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カルビー&イトーキの代表が語る「幸せな経営」/第9回「みんなで幸せ研」トップインタビュー

「幸せ経営」や「ウェルビーイング経営」について、各社のトップ・経営層の皆さんはどのように考えているのでしょうか。

カルビーの代表取締役社長・伊藤秀二さんとイトーキの代表取締役社長・平井嘉朗さん、「みんなで幸せでい続ける経営研究会」共同代表で慶應義塾大学大学院にて幸福学の研究を行う前野隆司教授で話し合いました。

プロフィール

カルビー株式会社 代表取締役社長兼CEO 伊藤秀二さん
1979年カルビー株式会社に入社。工場での研修から営業、生産、マーケティングなどさまざまな部署を経験し、2009年代表取締役社長就任

株式会社イトーキ 代表取締役社長 平井嘉朗さん
1984年株式会社イトーキ入社。関西法人販売課長、人事部長、営業戦略統括部長、執行役員営業戦略統括部長を経て、2015年代表取締役社長就任

「みんなで幸せでい続ける経営研究会」共同代表・慶應義塾大学大学院 前野隆司教授
慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科教授。研究分野は幸福学、感動学、共感学、イノベーション教育、コミュニティデザインなど。『幸せのメカニズム』『幸せの日本論』など著書多数

自主性や主体性があるから仕事が楽しめる

前野:カルビーさんは2021年9月に丸の内本社オフィスをリニューアルなさいました。私も新しいオフィスを拝見しましたが、とても自由な雰囲気ですよね。

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カルビー新オフィスの様子

前野:役員の席もオープンで、従業員の皆さんが気軽に入れるようになっているのが印象的でした。立ったまま仕事ができる場所があるなど、多様な働き方にも配慮されていて「ここで働きたい」と思いました。

伊藤:ありがとうございます。2020年7月にモバイルワークを原則とする『Calbee New Workstyle』を導入し、出社率が10%以下になったことから、2フロアあった本社オフィスを1フロアにし、新しい働き方に適した改装をすることになりました。

以前はいわゆるオフィスという感じでしたが、今回は施工をお願いしたイトーキさんからアイデアをいただき、堅苦しい雰囲気ではなく、さまざまなタイプの仕事が自然にできるような空間にしていただきました。

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カルビー新オフィスの様子

平井:今日の鼎談に向けて裏話を仕入れようと思い、関係者に「どうだった?」と聞いたんですよ。そうしたら、苦労話が全然出てこない。一言で言うと、今回のカルビーさんとのプロジェクトは楽しかったみたいですね。

カルビーの皆さんには北の大地に対する思い入れが一貫してあり、そこに当社のメンバーが引き込まれていったような感じだったのかなと思います。とても濃密な時間をご一緒させていただいたことが「楽しかった」という言葉に現れているのでしょうね。メンバーからそんな話を聞けて、とても嬉しくなりました。

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エントランスにある大きなカルビーロゴが印象的

平井:僕が印象的だったのは、カルビーの皆さん一人一人が自立していることです。新しいオフィスに出社する従業員の皆さんの中には、これまでと使い勝手が異なることに戸惑う方もいらっしゃるものですが、今回はそういう方がほとんどいらっしゃいませんでした。

伊藤:自立は重要視していますね。従業員には「自分で考え、自分で決めてほしい」と伝えていて、実際に一度任せると決めたことは、自分の裁量で好きにやってもらえるようにしています。

今回のオフィスリニューアルでも、「仕事をするためだけの場所ではなく、従業員やお客さまを含め、みんなが集まれる場所にしよう」という大枠は伝えましたが、細かい内容はメンバーに任せています。

そういう中でメンバーが自由に考え、このようなオフィスができたことを私もうれしく思っています。予想以上にガラリとオフィスが変わって驚きましたが(笑)

オフィスリニューアルの打ち合わせをするカルビーの皆さん

前野:私は幸せの研究をしていますが、「主体性や自主性が幸福度を高める」という研究結果はたくさんあります。例えば京都大学名誉教授の西村先生の研究によると、自己決定は幸福度を非常に高めるそうです。

「自由にやっていいよ」という中で、伊藤社長が想定した以上の伸び伸びしたオフィスが作れるカルビーの社風は素晴らしいですし、そのプロジェクトをイトーキの皆さんが楽しみながらやれたのも自主性や主体性があるからなのでしょうね。

「仕事は楽しいものではない」という人が多い中、今回の鼎談で最初に出てきた言葉が「楽しい」だったのは象徴的だなと思います。

「幸せになる力」は鍛えられる

平井:僕は「楽しむ」と「幸せ」はかなり近いものだと思っています。どちらも主観が100%であり、本人の捉え方次第です。「仕事がつらい」と思うのは簡単ですが、その時に例えば「これは忍耐力を鍛える良い機会だ」と考えられれば、少しは楽しい方向に意識が向くかもしれませんよね。

人間は感情の動物ですから理屈通りにはいきませんが、僕自身はできるだけそう在りたいですし、そういう考え方をしてみると働く景色は変わって見えるのではと思います。

前野:「どうすれば幸せになれるのか」は平井社長のおっしゃる通り、気の持ちようなんですよね。「気の持ちよう」を上手くコントロールして幸せになるには、やりがいや主体性が重要です。

「みんなで幸せ研」共同代表・前野教授

前野:そのベースとなるのは「これをやってみよう」というチャレンジ精神が持てる環境と、人とのつながりです。つまりは人間関係が良く、共に働いていることに心理的安全性がある状態。他にも個性が生かせるなど、さまざまな条件が積み重なり、幸せな気持ちになりやすい職場とそうでない職場があるわけです。

平井社長も伊藤社長も、「幸せに働いてほしい」という思いがあり、その理念が浸透しているから従業員の皆さんが一丸となって働けているのだと思います。研究者としてはお二人に「幸せに働く秘訣」をお聞きしたいところです。

平井:「つながり」は自分にとって幸せを感じる大きな要素だと思います。あとは「役に立っている」感覚でしょうか。世のため人のためのようで聞こえはいいですが、「お役に立ちたい自分」がいるわけで、結局は自分のためなのだと思います。

他にも成長の実感や家族の健康など、幸せの要素はたくさんありますが、あくまでベースとなるのは、先ほど申し上げた通り「どう捉えるか」です。

イトーキ・平井社長

平井:例えば怪我をして不自由な生活を送った時に、普段の当たり前のありがたみを実感することがありますよね。そういう「普段は意識しない日常の当たり前」を幸せに感じられるのは、人が持つ力だと思います。

そして「幸せになる力」は能力ですから、僕は鍛えられるものだと考えています。「当たり前の日常を幸せと思える力を持ってやるぞ」と意識することで、幸せで居続けられるのではないでしょうか。

前野:おっしゃる通り、利他的で周りに貢献する意識がある人は幸福度が高く、利己的で自分勝手な人は幸福度が低い傾向にあります。また、成長と幸福度にも相関関係があり、嫌々働いている成長意欲のない人は総じて幸福度が低いのです。

そして「当たり前を幸せに感じる」というのはとても面白い考え方だと思います。自己肯定感が低い人は幸福度も低い傾向にありますが、それはまさに日常の当たり前をネガティブな視点で見過ぎる癖が付いているということ。平井社長がおっしゃるように、その癖を直すことはできると思います。

全従業員に活躍してほしい気持ちと、それができていないもどかしさ

伊藤:「何かの役に立つ」ことは私も幸せにつながるように思っています。

私は長く営業をやっていましたが、当時はお客さまからお褒めの言葉をいただく瞬間が最も充実感がありました。そこからやりがいや生きがいのようなものが生まれてくるとも思います。

一方で上司になると、「みんなが生き生きと働いているだろうか」が気になるようになりました。

カルビー・伊藤社長

伊藤:チームで目標を達成してみんなで喜びを分かち合ったつもりでいても、それぞれのメンバーにとってどうだったのかは別の話です。人によって何を幸福に感じるかは違うからこそ、中には同じように喜びを感じられなかった人もいるかもしれません。

みんながやりたいことをやれていて、豊かになったり幸せになったりといった感覚が持てているのか。そういったことが私はとても気になるのですが、一方で社長の立場になると、見るべきものの規模が大きくなり過ぎてしまい、個々人へ思いを巡らすのは限界があることも感じています。

全ての従業員が活躍してほしいという気持ちを強く持っているのですが、どこかでそれができていない感覚もあり、もどかしさがありますね。

今回のオフィスの1フロア化も、ありがたいことに他社さんが視察に来るなどご注目いただいている一方で、本社だけが進んでしまっている面があることは否めません。

生産現場で働く従業員は、コロナ禍でも現場のスタッフは感染を恐れながら出社している現状があります。最も多くの人たちが働く現場の環境を変えられていないことへのジレンマは感じていますね。

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カルビーの工場の様子

前野:若い頃は「自分が成し遂げた」「自分が何かの役に立った」といった自己効力感が幸せにつながっていたところから、経営者になってみんなの幸せを願うようになったのですね。お客さまが喜んでくださること、社員一人一人が幸せであることを、本当に願っていらっしゃるのを感じます。

意見を引き出すには、アイデア創出を刺激する工夫も必要

平井:当社はバリューとして「オープンでフリーでフラット」を掲げています。お互いの意見を言い合える関係性をつくり、個人の自由な言動を決して否定しない風土をつくろうとしており、それがより幸せを感じられる環境なのではと考えています。

そういう環境を目指す中で感じているのは、「意見を言えないのではなく、実はそもそも言いたいことがないのではないか」ということです。

当社の歴史は非常に長く、伝統的な昭和の会社の慣習を引き継いできたところもあり、上司からの指示命令をこなしつつもプラスアルファの仕事をやるといった、従来のエリートのような人材が重宝され、上の立場に立つことを繰り返してきた面があります。

そこから考え方を変え、自分の意見をしっかり発信できる力を一人一人が身に付けることが本当の意味での「オープンでフリーでフラット」を実現することであり、ダイバーシティの質を高めることにつながるように思っています。

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イトーキのオフィスの様子

平井:そういう意味では、会社の幸せは一人一人が安心して主張ができ、それを受け止める環境があること。そして同じ目標に向かうことが組織の存在意義の一つですから、そういう環境がある中で目標に向かう一体感が「会社の幸せ」を表現するのに近い感覚な気がします。

伊藤:2009年に私が社長になった時、最初に従業員の皆さんへ送ったメッセージは「自立的実行力をつけなくてはいけない」でした。当社も歴史は長く、トップの言うことを真面目にやっていれば成果が出せた時代もありましたが、今はそうではなく、自分で考え、決め、実行できるように考え方を変える必要があります。

それができるように経営体制も変え、ある程度変わりつつあるとは思いますが、その一方で課題はどんどん大きくなっている感覚もあります。「自分で決めて自由にやっていいよ」と言ったところで、平井社長がおっしゃるように、大きい構想自体が浮かばない事実があるわけです。

そういう中で必要なのは、上からだけでなく、横も含めて刺激し合いながらアイデアを出すこと。そんな刺激のメカニズムがなければ、自己決定できる環境があっても、結局は守りに入ってしまうように感じています。モチベートの工夫が必要ですね。

平井:個人が新しいアイデアを出し、成長するには、社内での経験だけでは限界がある。そういう発想に基づき、現在当社では『OpenWorking』という新事業を立ち上げようとしています。 『イキイキと 「働く」を愉しむ
 ワーカーがあふれる社会にする』を事業ビジョンに、越境体験のプラットフォームを作ることに挑戦します。

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平井:具体的には、数社のメンバーが集まり、6カ月にわたってグループでの壁打ちやワークショップなどの場を一人一人が自ら設計し、自分だけの成長をデザインしていくプログラムを提供します。

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平井:参加企業のオフィスにコワーキングスペースを用意し、企業の枠を超えた異業種交流を促すなど、いわゆる武者修行をイメージした事業で、トライアルではカルビーさんにもご協力をいただきましたね。

伊藤:そうですね。まさにアイデアを刺激するメカニズムになればいいなと期待しています。自分の能力を最大限発揮できるフィールドがあることを従業員に見せ、好奇心を刺激する発想を持つことは重要なポイントだと思いますね。

『OpenWorking』トライアルの様子

人間は幸せになるために生きているのではないか

伊藤:幸せな経営について考えるとき、「業績」と「幸福度」をどう考えるかは非常に難しいテーマです。企業として業績を上げるのは必須ですが、間違った上げ方をしてしまうこともあります。

当社で言えば、原材料の多くは農産物であり、農家さんと深い関わりがあります。自然と人間の営みを調和させるような仕事ですから、突拍子もなく生産性を上げることに振り切ってしまうと破綻してしまうわけです。

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農家の皆さんとフィールドマン

伊藤:一方で、業績を上げるために急成長を目指す経営手法を選ぶ局面もあります。私自身「これでステークホルダーの皆さんが幸せになるのだろうか」「どこかに負担をかけていないだろうか」と悩みながら都度判断をしています。

例えばある食品企業の経営者の方は、商品がヒットした時に工場を増やし、24時間操業で生産をしたものの、間もなくその体制を止めています。確かに売上は伸び、従業員の給料も上がりますが、「働いている人たちの生活に無理が生じてしまう」ことが理由でした。

当社も以前は繁忙期のみ工場の夜間稼働をしていましたが、今はより利益を出すために、大半の工場が24時間操業です。狙い通り利益は出ましたが、就職先を探す学生からは「三直になってしまうからカルビーの工場には行きたくない」という声も出るようになりました。夜間は人がいなくても回るように工場の体制を変えることは、生産部門の課題となっています。

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カルビーの工場で働く皆さん

伊藤:つまり単純に業績を上げることだけに集中すると、歪みが生じるということです。利益を上げ、組織を大きくするには長期的な視点が必要なのだと実感しています。

前野:お話を伺っていて、伊藤社長には愛があるなと感じます。これから入社される方も含め、従業員の皆さんのことと、会社として利益を出すことを常に同時に考えていらっしゃる。それこそがこれから求められる経営の在り方だと思います。

平井:今の伊藤社長のお話にとても共感します。企業はもちろん収益を上げ、企業価値を向上させ、ある程度儲からなければいけません。それが前提ではありますが、もっと根源的なところに思いを馳せると、「人間は幸せになるために生きているのではないか」と思うのです。

最近の企業のSDGsの取り組みも近いものがありますが、「利益を出して企業が生き残るには、地球環境や個人の幸せを考える必要がある」という文脈で語られることが多いように感じています。若い方の価値観はどんどん変わり、働くことの意味も大きく変わろうとしているわけですからね。

ただ、「利益を上げるために幸せを考える」という発想は、目的と手段が逆ではないでしょうか。

イトーキ・平井社長

平井:人が幸せに生きていくことが究極の目的であるならば、組織化した集合体である企業は世の中に価値を提供することで利益を上げなければいけない。極端な言い方をすると、利益を上げるのは手段なのではと思います。

決して利益をないがしろにするわけではないですが、僕は「幸せに生きること」を志として持っていたいですし、世の中が幸せになること自体を目的にするような方向性に進んでいくといいなと思っています。

前野:欧米は利益至上主義的な傾向があり、最上段にあるのは利益です。利益を上げるには生産性の向上が不可欠であり、そのためには従業員が幸せな状態にあった方がいい、という順番で幸せを考えています。

それに対して、私は「企業が幸せを最優先とし、それを追求することで利益が自然とついてくる」という考え方を日本から世界に広めたいと思っています。思い描いていた理想論が経営者の口から出てきたことに「さすが日本企業だな」と感銘を受けました。

平井:少し理想論に走り過ぎですし、経営者がこういう話をすると青臭く聞こえますよね。でも僕はいよいよ経営者が本気になって、青臭いことを発信する時代が来ているのではという気がしています。

前野:ぜひ積極的に発信してください。近江商人の「三方よし」の考え方をはじめ、稲盛和夫さんの「物心両面の豊かさ」など、実は日本の経営者の多くが「社員と社会の両方を幸せにする」ことを最上段に掲げることをおっしゃっています。

世界の長寿企業ランキングは日本企業が非常に強いですが、これは短期的な利益ではなく、長期的なみんなの幸せを考えているからこそ。幸せな従業員は苦しい時も「我が社のために頑張ろう」と団結して頑張れますから、結果的に長期的繁栄につながるのだと思います。

伊藤:「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」という言葉がありますが、まさにビジネスはそういうものだと思っています。渋沢栄一の『論語と算盤』もそうですが、算盤に論語が付いていることがビジネスの本質であり、それがあるから成長できるのは間違いありません。

重要なのは「最高」ではなく「最適」

伊藤:先ほど利益だけを考えると歪みが生じるとお話ししましたが、そもそも利益には限界点があるような気がしています。利益を最大化することを続けていると、どこかでおかしくなる。全てを最大にしようとやってきた結果、環境問題が生じているわけで、「最高」ではなく「最適」を念頭に置くことが重要だと思います。

カルビー・伊藤社長

伊藤:一方で、企業にはステークホルダーに対する責任がありますから、株主をはじめ「最高」を目指すことを求められる場面もあります。当社の経営としてはプライオリティーを「顧客・取引先」「従業員とその家族」「コミュニティ」「株主」の順番で考えています。

これは決して株主を軽視しているのではなく、「お客さまや取引先を何よりも大切にする発想でビジネスをしなければ、利益は出ない」ということです。この順番で考え、行動するからこそ、持続可能性が生まれ、結果的に株主への長期的な貢献ができるわけです。

前野:優先順位として順番をつけてはいるものの、顧客が一番大事で株主はそうではないという序列の話ではなく、「この順番で考えることで、結果的にみんなにとって良い状態がつくれる」ということですよね。

伊藤:おっしゃる通りです。例えば判断に迷った場合に「この順番で考えて答えを出す」というように、考え方の基準として置いているイメージです。

前野:アメリカは株主資本主義からマルチステークホルダー・プロセスに移行していますが、やはり顧客を大事にして良いサービスを提供することで、結果として従業員が生き生き働くことができ、利益が出るわけですね。株主を最後に据えるのはなるほどなと思いました。

これからは企業が「幸せ」を模索する時代になる

前野:最後にウェルビーイング経営の可能性、未来について、ぜひお考えをお聞かせください。

「みんなで幸せ研」共同代表・前野教授

平井:繰り返しになりますが、僕は「幸せになるために生きる」のが人間の本質だと思います。企業の目的を「幸せ」に近づけるような経営の在り方を、これからは多くの日本企業が模索する時代になっていくでしょう。ウェルビーイング経営は向かうべき方向性として、正しいと思います。

先ほどお話しした『OpenWorking』は、まさにウェルビーイングの観点での新事業です。「働くを楽しむ」こととウェルビーイングには深いつながりがあると思いますので、新事業を通じてこの考え方を広めていきたいですね。

『OpenWorking』トライアルの様子

伊藤:ウェルビーイングをいかに単純化し、その目的を納得してもらうかが一つのポイントだと思っています。

例えば女性活躍の場合、当社の従業員の約半数が女性であり、それならば管理職も女性が同じ割合でいるのが自然です。そう説明すると、みんな納得するんですね。つまり「世の中で女性活躍を推進する流れがあり……」といった話をしても、「なぜカルビーでそれをやるのか」の答えにはならないわけです。

ウェルビーイング経営も同じく、もっと分かりやすく目指す先を提示できれば、一気に進む気がしています。皆さんにどうやって腹落ちしてもらうのか、そのためのワードをまずは作りたいですね。

前野:研究者として理想論を言うのは簡単ですが、お二人は経営者として利益を出し、会社を成長させることと、幸せで楽しく働くことを同時に考えていらっしゃいます。

残念ながら日本では「まずは利益を出すことが第一で、幸せは二の次」と考える経営者がまだまだ多いですが、お二人は顧客や従業員、株主など、関わる人たちみんなが幸せになることを、それぞれのやり方で模索されている。そのことに感激しましたし、日本の将来は明るいなと希望が持てました。

伊藤社長がおっしゃるように、幸せな経営やウェルビーイングの考え方を腹落ちさせるためにも、研究会として「幸せに働くとは何か」をみんなが理解し、納得できるように伝える方法を考え続けたいと思います。

そして平井社長がおっしゃる「人間は幸せに生きるべきだ」というある種の青臭いメッセージを、研究会でもきちんと発信したいと思いました。その具体的な方法を日本の大手企業であるカルビーとイトーキが考えていることが本当に心強いですし、私たちも単なるウェルビーイングブームで終わらせず、人類が幸せになることを企業が担う世界を作るために、頑張っていきたいと思います。

本日は充実したお話をありがとうございました。

取材・文・構成・編集/天野夏海

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