング、ソフトバンクグループ、ダイキン工業、東京エレクトロン、エムスリーになりますが、30年前に上場していたのはダイキン工業のみです。だから、「日経平均が30年ぶりの高値」ということは、本質的にあまり意味がありまぜん。同じものを30年前と現在と比べている訳ではないので。

ニューノーマルでは「全体」が勝ち組になるということはあまり期待できず、K字型という株式市場の「格差」の傾向が当面続きそうです。

政府がお金を経済にジャボジャボ供給しても、「格差」は是正できないということは株式市場だけではなく、社会においても深刻な問題です。低所得層は政府から支給されたお金を直ぐに生活維持に使う必要があるので貯蓄(資本)にはつながらず、経済システムを通じて流れ、結局、もともとお金(資本)を持っているところに貯まる現象があるのではないでしょうか。

格差の存在は現実です。ただ、その格差が是正されることなく、拡大続けることに、株式市場であろうが、社会であろうが、その行方は良い結末にはならない可能性が高まるという現実にも、私たちは目をそらしてはならないと思います。

#日経COMEMO #NIKKEI

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