運足法

 正しい歩き方の事を運足法といいます。古い資料には運歩法と書かれているので、私の師匠が日本語向けに直した可能性もありますが、どちらも歩き方という意味では変わりありません。
 前述の正しい立ち方から足を踏み出します。左足から踏み出す場合には、後方になる足、つまり右足の規指側に力を入れ、上半身は腹から腰をそのまま前に押し出すと同時に、左足をまっすぐ前に出し、左足が充分に地についたとき、身体の全重量を左足に乗せ、重心を親指の内側におきます。このとき右足の力はぬいています。同じ要領で今度は右足を前に出しますが、この要領で歩きますと、履物は内側の方が減ります。履物の外側が減るのは正しい歩き方ではありません。
 手は握固して自然にふります。手は握固して下さい。手を握固して歩くと重心が下部に安定するので、躓いたり、挫いたりすることがなくなり、また急に自動車などが横道から現れても動揺せず、交通事故なども防げます。太極拳では瓦龍掌と呼ばれる手指を揃えた形にします。合気道でも梅の花や手鏡などと呼び、指を揃えた形にしますが、武術を修めていない方は握固にして下さい。

 手に荷物を持つ場合には、できるだけ小指を使って持ちます。たいていの人が、人差し指の方を多く使って小指を遊ばせていますが、反対に人差し指をフリーにして小指を使うようにして下さい。これは二つの意味があります。一つは小指の強化法としてこういう場合を利用するためです。小指というのはたいへん重要なはたらきを持っていて、剣道、柔道などの武道、野球、ゴルフなどのスポーツでも小指の使い方が技術のわかれ目になります。仙道は日常生活の中で修行する者ですから、わざわざ小指の訓練をするのではなく、日常生活の上で心がけて小指を訓練強化するようにするためです。もう一つは小指に荷物を持つことで肩から真っ直ぐに重心が掛かるので、半身に均等に重みが掛かるからです。
 
 仙道には、運歩法のほかに、肩走法、登攀法というのがありますので紹介しておきます。肩走法というのは、長い道程を急いで歩く場合に利用できます。最初は、拍子とコツをのみこまないとう まくできないかもれませんが練習してみて下さい。肩走といっても走るのではなく、肩を使って歩くのです。オリンピックの正式種目にある競歩に似た歩き方で、駆け足をするときのように両手の肘を曲げて握り拳を胸の両側におき、肘と肩を交互に上げ身体をつり上げるようにして歩きます。脚で歩くというよりも肩で歩く要領で、肩を上げるのと足を運ぶのを調子をつけて行ないます。こうすると脚力だけで歩くより疲れず、速く歩けます。感覚としては中丹田を中心に肩甲骨で無限大マークを描くイメージです。上半身がクルクルと前に進むので歩みが速くなり、テンポで歩くので楽に歩けます。

 登攀法は急坂を登ったり、山登りをしたりするときの歩き方になります。これは足の親指の付け根(母指球)から先だけを使い、踵を地面につけないようにして歩く方法です。そして呼吸は吸気、吐気とも細かく三つに分けて行ないます。吸う息を、 吸・吸・吸と三つ断続して行ない、ついでに吐く息も、吐・吐・吐と三つに分けて行ないます。吸気・吐気とも鼻から行ないます。

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