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愛鳥のブラック企業奮闘記 ~第3話 恩師との出逢い~

この日は、休日だったが、私の気持ちは沈んでいる。そんな私を見た妻が口を開く。

妻 「何かあったの?」
愛鳥「ああ」

私は、黙り込み、しばらく沈黙が続いた。私には、どうしても妻に伝えるべき事がある。しかし、妻に対してどう伝えて良いのか分からなかった。

休日の私は、いつも和やかにいるだけに、妻が異変を察し声を掛けたのであった。

妻 「いつもの晴喜と全然違うから、よっぽどの事があったんだなと思って。」
愛鳥「ごめん。自分の感情を表に出してしまい。」
妻 「いいのよ。晴喜が感情を露わにするなんて珍しいね。」
愛鳥「そうだね。」

そして私は、また黙り込んでしまった。黙っているだけでは前進しないことは分かっている。この状況を打開しないと。とにかく私は必死だった。しかし、その日は私自身ブレており、今、決断しても良い結果は生まれない。

愛鳥「ごめん。気持ちを整理したいから、散歩に行ってくる。」
と妻に言い、私は家を出た。

休日になるとこうして散歩に行ったりするが、いつも妻と息子と一緒に行くので、こうして一人で散歩するのは久しぶりであった。

「申し訳ございません。」
私は、心の中で呟いた。

「私に社運を託して頂いたのに、申し訳ございません。」
「こんなにも無能な上司で、申し訳ございません。」
「あなたを泣くほど苦しめてしまい、申し訳ございません。」
「こんなにも情けないお父ちゃんで、申し訳ございません。」

このように、私は何度も心の中で謝り続けた。

その時だった。

「愛鳥さん、謝るのは私の仕事ですよ。申し訳ございません。」

突然、誰かが私にそう語りかけたような気がした。そして、その声はどこか懐かしい・・・。

「左京課長」

突然の出来事であった。私の中で、一気に過去の記憶が走馬灯の如く駆け巡った。気がつけば私の頬は涙で濡れていた。

今から15年前、日本経済を大きく震撼させた出来事はご存知だろうか。そう2008年のリーマン・ショックであり、当社も大打撃を受けた。
当時、私は25歳。

このリーマン・ショック真只中で、私は恩師との出逢いがあった。

恩師の名は左京(さきょう 仮名)。
当時の年齢は57歳で、某メーカーの課長職の方であった。

左京課長の伝家の宝刀は、誠心誠意を込めた「申し訳ございません。」
四の五の言わずにとくかく謝るその姿を見て、当時の当社社員は、「申し訳ございませんの左京」と揶揄していた。

当社は大手商社だけに多くのメーカーと取引をしているが、そんなメーカーの中でも某メーカーの左京課長は、当社に来社されることが多かった。

当時はリーマン・ショックにより、当然、左京課長の会社でも大打撃を受けており、雇用を守るためには、自社製品を値上げせざるを得ない状況であった。

左京課長は当社をはじめ各取引先に出向き、値上げを申し入れするためにひらすら頭を下げたのであった。

左京課長が、他メーカーおよび当社の営業マンと一線を画している。
当時のような決して抗うことができない理不尽な事故に対しても、一切言い訳はしなかった。

当時の私は、各メーカーから寄せられる情報を当社の全社員に向けて発信する業務を行っており、昨今、値上げラッシュがニュースで報道されているが、当時も負けず劣らずの各メーカーからの値上げラッシュで私は忙殺していた。

当時は、リモート会議という概念はなく、とにかく終日来客ばかりで、業務処理を行うには残業するしかなかった。値上げの申し入れに来るメーカー営業マンの大半が、「リーマン・ショックの影響で」と当社が値上げを受け入れるのは当たり前だろ、という口調でしたが、左京課長だけは違った。

当時の左京課長とのやりとりはこちらである。

左京「愛鳥さん。申し訳ございません。弊社製品を値上げさせていただけないでしょうか?」
愛鳥「はい。リーマン・ショックですので、左京課長が謝る必要はないですよ。」
左京「愛鳥さん。だからこそ、私は愛鳥さんに謝りたいのです。申し訳ございません。」
愛鳥「やめてくださいよ。左京課長は悪くないんですよ。」
左京「今、愛鳥さんは値上げの業務に忙殺されていると思います。それを分かっていながら、私は今、愛鳥さんに値上げの申し入れをしています。」
愛鳥「いいんですよ。値上げしないと御社だって。」
左京「愛鳥さん。了承いただきありがとうございます。このたびは大変申し訳ございません。」

これが、私は恩師 左京課長である。
左京課長は、言い訳は一切しない。四の五の言わずにとくかく「申し訳ございません。」だ。また、謝る左京課長の表情は真剣そのもので、声も大きく、本当に気持ちがこもっていた。

当社の営業は、左京課長の部下が担当されていたので、値上げ後の価格表については、その営業担当者からご案内頂いた。しかしながら、値上げを実施した後に営業担当者から「価格表が一部間違えていたので修正させてください。」との電話があった。当時、25歳だった私は、若気の至りでついカッとなって「謝ることもできない人の言うことは聴きません。」といい電話を叩きつけるように切った。

その後、すぐに私宛に電話があり、電話に出ると
「愛鳥さん。先ほどは私の部下が大変失礼な態度をとってしまい、大変申し訳ございません。今から価格表の誤りについて私からご説明に上がりたいのですがいかがでしょうか?」

左京課長からの電話だった。

私は、「来社頂くのは、営業担当者で大丈夫ですよ。わざわざ左京課長が来社頂くなんて。」と言うと、「私が愛鳥さんに謝罪の意も込めて直接ご説明に上がりたいのです。」とその声は真剣そのもので、私には断る理由はなく、左京課長にご来社頂いた。

その時のやりとりはこちらである。

左京「愛鳥さん。申し訳ございません。先ほどは弊社の営業担当者が愛鳥さんに対して、大変失礼な態度をとってしまい、本当に申し訳ございません。」
愛鳥「左京課長が謝ることないですよ。すみません。私もついカッとなってしまい、御社の営業担当者の電話を一方的に切ってしまい、すみません。」
左京「愛鳥さんが謝らないでくださいよ。だだでさえ、愛鳥さんは値上げの業務に忙殺されている中、弊社で間違った価格表を提出してしまい、ご迷惑をおかけし申し訳ございません。」
愛鳥「左京課長、もう十分お気持ちは伝わりましたので、価格表の修正、承知いたしました。」
左京「愛鳥さんの寛大な心に大変感謝いたします。この度は私の不徳の致すところであり、上司として責任を感じております。」

私は、なぜそこまで左京課長が謝るのか腑に落ちなかった。
確かに、営業担当者の上司は左京課長であるが、一応、左京課長の部下は営業マンなので、謝るのも営業担当者の仕事ではないのか、と疑問に思いお尋ねした。

愛鳥「左京課長、一つだけお尋ねしても宜しいでしょうか?」
左京「愛鳥さん、どうぞ。」
愛鳥「左京課長は何も悪いことをしていないのに、どうしてそんなに謝ることができるのですか?もちろん、私が悪いことをしたのならちゃんと謝りますけど、悪いことをしていないのに謝るなんて納得できないですね。」
左京「愛鳥さん、大変恐縮ですが質問させてください。」
愛鳥「はい。」
左京「愛鳥さんには大切な人がいますよね。」
愛鳥「はい、います。」
左京「それでは、質問を続けますが、愛鳥さんはその人の身代わりになって謝ることができますか?」

私は、ハッとされられた。

愛鳥「大切な人のためなら、身代わりになって謝ります。」
左京「心優しい愛鳥さんなら、もうお分かりですよね。」

私の目頭が熱くなった。

左京「愛鳥さん、謝るのは私の仕事ですよ。申し訳ございません。」

人を信頼できるか否かの基準は、過ちを犯した時の礼節にある。
人間誰しも過ちを犯す。
突発的な出来事による失態。
恣意的でないのは明瞭。
しかし、ここからだ。
分かってくれるだろうではなくその後、迅速に誠心誠意を尽くせるのか。
これができる人は限られている。

左京課長は過ちすら犯していない。
リーマン・ショックによる大打撃。
部下の失態。
しかし、左京課長は、一切言い訳することなく、困っている私に対して、迅速に誠心誠意を尽くしてくれた。

そんな左京課長の謝る姿を見て、当社社員が「申し訳ございませんの左京」と揶揄するのは言語道断だ。

左京課長
本当に尊敬してやまない素晴らしい御方である。
私にとって、左京課長はビジネスの恩師である。

そんな尊敬してやまない左京課長ではあるが、一つだけどうしても納得いかないことがあった。

それは左京課長とのお別れだった。

あの時のことを思い返す度に、私は涙が溢れ出す。

~第3話完~

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。私のブラック企業奮闘記は、引き続き投稿していきますので、どうぞ宜しくお願い致します。

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