新しいお金の流れと人材育成を目指す官学ファンドへ

これは!長年、色々なところで提唱していた構想が、他でもシンクロしていたようです。別のところから生じるシンクロが観測されるということは大きな変化の兆しでもありましょう。

15~20年前から私が着眼していたのは米国の「5%ペイアウト・ルール」です。毎年、基金が5%を寄付や助成金で社会に還元にすれば、米税制方上「非営利」として認められます。ということは、残った95%の資産を長期的に年率5.3%で運用できれば、その基金は持続的に維持できるこになります。

長期的に年率5.3%以上の運用利回りが実現できれば、その基金の規模はむしろ拡大します。複利効果(雪だるま式)が生じる長期投資もカギです。基金が拡大すれば、毎年、大学への「ペイアウト」の総額も増えます。

長期的に、5.3%以上の運用利回りを確保するためには債券投資だけでは無理です。日本では「元本保証」という呪縛があるために、運用利回りによる収益の実績は微々たるものです。国債の利回りはほぼゼロなので、仕組債などむしろ色々な表面上では見えないリスクを抱えている場合が多々です。

米国の「5%ペイアウト」モデルでは基金の運用収益を求めるために成長性ある株式投資に配分しています。また、長期的にコミットできる性質の基金なので流動性リスクへの許容もあり、PEファンドやベンチャーファンドにも積極的に投資しています。

社会的活動に不可欠な財源を創出することと同時に、良質なリスク・キャピタルを資本市場にも提供する。これが、米国の「5%ペイアウト・ルール」であることに感銘を受けて、日本社会でもこの考えを応用すべきと提唱してきました。

米国の「5%ペイアウト・ルール」の起源になったのが大学基金の資産運用です。ハーバード大学基金やエール大学基金が日本では注目を浴びますが、大元はCommonfundという小規模の大学基金を共同運用する非営利の資産運用会社です。

1960年代後半に米フォード財団が助成した研究で、大学基金の資産運用は債券利回りの収入だけに頼っていると教育・研究費の財源が減少する傾向が避けられなくなるので、株式を含む長期投資をTotal Return(元本益および金利・配当の再投資)という方針で運用すべきという結論になり、Commonfundが設立されました。

予算は年度ごとに捻出して使い切るという「フロー型」が長年の慣習となっているマインドセットでは、せっかく確保してある財源の5%しか使えないことに不満があるかもしれません。ただ、この構想で大切なことは長期的な視野で、使い切る財政投資ではなく、次世代にも「ストック」として残る、また、資産運用の成果によっては成長する財源を創造しているという視点であります。

コロナ禍を経て新政権が発足して、この官学基金の構想が立ち上がったことは極めて重要であり、このタイミングを逃してはなりません。

基金の資産運用はゼロ温暖化ガス実質ゼロ等を推進するESGを重視する世界の上場株式投資へ注力すべきでしょう。サステナブルな世の中を促す成長性ある資金を世界へ供給することで、新しい時代における日本のプレゼンスを高めることにもつながります。

持続可能な経済社会には様々な新しいテクノロジーの開発および実業化が不可欠になりますので、そのような新しいイノベーションを促す世界のベンチャーキャピタル投資にも積極的に取り組むべきでしょう。金銭的な運用収益への期待だけでなく、新しいベンチャーから生じる知的・人的資本のネットワークも日本の大学へとループバックする協働体制も構築できるでしょう。

そして、現在、世界の運用業界でニッチから市民権を得はじめているインパクト投資を周遅れで追い付こうとしている日本で推進できます。インパクト投資とは、良き社会的インパクトを意図した事業に持続性があるように経済的リターンも求める、社会と経済の両立です。

新興国へのインパクト投資は過去10年で20%以上の運用収益の実績あるファンドが少なく、長期的な基金運用に値する資産クラスになります。また特にコロナ禍で社会的・経済的な困窮に陥ている新興国の持続可能な成長を支えるという日本の外交の側面でもプラスになります。

新しい知とお金の循環世界へ。その新しい流れをつくる人材も育む。官学ファンドであるからこそ形成できるエコシステムであります。令和時代の成功体験が「メイド・ウィズ・ジャパン」になるための重要な政策投資であると思います。

#日経COMEMO #NIKKEI

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