「トランス女性」と女子トイレ問題、terfと呼ばれる女性たちに関しての簡単なまとめ
はじめに
私が初めてこの問題を認識したのは2018年頃のことですが、その頃から再燃するたびに同じような「勘違い」が繰り返されてきました。
見る限り、本来なら争う必要のない人たちが「勘違い」を元に争っています。これは正直、誰にとってもいいことではないと思います。
そこで、私がここ数年の間に見てきたことの簡単なまとめ記事を作ることにしました。よくある誤解に遭遇したときに、シェアできる記事があればきっと便利なはずだからです。
私は市井のいち女性であり、英語はそこまで堪能ではなく、社会学者でもありません。私なりの解釈と、これまで見てきた流れのまとめのため、学者の方々の言うこととは違う部分もあるかと思いますが、これはあくまでTwitterなどSNS上での議論の流れの説明のためにあるものだと思ってください。
「トランス女性」とは何か
これが一番の勘違いのもとです。「トランス女性」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?
おそらく、ほとんどの人はGID(性同一性障害)のMtF(男性から女性にトランスした人)を思い浮かべるはずです。
ですが今、Twitter上で「トランス女性」とされている人たちの中には、上記のようなGID-MtF以外にも以下のような人たちがいます。
・トランスセクシャル(男性として生まれたが、生まれた身体の性別が間違ったものだと感じ、身体も生活も女性に移行したいと望む人たち)
・トランスジェンダー(男性として生まれたが、女性のジェンダー表現をしたい人たち。身体違和を伴わず、身体はそのままのパターンもある)
・クロスドレッサー(女装をしたい男性。自分の身体に違和感はない)
・ドラァグクイーン(主に女装のゲイの行うパフォーマンス。パフォーマンスのひとつであるため、女性になりたいわけではない)
これに関して「言いがかりだ」と言う人たちもいますが、実際にクロスドレッサーであったり、オペの必要性を感じないタイプのトランスジェンダーが「女子トイレを使うのは自分たちの権利だ」と主張しています。
なぜ「トランス女性の女子トイレ利用の問題」が揉めるのか
上記の、幅広い意味でのトランス女性たちは当然ながら、一枚岩ではありません。そのため中には「何としてでも女性用のスペースを利用したい、なぜなら自分たちは女性であるからだ」と主張する方もいます。これは学者系の方にも多く見られる主張です。
何もこの問題で声を上げている女性たちは、トランス女性全てを女子トイレから追い出せと言っているわけではありません。GID-MtFの多くが暗黙のルールとして「外見が埋没できるレベルでないのならば女子トイレを使うべきではない」という見解を持っていますし、それに関しては多くの女性が問題を感じていないのです。
これに関してマジョリティだから既得権益にあぐらをかいているのだという意見を口にする人もいますが、それは違います。
女性なら誰でもわかることですが、女性として生きていると、多くの性的な加害を受けます。
女子トイレ、女子更衣室、女湯などは常に男性から性的にまなざされてきました。侵入を試みる男性は少なくなく、そのために女装という手段を用いる性犯罪者も珍しくありません。
ですから女性は自衛として「男性のように見える不審な人がいたら通報しても良い」という仕組みを維持する必要があります。これは個室の中にひそんで女性を襲う性犯罪者や、女装して侵入して女性の身体を見ようとする性犯罪者たちから身を守るために必要なことです。
特に被害を受けやすいのは子供たちです。私たち女性は誰しもが学校の周りをうろつく不審者や、学校に侵入する不審者や、盗撮を試みる不審者におぼえがあります。そういったものは珍しくないのです。子供たちが少しでも「おかしいな」と思ったときには、ためらいなく逃げられるようでなくてはいけません。
その意味で、GID-MtFならばともかく、クロスドレッサーやトランスジェンダーを外見などに関わらず誰でも受け入れるわけには行きません。特にクロスドレッサーは異性装であり、女装の男性はいくら本人が外見が女に近づいたと思っていたとしても、男性なのですから、女性の安全のために設けられた場所に侵入すべきではありません。
トランスジェンダーに関しては、身体違和がなく身体は男性のままで女性の服やメイクをすることを望んでいる方もいらっしゃるため、そういう方に関してはやはり女性の安全のために設けられた場所に侵入すべきではないと考えます。
身体違和をともなうトランス女性の女子トイレなどの利用を拒みたい方へ
気持ちはわかります。私も「男性」に近い方々が女子トイレを利用したりするのは、女性の安全を損ねると考える立場です。
ですがその際に「未オペの」というと話がややこしくなります。
なぜかというと、GID-MtFの場合、日本では性別適合手術をする前に女性としての生活実績を積む必要があります。つまり他の女性と同じように暮らしている必要がある、ということです。
下半身の方はまだ手を入れていないが、ホルモン治療などをしており、外見上は女性に見られるような未オペのGIDは存在します。その状態の人にまで多目的トイレを使えと言うのは配慮に欠けるのではないでしょうか?
少なくとも、今後も女性として生きていく意思があり、女性として暮らしている人を排除するような物言いはすべきではないと思います。ほとんどのGID-MtFは「外見上、女性とみなされるレベルにならなければ女子トイレには立ち入らない」を暗黙のルールにしています。それは他の女性を脅かさないためです。
そうした配慮にはこちらも配慮を返すのが人の心というものだと思いますがいかがですか?
【6/23追記】
性別適合手術を受けたくても、身体的な理由などで手術をすることができない人もいます。そのような受けたくても受けられない人に関しては、やむを得ない事情によりそうなっているわけなので、同様にある程度の配慮をする必要があるかとは思っています。これに関してはある程度、女性の間で合意が取れる考え方ではないかとも思います。
男子トイレでは加害されるから女子トイレへという考え方をするトランス女性の方へ
よく、クロスドレッサーやトランスジェンダーの方が「男子トイレだと加害されるから女子トイレへ」と口にしますが、それはおかしな話です。加害する男性が悪いのであって、女性は何もしていません。
そして加害に怯えるあなたなら理解できるはずです。あなたが感じている恐怖を、女子トイレにいる女性があなたに対して感じるのだということです。
怖がるのが悪いというのなら、なぜあなたは怖がらずに男子トイレを利用しないのかと言われるでしょう。加害されたくないという気持ち、加害を恐れる気持ちは誰でも同じです。
トランスジェンダーは、自分の意思でトランスすることを選んだ人たちです。だからこそ、私は「選べる立場ではなく女性として生まれ、女性として育ち、女性として加害される、子供たちを含むグループ」を脅かすべきではないと思います。
大人のあなたは選ぶことができますが、子供は選ぶことができない弱い存在です。私たちは一番弱いものの保護について真っ先に考えるべきです。
トランス女性を擁護したい当事者以外の方へ
あなたは「トランス女性は女性なのだから……」という言葉の意味をきちんと考え、理解した上で言っていますか?
何も自認を否定しているわけではありません。
自分が女性だと思うから女性なのだという主張そのものに異論や反論はあれど、その考えを持つことや口にすること自体は自由です。私は表現の自由や思想・信条の自由を支持します。
ですが、女性専用スペースは決して特権として設けられたものではありません。度重なる男性からの加害をどうしても防ぐことができず、ある程度の安全を保持するためにやむを得ず作られたのが女性専用スペースです。
ホテルやネットカフェ、カラオケ等でさえ女性専用スペースが必要になるのは、女性がいる場所に侵入してしつこくつきまとったり、盗撮したり、はては性犯罪に及ぶような加害者男性がいるからです。プリクラが女性専用になっているのも、盗撮が横行したからです。
不審な男性がいたときに「ここは女性専用スペースですよ」と声をかけるのは、従業員の安全を守るためでもあります。いきなり不審者呼ばわりしたら激昂するかもしれない不審な人間に、安全にお引き取り願うための仕組みが「女性専用」です。あなたは不審者じゃないかもしれないけど、男性だからここには入ってはいけないので出ていってくださいね、と穏便にご退出願うことのできる仕組みです。
そこに入ることができるのは、ある程度「女性に見える」か「自分が女性であると証明できる」人でなくてはいけません。でなければ加害男性の侵入を防ぐことができないからです。
GID-MtFの多くは、そういった場所に立ち入るときには外見上はほとんどほかの女性と変わりないレベルになっているか、でなければ診断を受けている証明などを携帯しています。ですので、それらのスペースが女性専用であったとしても、ほとんど困ることはありません。
男っぽく見られる女性だとしても、身分証には女と書いてありますし、いまどき身分証を携帯していない人はいないのでほぼ問題ありません。
排除されるのは「あからさまに女装した男性にしか見えず、診断書などもない不審人物」であったり「一見女性に見えなくもないが、行動が不審である女装男性」です。そういった加害目的で入り込む侵入者男性を排除しろという話をしているのであり、一律でGIDを排除しろと言っているわけではありません。
また、女装男性は女装男性である以上、仮に悪気がないとしても女性専用スペースに入ろうとすべきではありません。男女共用のスペースのほうを利用してください。
これはGID-MtFも含め、多くの女性の安全を守るために必要なことです。私たちはすべての女性の安全を守るため、加害男性を排除できる仕組みを維持すべきだと声を上げています。
トランス女性の女湯の問題
通常、GID-MtFの場合にはオペ前には女湯には立ち入らないというのも、暗黙の了解として存在しています。ですが未オペで女湯に入りたがるトランス女性がいないというわけではありません。
男性器をタック(テープなどで止めること)して女湯に入る方法について堂々と話したり、ついていたけどコミュニケーション能力でOKだったなどと語っている方もいました。また、オペ済みであっても女湯で他の女性の裸が見たいと発言しているような方もいます。
その意味ではトランス女性の女湯利用については、
・既に性別適合手術済みであること
・他の女性に性的な眼差しを向けないこと
辺りが落としどころではないか、と私は思っています。
なぜ女湯があるかと言えば、女性の身体への性的な眼差しを防ぐことができず、男性と同じ場所でOKにしてしまうと結果的に女性が追い出されてしまうからです。
男性器を見たくらいでがたがた言うなという人もいましたが、女装してまで侵入する変態が珍しくない以上は男性器のある人を見たら変態かも…と身構えるのは当然のことです。女性の安全を奪わないでいただきたいと思います。
「セルフID」という概念について
これは欧米では主流になっている制度で、要は「性別変更の際に手術を必要とされない制度」のことです。
日本では戸籍上の性別を変更するのに、色々と条件があり、その中には「性別適合手術済みであること」という要件が含まれます。これは性同一性障害の方々が、性別適合手術を受けた後に戸籍上の性別がもとのままだと不都合があるからとそのようになっているもので、よく言う「断種」では決してありません。
性別適合手術自体、性同一性障害の当事者が求めて実現したものであり、もともと「そうしたい」と望む人たちのために整備された制度です。
身体はそのままで女性になりたいという人のための制度は、まだ日本には存在しません。
女性とは何かという問題
海外では「ジェンダー表現」が「性別」であるという考え方が主流になってきており、それがここしばらく話題になっているJ.K.ローリングの「Sex is real」発言などのもとになっています。
「女性というのは女性ジェンダーのことである」とされてしまうと、女性の身体を持つがゆえに受けてきた差別や、女性の身体の機能を利用した差別がなかったことになってしまいます。
女性のものとされる服を着た男性が、男性のようにバリバリ働くことで「女性の活躍」とみなされるようになったらどうでしょう? 身体が女性である人たちは、不利な立場に置かれることになります。
女性は長らく、妊娠出産すると見なされ、身体性を理由に多くの差別に晒されてきました。医学部の減点問題もそうですし、性的搾取の問題もそうです。女の身体は都合よく使われたり、排除されたりしてきました。
女の身体を無視して、女の服を着たら女だ、IDに女と書いたら女だと主張されることについて反対の声を上げる女性は国内外に大勢います。ですが声を上げた女性には「punch terf」や「kill terf」、「suck my dick」などの罵声が浴びせられてきました。
これは「terfを殴れ」「trefを殺せ」「ちんぽしゃぶれよ」等の意味です。このような暴力的で女性差別的な言葉を使って黙らせられそうになっているのが、今、声を上げている女性たちです。その中には当然GID-MtF当事者もいます。
terfとは何か
terfとは「トランス排除的ラディカルフェミニスト(Trans-exclusionary radical feminist)」の略称です。
ですがこれらは今は、トランスジェンダーの考えに賛同しない人間に対して投げつけられる蔑称になっています。あまりにもショッキングな画像なので貼りませんが、トランスの権利だと言いながらterfを惨殺するイラストを描いている人たちもいます。
また、terfとみなされたJ.K.ローリングには暴力的な罵声が浴びせられました。
ですがローリングのようにterfとみなされ罵倒されているのは、多くは「女性用シェルターで全裸になって男性器を見せつけながら自撮りするトランス女性」を批判した人であったり、「陰嚢にブラジリアンワックスをしなかった女性専用サロンのオーナーをトランス差別だとして訴えたトランス女性」を批判した人であったりするのです。
外見がほとんど男性に見えるトランス女性がたくさんいます。そういう人がDVシェルターで同室になったら? 女子トイレで遭遇したら? レズビアンイベントに参加したいと言ってきたら?
そういうシチュエーションでトランス女性を拒否するとterfと呼ばれ、暴力的な言葉を浴びせられるのです。ドアにねずみの死体を打ち付けられたシェルターもあります。
私はそれは不当であると考えます。女性が安全に過ごすための場所が奪われていいわけがありません。
そういった暴力に訴えるような人たちとセーフスペースを共有できるはずもありません。女性の場所に入ろうとするのではなく、自分たちの(もしくはすべてのジェンダーの人間が使える)場所を作るべきだと思います。
まとめ
多くの女性はGID-MtFを女子トイレから排除しようとしているのではありません。女装の男性や、男性に近い外見の方には男子トイレか多目的トイレを使ってほしいと考えているだけです。
また、多くの女性は身体違和を否定しているのではありません。「身体は男性のままがいいが自分は女性だ」と主張する人たちについて、「女性を何だと思っているのか」と問うています。私たちの受けてきた差別に直結する問題だからです。
女の身体というものは実在し、そこから来る様々な問題が今も私たちを苦しめています。それをなかったことにするような言説に抵抗しているのであって、性同一性障害を否定しているわけでも、トランス女性を女性と認めないと言っているわけでもありません。
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