企業の社会的インパクトが会計制度に

「インパクト投資」という言葉を最近ちょいちょい耳にするようになりました。10~15年ぐらいから始まった投資の考え方であり、運用業界のニッチ分野から徐々に市民権を得ています。

社会的インパクトと経済的リターンの両立である「社会的インパクト」は、経済的リターンを追求する投資家から見ると矛盾かもしれません。一方、社会的課題を解決しようとするNGOから見ると本当に重要なところにお金が回らなくなるという批判もあるでしょう。社会的インパクト経済的リターンの両立なんて難しくて出来っこないというのが、今までの一般的な反応でした。

ただ、ESG投資という時代の流れもあり、今年の新型コロナ・ウイルスの世界的な流行が悪化させた社会的格差の問題、そして猛暑で体感している温暖化という地球的課題の解決には新たな価値観を持ったお金の循環が必要であるという意識が世の中では高まっています。

社会的インパクトと経済的リターンの両立。「か」ではなく、「と」。インパクト投資とは、日本の資本主義である渋沢栄一が提唱した「論語と算盤」の現代版であると言えます。

なんちゃってインパクト投資とホンモノのインパクト投資を分けるひとつの重要な判断基準は、投資先企業の社会的インパクトを測定する「インパクト・メジャーメント」になります。インパクト投資界では、たとえば、米国を拠点とするGIINのIRIS+など、そのメジャーメントについて多くが研究および実践に取り組んでいます。

まだ、「売上前年比」や「ROE」や、ナンボ儲かったという経済的リターンのメジャーメントで用いるような共通言語化には至っていませんが、インパクト・メジャーメントの取り組みは試行錯誤を繰り返しながら進んでいることに間違いありません。

そのインパクト投資の世界的ネットワークであるGSG(The Global Steering Group for Impact Investment)の会長のSir Ronald Cohenさんから教えていただいたハーバード大が研究があります。Impact Weight Account。つまり、企業の社会的インパクトを会計制度に表現する試みです。

インパクト・メジャーメントは、インパクト投資という分野に留まることなく、いずれ上場企業の「アフターESG情報開示」として現れるであろうというがCohenさんのお考えです。私は同感です。

Cohenさんは1か月ぐらい前にFinancial TimesのOp-Edで本件についてお考えを示しました。我々が知っている会計制度の常識とは実は1929年に起こった米国株式市場の大暴落が招いた恐慌時代という大ショックに対して企業の透明性を高めることから始まっているようです。そして、当日の企業は「そんなことは無理」と拒否したようです。

現在は大暴落は起こっていません。ただ、新型コロナ・ウイルスは世界中に大きな社会的な、経済的な大ショックをもたらしています。これからの経済社会の行方はわからない。だからこそ、GAFAMなど一部のテクノロジー会社が全体を引っ張っている株式市場の上昇において、企業の透明性を高める声が上がることは不思議ではありません。そして、社会が地域的にも所得的にも分断されている世の中になっているからこそ、企業の社会的インパクトへ関心が高まることも自然な流れです。

この新たな時代の流れについて、エーザイの自社のESGと企業価値の実証研究から基づいているESG Value Based財務諸表についてCFOの栁良平さんと対談する日経ビジネスのウェビナーで言及したら、さっそく日本経済新聞の小平竜四郎さんがファローアップして記事化してくれました。とてもありがたいことです。

このような動きがあることに、是非とも日本企業や投資家で認識が広まってほしいです。そして、「知らないところでルールが決まっている」とぼやくだけではなく、今から積極的に世界のルールメイク首を突っ込んでいただきたいです。

#COMEMO #NIKKEI

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