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宵闇に金星が光る

 とにかく格好良いタイトルで覆い隠さねば、と思って付けたソレからは、厨二病が香っている。
 残り香なんかではない確かな厨二病の香りが、24歳の僕からは未だ立ち込めている。腰にはいつも太刀、込めている。これ、絶対前にも言ってるわ。
 そんなことより、なんだか右腕が疼き始めたような気がするのは、単なるヤニ切れだろうか。それとも人あらざるものの力が宿ったのだろうか。

 思い出すのは、校舎に反射した夕陽の眩しさ。



 社会人生活ももう3年目を迎えた。2年の間に色々な、ことがあった。楽しかったような気も、しんどかったような気も、する。今後の人生の方向性がわかったような気も、まるでわからなくなってしまったような気も、する。
 それはそれとして、とにかく、生きた。偉いぞ、俺、と自分を讃えて、今日も生きている。

 一日の終わりは大体しんどい。帰路には、帰りたい、とだけ思っている。帰っている最中なのに、だ。挙句には、家に着いてからも思っている。心は働き通しなので、労らなきゃいけない。いけないが、なかなかにパワーがいる。パワー!
 そんなわけで、家への道中、人が多くてうっとうしいスーパーへ行き、ビールを買う。

 人は概ね、手っ取り早いものがすきだ。
 人は概ね、弱いからだ。

 胸骨を背に、金色の星はいつも、黒円の中に留まっている。今日も金メダルをかけてもらうほどの結果を残していない僕は、代わりにこいつを胸の前に掲げるのだ。瓶の姿に馴染みのない僕はいつも、「黒ラベルっていうけど、いうほど黒くないな」と思う。「ほな黒ラベルと違うかー」ととぼけながら、手にした白ボディを飲み干す。

 忘れ、られるわけがない。今日起きたこと、嫌だったことやくじけそうになったこと。舞い上がったことも。
 そのすべては意志を持っているかのように食道にしがみついていて、決して、ビールで流すことはできない。ただビールは、数時間それらに膜を張ってくれる。だから口を開け、流し込む。どうせ布団に入る頃には逆流すると知っていながら。
 それが目から流れると、悲しかったりしんどかったりすることの証明になるという涙は、今日も流れない。
 だから僕は、なにも悲しくない。しんどくない。

 ただ、時計の針音と僕の心音のリズムが、合わないだけだ。心臓は、1秒を打たない。

 吸い込まれそうなほど丸い宵闇に、ひとつ、金星が光っている。光に誘われ、手を伸ばす。
 これは果たして光なのだろうかと自問するが、その問いにも膜が張っていて、答えを出すには至らない。
 過ごした一日と光への疑念が襲いかかるまであと数時間。はやく寝なくっちゃ。

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