マガジンのカバー画像

古代オリエント美術の世界

20
なぜ古代文明なのか?それは古代について知ることは、現在の私たちについて知ることだからです。人間の基本的な部分は古代から変わっていません。そして何より、人間の歴史とは「戦史」でした…
運営しているクリエイター

#歴史

古代エジプト美術館を探検する:前編

今回は、東京・渋谷にある古代エジプト美術館について紹介していく。菊川匡 博士によって創設された日本で唯一の古代エジプトの専門美術館である。当館は博士自らの手で収集されたコレクションが展示されている。博士の審美眼によって集められた選りすぐりのコレクションが堪能できる。 膨大な量のコレクションが展示・収蔵されているため、前編と後編の2回に分けて紹介していく。前編ではエントランスと第一展示室及び第二展示室を紹介し、後編では第三展示室の暗闇の間を紹介する。暗闇の間とは何なのか?と疑

古代ローマの疫病 | 大帝国を襲った死の旋律:後編

前回に引き続き、今回も古代ローマで流行した疫病についてを取り上げる。前編では古代ローマで起こった天然痘について紹介したが、後編ではマラリアについて言及していく。マラリアも天然痘と同様に古代ローマの人々を苦悩させた病のひとつであり、多くの人間がその命を落とした。もともと沼地が多いローマは、マラリアを媒介する蚊の巣窟だった。加えて、軍の移動や商人らによる交易品の流入が頻繁だったため、感染症のリスクを大きく背負っていた。 マラリア マラリアは、マラリア原虫によって引き起こされる熱

古代ローマの疫病 | 大帝国を襲った死の旋律:前編

前回に引き続き、今回も古代で起こった疫病の流行をテーマとして扱う。前回は古代エジプトを襲った結核を中心とする疫病についてを紹介した。今回は、タイトルの通り古代ローマで起こった疫病を主題とする。古代ローマでは様々な病が人々を苦しめていたが、中でも特に猛威を奮い、帝国を衰退にまで追いやった「天然痘」と「マラリア」を中心とした疫病の恐怖に迫っていく。本記事は前編と後編の二回に分け、前編は天然痘、後編はマラリアを扱う。 古代ローマ人は、細菌やウイルスなどの目に見えないものから被る病

古代エジプトの疫病 | ナイルの恵みがもたらした恐怖

エジプトのナイルの氾濫は肥沃な大地を形成する恩恵の象徴としてよく紹介される。だが、実は同時に疫病を運ぶ恐ろしい側面も持ち合わせていた。今回は、華々しい古代エジプトの歴史の影に隠れた暗い側面にスポットを当てつつ、人間の遺骨や文字資料から読み取れる当時の疫病についてを探究する。 古代エジプトのナイルの神ハピを描いた壁画。ナイルの豊かさを象徴し、ふくよかな身体付きをしている。カルナク神殿壁画一部。 病気が人間の遺骸に痕跡を遺すとは限らない。特に熱病の場合は痕跡を遺さない傾向にあ

古代エジプト語の"初期研究者"たちと"彼らの研究書籍"の歴史

現在、東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムにおいて、「古代エジプト展 〜美しき棺のメッセージ〜」が公開・展示されており、古代エジプトへの注目が再熱している。人々を魅了し続ける古代エジプト文明だが、私たちが今日のように彼らの多くのことが分かるようになったのは、千年以上忘れられていた文字が解明され、その内容を自由に読むことができるようになったからである。今回は、そんな古代エジプト文明の解明における最も強力な鍵となった"古代エジプト文字の解読"に貢献した人物とその書籍の

古代エジプト展 天地創造の神話 作品解説

江戸東京博物館 特別展「国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展 天地創造の神話」。現在、東京で開催されている大規模な古代エジプト展で、ドイツのベルリン・エジプト博物館の名品が展示されている。 ドイツは古くから考古学研究に深い関心を寄せており、トロイアを発掘したシュリーマンもドイツ人である。キリストの聖遺物を探し求めたナチスのヒトラーもドイツ人であり、彼は古代ギリシア文明にも深い関心を寄せ、『イリアス』の特装カバー本をつくらせている。また、ドイツはレプシウス等の優秀

オリエント美術の世界 〜ローマ帝国と鉱物〜

現代の私たちの生活の中で欠かすことのできない鉱物。普段は気づかないところで、鉱物は意外にも大活躍している。そして、それはローマ帝国の時代からすでに同様だった。ローマ帝国では多種多様な鉱物が採掘され、利用されてきた。今回は資料として記録が残されている鉱物の一部を紹介していく。 ブルガリアのマダンで産出した方鉛鉱。鉛が採れる鉱石で、少量だが銀も混じっている。ローマ帝国ではこの鉱石から鉛を採り、水道管の材料として用いた。だが、鉛は中毒性があり、精神異常をもたらすケースもある。一説

オリエント美術の世界 〜ウジャトの護符と贋作の見分け方〜

ツタンカーメン王墓から発見されたウジャトの護符を、現代の職人がイラスト化してパピルスに描いたもの。コブラの女神ウァジェトとハゲワシの女神ネクベトがウジャトの装飾の一部として共に表されている。この二柱の女神は王権の主義者として崇拝されていた。 「ウジャト」とは古代エジプト語で「再生、復活、健康」の意。天空神ホルスの失明した片眼が治癒したエピソードに基づいており、護符等のモティーフにされることが多い。 画面右側で腰掛ける白い装束の男神がオシリス。死者をオシリスの前に案内し

オリエント美術の世界 〜イスラームとは何なのか?〜

イスラエルの唯一神が遣わした使徒ムハンマドにより、7世紀に創始されたイスラーム。彼らは伝統的に偶像崇拝を忌み、芸術の上にもその思想が強く表れている。だが、アラベスク文様や機能性を代わりに発展させ、多文化には見られない独創的で魅力的な工芸品を数多く遺した。 緑釉がかけられた土製オイルランプ。深い緑が落ち着いていて美しい。12世紀頃のもので、型で生産されたタイプ。アフガニスタン出土。電気がまだない当時、ランプは生活必需品だった。燃料となる油には、胡麻、椰子、オリーブなどが用い

オリエント美術の世界 〜イスラーム〜

アフガニスタンのマザーリ・シャリーフで出土した考古遺物を紹介します。マザーリ・シャリーフは「聖なる墓所」を意味しており、この地名は15世紀に第4代カリフのアリーの墓が発見されたことに由来しています。 メディアによっては長母音を省いて「マザリシャリフ」と記されることもあります。日本では「マザーリ・シャリーフ」と表記するのが一般的です。そう言っているように聞こえるからです。しかし、厳密には「マザール・ィ・シャリーフ(Mazar-e-Sharif)」のほうがより忠実な発音のカナ表