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CROSSING TEXT: WATING FOR_

もう一度、くどいようだけれども何度でも、僕らshelfと、ジャカルタの劇団Lab Teater Ciputatとが今、一緒に実施しているこの国際共同制作プロジェクトのことを説明しておこう。

東京-ジャカルタ長期国際共同制作プロジェクト(2020-2023) 交差/横断するテキスト:ミステリーとミスティカルのあいだで CROSSING TEXT: BETWEEN MYSTERY AND MYSTICAL

というのがプロジェクトのタイトルだ。

アーツカウンシル東京の長期助成(3年間)を受けて実施する予定だったのだが、プロジェクト実施初年度からこのコロナ禍にかち合ってしまい、今だ、ほとんどお互い対面では会えず仕舞いでいる。(最初にそれぞれの国で予定していた作品をそれぞれが制作して以降ずっとリモートでミーティングやクリエイションを行っている。)アーツカウンシル東京もさすがにこの事態に対応してくれて、このコロナ禍の影響を受けたプロジェクトに限り、本来であれば3年間の予定を最大4年間にまで助成期間を延期、延長させてくれることになっている。本当に有難い。

というわけで、今、3年目に入るのを目前にして、2022年度の予定を組み直し、さらには2023年度にこのプロジェクトをどこまで、どう展開するか。ということを日夜、ジャカルタチームと話し合っているところなのだが、(※正確には一年の区切りが6月期末なので、2022年7月から、僕らのプロジェクトは3年目に入る。)その前に今年度、2021年度のことをきちんと振り返っておきたいと思う。

2021年度の僕らは、刻々と変わる新型コロナウィルスの感染拡大状況に右へ左へと流されながらも、ともかく最終的にはすべてのプログラム/クリエイションをリモートに切り替え、リモートで出来ることに集中して実施した。

最初は、リモートでひたすらミーティングを行った。確か4月頃から始めたのではなかったかと思う。6月には既に隔週土曜日の夜22:00~(インドネシアの時間では20:00~)2時間、というルーチンが出来ていた。

まず、初年度、つまり前年の2020年度にそれぞれが制作した、shelfの『Rintrik-あるいは射抜かれた心臓』(ダナルト作)とLab Teater Ciputatの『卒塔婆小町』(三島由紀夫作)の2作品をメンバーそれぞれが記録映像を丁寧に鑑賞。それをもとに質疑応答、そして意見交換したりアイデアを交換したりした。演出家やドラマトゥルクだけが喋るというだけでなく、日本とインドネシアそれぞれの俳優同士が、あるいはときにはスタッフからも質問や意見、アイデアが出た。(プロセスの最初から音響や照明など、技術スタッフが関わることは非常に日本ではまだ珍しく、贅沢な試みだと思う。)非常に充実した時間だった。

というよりか、半ば無意識的だったのかも知れないが、僕らはそのような時間を敢えて設けた。おそらく、今に至る僕らのプロジェクトの基本的な理念「歩く速度はゆっくりで、スケールは小さくともよい。そういうなかで大切に出来ることを改めて発見して行こう」という、そのような価値観の反映だったのではないかと思う。

まずは相手のことをじっくり見る。聞く。観察する。そのことを大切にしようと次に行ったのが、この「CROSSING TEXT: WATING FOR_」というアクティビティだった。

上のYouTube動画は “それ”を繋いだ映像になるのだが、何をやったのかというとまず、矢野の提案で、Zoomミーティングだと一度に喋ることの出来る人数に限界がある。時間もかかる。話すタイミングを逃す人もいるかも知れない、だが参加者一人ひとりの自撮り映像なら、それぞれが自分のペースで映像を撮れるだろう。自分の表現を丁寧に作ることが出来るだろう。

ということで、

① いったん2作品のオリジナルのテキスト(「Rintrik」と「卒塔婆小町」)に立ち返り、
② そこから気になるテキスト(台詞)を一二行抜き出す。
③ そしてそれぞれの俳優がそのテキストを題材に自撮り映像を撮る。

というものだった。ここに加えられた条件はもう3つあって、

④ 自撮り映像は60秒以内であること。
⑤ 抜き出した台詞は喋っても喋らなくてもいいが、踏まえた状況を考えて動画を撮影すること。
⑥ どこか分からない場所で、誰か分からない誰かを待っている。

というものだった。ミーティング1回あたり3人~多くて4人分の自撮り60秒動画の発表と、そのコンセプトのプレゼンテーションをそれぞれ俳優が担当。質疑応答など行ったので、(参加俳優が日本人5人、インドネシア人7人だったので)都合5回、2か月半くらいをかけて全員分の映像を観て、その上でなぜ、どうして、何を考えてこのような映像になったか。ここはこうすれば良かったのではないか。私はここが、僕はあそこが面白いと思った、など、など俳優のプレゼンを聞いたうえで、参加者一人ひとりが、本当に毎回、参加者全員がそれぞれ全体と意見や感想を交換した。

個人的にはこの50秒動画がとても面白くて、何か、最終的なクリエイションを考えたときにここに大きな、リソースがあるのではないかと思っている。

プロセスを公開するに、上にリンクを貼った17分程度(17人なので本編はきっちり17分だ。)のYouTube動画を観て貰うだけでは、それだけでは、僕らのやったクリエイションやディスカッションのとうぜん全容は掴めないだろうけど、その掴めなさがまたいいのではないかと思っている。引用した戯曲も日本語、英語、インドネシア語で挿入してあるので、ぜひご覧になって頂きたい。そして出来ることなら、これらはちょうど2021年の春~夏頃の映像になるので、そのときに世界を覆っていたあの空気を少し、思い出しながら見てみて欲しい。(あるいは、もしかしたら映像を観ることであの時代の社会の空気があなたの身体にも伝播するかもしれないけれども。)そのことは良くも悪くも、この先に姿を見せる僕らの最終的な共同制作作品にも反映されているだろうからだ。

そして、少し前にも書いたけれど、このプロセスを最初に置いたことで、出会えなくとも出来ることがある。頑張って、工夫を凝らして自分たちなりのやり方でリモートやオンラインで出来る範囲のことを考えよう、そして休まず、継続的にクリエイションやディスカッションを続けよう、という全員の意志が固まった気がする。というよりか明らかにみな、このような限定された環境でありながらも、”創作”の手応えを感じていたように思う。

この後、日本とインドネシア人の俳優がひとりずつペアになってFacebookメッセンジャーを使って通訳を介さず(!)スクリプトを作ったり、そのときの組んだ相手に対して、創作に関わること、創作以前の個人的な関心事など、3つずつ質問を投げ合ってそれぞれのインタビュー動画を撮ったり、あとはBambangの出したお題でそれぞれ各国の稽古場に集まって、”俳優だけで”即興(インドネシア語で”Improvisasi”というらしい)で小作品を作ったり、いろいろ、いろいろな活動を行っていくことになるのだが、次回からはしばらく、その俳優・演出家のインタビュー動画と、俳優たちがペアを組んで作ったテキスト(台詞、台本)の一部を紹介していければ、と思っている。ゆっくりとしたペースですが、連載を続けます。ご期待ください。

shelf演出家、矢野靖人