見出し画像

あの頃好きだったきみとわたしのこと~男子バレー選手編~

○○編とか書いてますけど続くかどうかはわたし次第。

わたしは人生の半分以上をおたくとして生きていて、
今回は高校~大学に上がるくらいの頃に好きだったとあるバレーボール選手のことを書きます。

テレビで放送されていた世界バレーを見た。
日本は女子バレーが強いということは知っているくらいの認識だった。
特に興味があるわけでもなく、本当にただなんとなく見ていただけだったのだけれど、女子にはないスピード感や試合展開の速さに、気が付けば夢中になって見ていた。
そのときに日本代表に選出されていた選手を好きになった。
世界的に見れば決して背が高くないアタッカー。レシーブがうまい。センターに変わって後衛に入る。レシーブが安定する。ローテーションでまたベンチに戻る。THE仕事人という感じと気だるげな雰囲気がかっこいいと思った。

その選手が大阪のチームに所属していることを知り、世界バレーから間もなくして、大阪の体育館に月1回通う生活が始まった。

今はどうなっているか分からないけれど、あの頃はチームが所属している会社の体育館で、選手たちが練習しているところを見学することができるという制度があった。略して練見(れんけん)と呼んでいた。
試合と違ってお金はかからないし、練習終わりの選手と話をしたり、サインをもらったり、写真も撮ってもらえたりした。

わたしが好きになった選手がいたチームにはファンクラブがあり、それに加入すると社員と選手が集まって「がんばるぞー!」「おー!」みたいなことをやる株主総会的なものに参加できるという特典があった。(正式名称が思い出せなくてぼんやりしててすみません。)

元々好きだった選手は声を掛けるのが恐れ多く、また、人物的に近寄り難い感じの人だったので、高校生のわたしはビビり散らかして、その株主総会的なもので写真を撮ってもらって以来、練習を見に行くときも話し掛けることはなかった。

練習を見ているうちに新たに好きになった選手がいた。
スパイクのフォームがとても綺麗で、ジャンプ力があった。オールラウンダーで割となんでも器用にこなせるタイプの選手だった。
関西出身でノリもよく、わたしはその選手の顔も好きだった。

何回か練習後に話しかけていたところ、自分のファンだということを認識してくれるようになった。
わたしは人見知りであまりノリよく話せるタイプではなかったけれど、体育館で知り合った面白くて優しいお姉さんがいつも一緒にいてくれたので、その選手も色々楽しく話してくれた。

その頃まであまりメイクや洋服には興味がなく、ダボっとした服を着たりすることが多かったが、その選手に会うためにメイクを練習したり、可愛らしい洋服を着るようになった。
少しでも綺麗な見た目で会いたいと思うようになった。

わたしは彼が入団したばかりの頃から好きだったけれど、段々彼の明るいキャラクターが他のファンにも浸透し、少しずつファンが増えていた。
思えばわたしは、この頃から「同担拒否」だったような気がする。
いつもいるファンの顔が嫌でも分かってしまう。
自分より長く話すそのファンが嫌いだった。親しげに笑い合っているところを見るのも嫌だった。
黒く渦巻く感情をどうすることもできず、練習を見に行ったのに、彼に声をかけないこともあった。要はいじけていた。

ある試合の後、選手たちが片づけやストレッチを終えて引き上げるとき。
わたしは先述したお姉さんとスタンド席にいた。
お姉さんが元気よく手を振ると彼は気づいて、照れたように笑い返していた。
死にたくなった。自分と彼の間にはない、ふたりにしかないあたたかい何かに触れてしまった。
そしてそのお姉さんを邪魔だと思ってしまった自分に絶望して、死にたくなった。

一度だけ、チームの監督のつてで、わたしが住んでいる地域にそのチームが合宿をしに来たことがあった。
当然、高校生のわたしは学校を休むわけにはいかず、授業が終わってから行ける日だけ駆け付けたが、彼には会えなかった。
合宿中は練習を見ることはできず、いわゆる出待ちのみだったのだが、いつもの体育館とは勝手が違い、待っていても会えないということが多々あった。
制服姿で彼に会うことは今までなかったので会いたかった。

当時、一緒に練習を見に行くことが多かった知り合いが彼に会えたときにわたしのことを話してくれたらしく、彼は「せっかくいつも来てくれてるのに構えなくてごめんって伝えておいて」と言っていたと聞いた。
そういう優しいところが好きだった。優しすぎるところが嫌いだった。

彼を好きになって、色々な感情を知った。
もっと可愛くなりたい。彼に見てもらいたい。楽しく話ができるようになりたい。笑ってほしい。負けて悔しい。勝って嬉しい。あのファンが嫌い。嫉妬。わたしのほうが好き。泣きたい。幸せ。死にたい。好き。大好き。

おたくとしての感情なのか、リアコなのか、そのときはあまり区別がついていなかったが、多分ほとんどリアコだったと思う。


あれほど狂ったように通って、あんなに好きだったはずなのに、大学に進学し、生活環境が変わると、自然と足が遠のいた。

しばらくして、彼が引退すると聞いた。
バレーボール選手は割と選手生命が短いほうだと思う。30歳より前に引退してしまう選手も多く、大体は所属しているチームの親会社に社員として就職したりすることが多い。
彼がどうするのかは聞かなかった。

引退したら彼は一般人になってしまう。
もう二度と会うことはないだろう。
最後にもう一度だけ会いたい。


いつかお姉さんが言っていた。

「あの子ね、自分のファンがいるって分かると髪の毛触る癖があるんだよ」

そうなんだ。そういう些細なことも知ってるアピール?うざいな。
そんなことを思うくらい、あの頃のわたしはなんだか色々とねじ曲がってしまっていて、そんなことはすっかり忘れていた。


最後の練習見学。
彼の引退はファンクラブに入会している人だけが参加できるファン感謝イベントの日だった。
わたしはその頃、既にファンクラブは退会していたから参加することはできなかったので、何でもない日にふらっと練習を見に行った。

サイドの端っこ。なるべく上のほうに座った。ここなら彼からわたしが見えないだろうと思ったからだ。
練習見学をしているファンがまあまあいた。見たことが無い顔ぶればかりだなと思うくらいには久々の見学だった。
彼の姿を見られればいいと思っていただけだったし、練習後に声をかける気もなかった。
というか、何も言わずに突然練習にも試合にも顔を出さなくなって、どの面下げてファンだと言えるのかと思い、勇気がなかった。

これまで、色々な思い出があって、どれもこれも楽しかったし、苦しかったし、嬉しかった。そんなことばかり考えてしまって、正直、練習を見ていたときのことはあまり覚えていない。
友達もたくさんできた。もう会わなくなるんだろうなと思った。
あのお姉さんは元気だろうか。もう今はバレーを見に来ていないみたいだけど。嫌いだったあの子も来ていないと聞いた。
彼が引退したら、いよいよこの体育館に来ることもなくなるだろうと思うと感傷的な気分になった。

練習が終わり、これで最後だなと思いながら出口に向かう途中。
ストレッチをしたり、帰る準備をする選手たち。
ふと体育館に視線を落とすと、彼と目が合った。
彼はパッと視線を外して、自分の髪を触った。


まだわたしのことを自分のファンだと思ってくれていて、嬉しかった。
きみのファンでよかった。

大好きだったきみとわたしのこと。



という、自分のオタク人生の中でもかなりいい感じのバイバイをした推しの話でした。ずっと元気でいてくれるといいな。

いいこと書いたら次はおもろいこと書かなきゃいけない気持ちなので、次回はわたしが関わったやべぇバレーおたくについて書きます。
おもしろがるなって感じですね。ハハッ(ミッ〇ー声)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?