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アンティークコインの世界

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前7世紀に世界で初めて金属製の円形コインがリディア(現在のトルコに位置した古都)で発行された。物々交換の効率の悪さから解放され、小さく軽く携帯しやすいコインによって人間はさらに商…
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#史学

『死神と蝋燭』フランス・ブルターニュ地方民話

あるところに、息子の名付け親を探している貧しい男がいた。彼は歩き、名付け親に相応しい人物を探した。 「名付け親を探している?なら、私こそ相応しい」 「あなたは誰だ」 「神だ」 「なら、あなたには任せられない。戦争も貧困もなくならないのは、あなたのせいだ」 貧しい男はその場を去り、息子の名付け親を再び探した。 「名付け親を探している?なら、私こそ相応しい」 「あなたは誰だ」 「私はペテロだ」 「なら、あなたには任せられない。キリストの一番弟子ペテロよ、キリスト

フランス革命のその後 | 繰り返す革命と人々の記憶

今回は、1789年に勃発したフランス革命のその後に焦点を当て、当時の歴史を追っていく。時はフランス革命が収束し、ブルボン家が再び王座に舞い戻ったルイ18世の治世から始めよう。オーティエという人物の回想録から、フランス革命後のフランスの情勢が詳しく窺える。以下、オーティエの回想録を元に当時の出来事を述べていく。 王室の髪結いオーティエが記した回想録からは、ブルボン家の人々がいかに横柄で薄情だったかが窺える。もちろん、回想録は筆者の主観が入り過ぎることと、オーティエ自身が盛癖の

アンティークコインの世界 | シャルル6世のエキュドール金貨

今回は、フランスでかつて起こった長きに亘る戦い「百年戦争」の時代に発行された金貨を紹介する。取り扱うのは、表題の通りシャルル6世の治世下で発行されたエキュドール金貨である。 百年戦争期のエキュドール金貨は、近年、急激な高騰を見せ始めた注目のアンティークコインのひとつでもある。かつては市場にそれなりの量があり、価格も比較的手頃なものだったが、現在では徐々に入手困難な状態に近づいている。 シャルル6世のエキュドール金貨は美しさはもちろんのこと、その背後にある歴史背景も面白いも

アンティークコインの世界 | ドイツ第三帝国ナチ政権下の貨幣・勲章・メダル・バッジ

ドイツ第三帝国ナチ政権下の歴史は、極めてデリケートな内容として扱われる。今回は学術研究を目的とした中立的な立場から述べ、彼らのいかなる思想も支持しないことを先に明記しておく。第二次世界大戦時に軍事同盟を結んでいた日本にとって、ナチ政権の行いは他人事ではなく、彼らの歴史について学ぶこと重要である。 ナチ政権下での貨幣・勲章・メダル・バッジは非常に人気が高く、コレクターの間では高額で取引されている。敗戦後にその多くが溶解され、処分を免れたものが僅かである背景からコレクターを狙っ

アンティークコインの世界|王位請求者アンリ5世の5フラン試鋳貨

今回は表題の通り、フランス革命期の動乱に巻き込まれ、王位継承者として担ぎ上げられたブルボン家の少年アンリ5世ことアンリ=ダルトワの5フラン銀貨、そして、彼の生い立ちについて紹介していく。 フランスで1831年に発行されたアンリ5世の5フラン銀貨。シャルル10世の退位後、超王党派はその孫アンリ=ダルトワを擁立し、アンリ5世と呼んだ。本貨は、超王党派のメンバーによって王位請求及びアンリ5世の宣伝を目的に造られた幻の試鋳貨である。だが、王位はオルレアン家のルイ=フィリップに簒奪さ

アンティークコインマニアックス コインで辿るフランス革命史

今回は、フランス革命期を中心にその前後に発行されたアンティークコインを眺めていく。実際に使われていたフランス本土発行の大型銀貨を主軸に、当時のフランスの歴史背景を紐解いていく。 近代フランスにおいて何と言っても大きな出来事は、やはりフランス革命だろう。フランス革命はフランス国内のみならず、世界中に多大な影響を与えていった。現在、日本で使われているメートル法もフランス革命の時代にフランスで考案されたもので、私たち日本人も彼らの影響とその恩恵を多いに受けている。そう考えると、時

アンティークコインの世界 | 大阪・造幣博物館の名品〜

今回は、造幣博物館に展示されている貨幣を紹介していく。当館では日本の江戸・明治時代を中心とした稀少な貨幣を展示・収蔵する他、諸外国の貨幣も展示されており、大変充実した内容になっている。尚、館内の展示品は一部が撮影可能となっている。そのため、ありがたいことに貴重な画像サンプルを入手することができる上、こうして紹介することも叶った。 造幣局・造幣博物館正門 造幣博物館は、大阪造幣局に併設されている。大阪造幣局は、これまでに数多くの貨幣を発行してきたことで知られる。日本の貨幣はも

アンティークコインの世界|古代コインとスラブのおはなし

今回でスラブについての記事は3つ目となる。前回、前々回同様に今回もスラブを中心に展開していくが、タイトルの通り古代コインのスラブについて述べていく。古代コインのスラブは通常のコインとは異なる形式の評価制度が採られているため、この機会を通じて少しばかり紹介していきたいと思う。今回はヘレニズム時代とローマ時代のコインをそれぞれ一枚ずつ例として取り挙げていく。 図柄表:アレクサンドロス大王 図柄裏:アテナ 発行地:エジプト王国アレクサンドリア造幣所 発行年:前311〜前304年頃

アンティークコインの世界 | ウィルヘルミナ女王の2•1/2グルデン銀貨

今回は、オランダの美しき女王ウィルヘルミナを描いたコインを紹介していく。オランダのアンティークコインは、マイナーなジャンルかもしれない。英米独仏などの国と比べると種類も少なく、また知名度としてもそれらには劣る。だが、オランダのコインも他のコインに負けず劣らず素晴らしい魅力を実は秘めている。 発行国:オランダ王国ユトレヒト造幣局(Utrecht, Netherlands) 発行年:1898年(単年号発行) 発行数:100,000枚 彫刻師:P. Pander 銘文表:WILH

アンティークコインの世界 | スイスのターレル銀貨

今回は、スイスのベルンで発行された一枚のターレル銀貨を紹介する。スイスはドイツで使用されていた単位ターレルを基準に貨幣を発行した。それゆえ、ドイツのものと同じく、スイスのターレル銀貨も直径40mmを超える大型貨幣で非常に見応えがある。スイスのコインと言えば射撃祭シリーズが有名だが、それ以外はマイナー気味であまり知られていないかもしれない。だが、スイスのコインは周辺のヨーロッパ諸国とは異なる独特のデザインや造りが目を惹く。 図柄表:熊と盾紋章(Bear and Crowned

アンティークコインの世界 | ザクセン三兄弟ターレル銀貨の魅力

今回はタイトルにある通り、神聖ローマ帝国ザクセン選帝侯領で発行された「三兄弟ターレル」と愛称される銀貨について紹介していく。少し前からターレル銀貨の魅力について連続的に紹介しているが、今回もこの銀貨について述べる。巨大で描写が鮮明且つ美麗なターレル銀貨は、私たちを魅了して止むことがない。 図柄表:クリスティアン2世、ヨハン・ゲオルグ1世、アウグストの三兄弟肖像(Christian II, Johann Georg I, and August) *彼らの統治期間は1591〜1

アンティークコインの世界 | 好きなものを集めよう

好きなものを好きなように集めよう。誰かに雑多と言われようとも、好きなのだから仕方ない。自分に正直に、心のままに。なんぴとたりとも、収集に対するその人の神聖な思いやセンスを否定することはできない。誰かのコイン収集を否定することは許されないし、誰かから否定される筋合いもない。それくらいコイン収集は熱い趣味なのである。 コインと自分のぶつかり合い。そして、一期一会の出会いと別れ。コインとは本来、人の手から手に渡っていくものである。だからいつかは、手放す日がやって来る。それでも、最

アンティークコインの世界 | スペインのコインを探究する 〜古代編〜

今回は、古代にスペインで発行されたコインを紹介する。かつてスペインは、ヒスパニアと呼ばれるローマの属州のひとつだった。鉱山資源に恵まれた裕福な地であり、ローマの有力氏族たちが拠点とする重要な地でもあった。ヒスパニア属州とひとくちに言っても、この地はローマによって細かく区分されていた。当初はヒスパニア・キテリオルとヒスパニア・ウルテリオルの2つだったが、最終的には北東部タラコネンシス、南東部カルタギネンシス 、南部バエティカ、南西部ルシタニア、北西部ガラエキアが加わり、7つのエ

アンティークコインの世界 | 古代ギリシア・ローマコインを鑑賞する

今回は、ギリシアコインの代表作である南部イタリアの一枚のコインと、ローマ帝国で発行された戦勝記念貨を二枚紹介する。後者二枚はローマの歴史を記録するものであり、資料的価値を見出せる大変興味深いものである。 図柄表:騎馬少年 図柄裏:イルカに乗るタラス 発行地:イタリア南部カラブリア地方タレントゥム 発行年:前281〜前272年頃 銘文表:APIΣTIΠ(アリスティプ)ΓY(管理番号) 銘文裏:TAPAΣ(タラス) 額面:ノモス 材質:銀 直径:20.8mm 重量:6