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アフリカの海辺で暮らした日々のこと。


いまでも時々恋しくなる場所がある。

それは、南アフリカのとある海沿いの街。
いっとき暮らしていた、私にとって大切な場所。


日本という島国に生まれ育ちながら、今まで海を身近に感じる暮らしとは程遠い生活を送ってきた私だけど。

『毎日海を眺め、潮風にあたり、波の音を聞く』

この生活の素晴らしさを知ってしまってから、今でも定期的に、波や水のヒーリングサウンドを使ってヨガや瞑想をしたりしている。

あの頃を思い返しながら心を落ち着かせると、なんだか自分を取り戻せたような気持ちになるのだ。


私は一体、海がある生活の何に惹かれたんだろう。

そんなことを考えながら、あの頃の暮らしを振り返ってみる。


朝の目覚めとルーティーン

目の前に広がる水平線から徐々に部屋に差し込む陽の光。
名前の分からない鳥のきれいなさえずり。
自然のバイオリズムで目が覚める。朝の大体5時頃。
日本ではギリギリまで寝ているタイプだったのだが、自然の力って素晴らしい。

仕事のストレスで目覚める日もあるけれど(笑)
水平線と、外洋の力強い波を見ると、なぜか心がゆったりと落ち着いてくるから不思議。
自分の悩みなんて、この雄大な自然に比べたら本当にちっぽけなものだよな、と思えてきて、それが心地よいのだ。

海岸の波はけっこう荒い


寝起き1番、エスプレッソを入れて自家製カフェラテを飲む。
海を眺めながら、カフェラテと朝食をゆったり取れた日には、もう良い1日にならざるを得ないよね、と思う。


ふと近くの建物の屋根に視線を移すと、猿の子供たちが追いかけっこをしていたり、親子で毛繕いをしている。
ベルベットモンキーと呼ばれる、この顔が黒くてお尻が青いお猿さんは、まあ人間の食べ物を奪ったり、ゴミを漁ったりするので、害獣扱いもされるのだが。
こういう野生の猿の世界を眺めるのもまた一つの癒しなのである。


平日はそのまま出勤するが、休日はそのあと砂浜へ行くことが多い。

家から海までは徒歩5分。

1時間程度、裸足になって砂浜を踏みしめながら潮風にあたる。時々、海水に足をつけてみる。
そして砂浜や岩に座って、満足するまで波打ち際をぼーっと眺める。
ただそれだけなのだが、これが私にとっては至福のとき。最高のデトックスタイム。


ふと周りを見ると、犬の散歩をしている人や、ランニングをしている人々がいる。
目が合えば互いに挨拶をし合う。心にゆとりがあるのだろう。機嫌が良い人が多いなと思う。
各々が自分のペースで楽しんでいるピースフルな場所。

そうこうしていると、LINEが鳴る。
夫からだ。

海の景色を見せながら、他愛もない会話をする。
今日の予定とか、今何してる?とか。
単身赴任なので、この生活を一緒に経験できないことは本当に悔やまれるのだが。
何度もテレビ電話で景色を見せたから、夫は私の家の周辺や海辺の様子を熟知するまでになった。



そのあとはすぐ近くのヨガスタジオへ移動して汗をかく。こうしてやっと1日が始まる。
ここまでで朝の8時くらい。なかなか贅沢な朝時間。

もちろん平日はこんなにゆったりできないので、仕事終わりに砂浜へ行ったりヨガをする。日が暮れたら出歩けないので、時間の許す範囲で。


海の中の世界

この生活が始まって一番に、スキューバダイビングライセンスを取得した。
PADI Open Water Diver. 世界共通のダイバー資格。

新しい趣味を持つために一念発起した訳だが、海の世界に恐れがないわけではなかった。
酸素ボンベから吸う酸素は、喉がカラカラになるわおいしくないわ。
はじめてのプールレッスンでは、水中でパニクってしまい、果たしてあの広い海で潜れるようになるのだろうか、という感じだったが。
経験豊富な先生たちに助けられ、なんとか合格。

沖までボートで出かけての初・海ダイビングでは、名前の知らないたくさんの美しい魚たち、サンゴ礁、ジンベイザメやウミガメに出会えた。
海底からふと空を見上げると、イルカの大群が悠々と頭上を泳いでいく姿も。水面を、太陽の光を浴びながら優雅に泳ぐイルカたち。その美しさといったら。

GoProを持って行ったのに、色々と必死すぎて写真を撮れなかったことが悔やまれる。

それ以降も、ダイビングや釣り目的で、何度も海に出かけた。
クジラの親子に出会えたり、ボートに寄ってきて一緒に泳ぐイルカの大群に出会ったときは、言葉にならない感動があった。

並んで泳ぐ、クジラの親子(黒が親、白が子)
物凄いスピードで水面を飛ぶイルカたち。
手前にも奥にも何頭もいるのだが、フレームに収めるのが難しい。
ボートの真下に何頭も寄って来る、の図。
「この子達は船が大好きなんだ」とキャプテン。
海の中は透明度も抜群だった


生活に溶け込む海

日本にも、海を見ながらドライブする、という光景は沢山あると思うが。
アフリカの突き抜けるような空と海の青さにはこれまた格別と感じるものがある。
ぱっと景色が開けて海が見えるポイントは、何度見ても心が躍る。

これはそのうちの一つ

ゴルフ場も沢山。海の景色を存分に楽しみにながらプレーできるのは、何ともいえない贅沢だ。

海に向かってスイング!解放感抜群のゴルフ場。


毎年5-7月頃は、イワシの大群が南から北上してくるSardine Runと呼ばれる季節。
大きな捕食動物に追われながら、命からがら逃げてきたところを人間が待ち構えるという、イワシさんには申し訳ないイベントなのであるが。
海岸が賑わう季節でもある。

この時はもう、イワシは売り切れだったが…


そしてここは南半球なので、最も海岸が賑わうのは年末年始。
(12月が真夏なのでね)
バケーション気分で、それはそれは多くの人がビーチに集まって来る。
黒人の方の一つの習慣として、年末は服を着たまま海に入る姿も。
新しい一年を迎える為の儀式のようなもので、水着に着替えず服のままバシャバシャと楽しそうに遊ぶ人たちを見るのも楽しい。


油断はできない土地だけど…

日本では普通にできることが、こちらではできない、なんてことももちろん沢山あった。

電力事情が悪く、一日2時間から4時間の計画停電に見舞われるなんてことはザラ。
私が住んでいたところは自家発電がなかったので、活動時間に停電がぶつかってしまうことも多々あり、日暮れ後は強力な懐中電灯を使って凌いでいた。

大雨が降ると水害が起き、川の水が氾濫して街全体が機能不全に陥ることもあったし、
暴力や殺人事件も、決して他人事とは思えない距離で頻発。

そもそもアジア人が一人で気軽に街を歩けるほど治安は良くなく、基本は車移動。それに、カージャックによる事件も多発しており、車の運転は基本、ひとけのある場所、かつ日中のみ。
数名で旅行中に、道路の穴にハマってタイヤがパンクした時は、人が寄ってこないか、皆で冷や汗かきながら急いでタイヤ交換したこともあった。

色々踏まえると、女一人で行動するのはなかなかハードルが高い。
万が一職場に迷惑を掛けたら、なんてことを思うと、一人で見知らぬ場所へと出かけることは絶対にしなかった。
生活の自由は、日本にいた頃の方が圧倒的にあったと思う。


でももし、またこの地で過ごしてみたいか?と問われたら。

恐らく私はYESと答える。

夫と離れ離れの生活はもうしたくないけど。
家族と一緒に過ごせるならば、私は行きたい。

それだけ、大きな海や自然が身近にある生活に、私は魅せられてしまった。

人災は多い。11の公用言語に、気が遠くなるような経済格差、そして部族社会。国家として一つにまとまらない程の多様性や複雑さがそこにはある。

しかし、自然に恵まれた土地なのになぜ?とも思ってしまう。
それほど、私にとって、この地の海や山や景色は本当に素晴らしいものだったのだ。


今でも心が荒ぶったときは、アフリカの壮大な海を心に浮かべる。
「何もしない」を実践していた、あの砂浜での時間を思い出しながら。

この地でなかったらこの感覚を味わえなかった、とは思わないけれど、私にとってはそういう巡り合わせだったのだろうと思う。
色々しんどいな、と思うときにも、雄大な自然は常に変わらずそこにあって、段々と心が浄化されていくのを感じた日々。
その感覚は、休暇でちょろっと海に行くだけでは味わえなかったもの。

はじめての海辺での生活は、私に、自分を整えながら生きるためのヒントを教えてくれた。



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