_どこから行っても遠い町(川上弘美)
_どこから行っても遠い町(川上弘美)
一度読んですぐ読み返すということはあまりしないのだけれど、読んでる途中で前の話に戻り、さらには読んだ後もう一度読んでしまった。
なんだろう。
この感情はなんだろう。
それがわからなくて、また読み返してしまったのかも。
ある商店街を舞台に、そこに住んでいる人々の話を紡いだ短編集。
商店街を中心に、物語の主人公も時系列も変わっていく。
その不思議な感覚のせいか、商店街に住み着いた年寄り猫を通して人間模様を見てるんじゃないかと思った。
小屋のある屋上
夕つかたの水
長い夜の紅茶
濡れたおんなの慕情
…
タイトルもそれぞれ全く関連性がなくて、
その時間のその物語のタイトルというだけ。
「生きる」ということ。
さまざまな「生き方」を見せられている。
そんな風に思ってもみた。
でも、きっと私は単純にこの作者の選ぶ言葉がいつも好きなんだろうなと思う。
「大きくなると、自然に、いろいろなことがわかってしまう。」
「あたしの目には、それまでうつらなかったものが、うつるようになる。そしてまた反対に、うつっていたものが、うつらなくなる」
「腕をさしのべるようにしながら、お母さん何かにこがれてるみたいな表情で、空を見つめていた」
夏の夕方があまり得意でない少女の、お母さんがしていた仕草。
理由は明記されていないけど、なんだかわかるなぁと思ってしまうところ。
「平凡と、平均的とは、ちがう。」
という話からの物の考え方。
決して難しい言葉を選ぶわけではないのに、軽すぎる言葉ではなく、綺麗で滑らかな日本語の手触りがそこにはある気がする。
最近少し浮かれ気味だったから、声や言葉も上ずっていた気がする。
低く、落として、落ち着かせて、響かせる。
その上で、綺麗でなめらかな手触りが感じられる日本語を私も紬だしていきたい。
「このころのあたしの記憶は、みんな、はかないのです」
end
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