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石原さとみについて

石原さとみが結婚した。

私は、大学時代サークルや部活動をしてこなかった。別に何もしたくなかったわけではないが、タイミングが合わないとか家が遠いとかの理由で何にも入れなかった。
実際は、新たな環境に踏み出す勇気がなく、ズルズルズルズルと体たらくな大学生活を過ごしてしまっていた。

そのまま4回生になり、理系の私は研究室に配属となった。

関関同立でいうところの"ゼミ"というやつだ。

研究室のメンバーは同期の中でもなかなかノリの良いメンバー5人が揃い、真面目な方は勿論、ふざける方にもベクトルを伸ばしていた。

卒業する先輩にみんなでDef techのmy wayを合唱したDVDを送ったり、初めての全体ゼミ発表を控えた後輩に、前日にFacebookを登録させて邪魔をしたり、(発表は大失敗だった)充実した3年間だった。

その一環でいろいろな『部活動』を立ち上げた。私は部活をしていない反動か、『ダイエット部』とか『人狼部』とか、乱立させては自然消滅させまくっていた。
その中に『石原さとみ部』があった。

ちょうど、みんながこぞって

石原さとみがかわいくなった

と言っていた頃だった。


ウォーターボーイズ2は、私が中学生時代のヒットドラマであるが、ヒロインが石原さとみで、周りはこぞって準ヒロインの鈴木えみと役柄を交換してほしいと言っていた。交換したところでどうかなるのかと思ったのも事実であるが、実際は交換されないままドラマが進んでいった。私は、ヒロインが少し劣ってるほうがいいと思っていた。ドラマ版ウォーターボーイズの1作目も、ヒロインの宮地真緒より準ヒロインの香椎由宇の方が存在感があったし、そういうもんだろう、事務所のプッシュとかあるんだろうと思っていた。ギャル色の強い鈴木えみに関しては、ケツメイシ「さくら」のMVでカラオケでよく見るくらいで、現在はあまり見られないが、その観点からも石原さとみがヒロインであることに関係者の先見の明があったのだろう。

そこから数年がたって、「ナースあおい」というドラマがあったのも覚えている。そのあたりから石原さとみをぐっと再認識しだし、我々が『石原さとみ部』を立ち上げたきっかけとなったのは何といっても「リッチマン・プアウーマン」だった。

小栗旬主演のこのドラマは、今でこそ主流な「いややりすぎやろ系」の主演マンセー色の強いドラマで、かつIT企業がメインの話、小栗旬の浮き沈みあり、相武紗季ありARATAありの面白いドラマだった。miwaの主題歌も印象的だった。このドラマで、石原さとみの存在は際立っていた。

『石原さとみ部』の活動は、ただただドラマをみて、画像を検索して、昼飯晩飯の時に「かわいいよね」と言い合うのがメインである。何の生産性もない活動であるが、みんなが共通の目標を持って日々課題をこなしてくるという点では、その辺の下心満載のサークルよりは雰囲気の固いものであった。

なにより成果を相手と競うものではない。好きであるという感情は争うものではないと改めて感じた。勝利に盲目的になり、時に人は「きっかけ」「衝動」を忘れてしまう。常に初心のままでいられる、この『石原さとみ部』の活動こそが健全な部活動であると考えていた。エントリーシートにも見えない字で『石原さとみ部』部長の経歴を記入していた。

月日が経ち、『石原さとみ部』の活動頻度も少なくなった。そして誰も石原さとみについて語らなくなった。他の部活動のように、自然消滅していったと、私たちは知らずのうちに認識していたのかもしれない。

そして私たちは大学院を卒業し、社会人になった。

同期5人はそれぞれの道に進み、

社会の荒波にもまれながら個々に成長した。

どこかで同期を思い出し、切磋琢磨しながら、

近況報告では思い出話に花を咲かせる、いい関係だ。

数年が経ち、5人が5人、人生の伴侶に巡り合った。

2020年10月、そのうちの1人の結婚式がある。

結婚順序でいうと5人目だ。かつての『石原さとみ部』の部員は全員、既婚者となった。

そして、石原さとみが結婚した。

ニュースでそれを知った瞬間、驚きと同時にこう思った。

「みんなに知らせなくては」

YahooニュースのリンクをLINEグループに共有し、

「本日をもって 石原さとみ部を 解散します」

私は告げた。

「青春やったな」

とかつての同期が言った。

一つの青春が終わってしまった。『石原さとみ部』は、自然消滅なんてしていなかった。こうやって何年も経って、石原さとみ部という部活動があったからこそ、私たちはまた青春を思い出すことができた。

『石原さとみ部』は私たちと青春をつなぐ、大切な居場所だったのかもしれない。

石原さとみが結婚し、私たちも全員妻帯者となった。

青春が終わる日に、新たな青春を未来につなぐ役割を全員が担う。

こうやって人は成長し、そして成長してきたのだと感じた。

そんな10月のスタートであった。

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