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娘に贈る回顧録 17/7300  手離れ

3歳
大きなショッピングモールで迷子になった。

子供服を選んでいた。
足元にいたはずなのに。

店内を探す。

名前を呼んで、店員さんにもお願いして。

いない。

通路に出てしまったか
名前を呼ぶ。

いない。

子供の足だし、遠くへは行けないだろう
フロアを探す。

いない。

どこにもいない。

まさか駐車場?
まさか連れ去り?

車にひかれたら
エスカレーターで転んだら
どこかに閉じ込められたら

泣いていないか
怪我はしていないか

どうして目を離してしまったんだろう

探し始めてから30分たつ。

ある店員さんが館内放送を頼むと
言ってくれた。

あぁ、そうか

何か特徴は?
洋服はどんなものを?

何を着せていたっけ
髪型はどうしていたっけ

思い出せない

とにかく3歳の女の子で放送してもらいますね。

内線電話。

お嬢さん、ツインテール?
お花のブルーのワンピース?

そうだ。
そうです!

迷子センターでお待ちですよ。
見つかって良かったですね。

※※※※※※※※※※※※※※※※
部屋のなかでアニメを見ている。

大分前から放送をいれていたのですが。
親御さんは皆さん気がつかれないようで。

係の方の言葉に、緊張がとける。

怪我がなくて良かった
見つかって良かった

通路を歩いているところを巡回の
警備員さんが見つけて下さった。

泣きもせず。

無線連絡の記録は
迷子に気がついてから
10分後だった。

30分以上館内放送をかけてくださっていた。

全く聞こえなかった。

お菓子やジュースは差し上げられない
ルールなので、お水だけ飲ませました。

落ち着いていたので、さみしいおもいは
していないと思います。

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『さすがに小5で母と手を繋ぐ子供は
             いないよね!』
『一緒に買い物しても、手は繋がない!』

ある日の娘の宣言で、突然左手が空いた。

心配と後悔と安堵と感謝と
あの日の気持ちを忘れられなくて
いつも手を差し出してきた。

そしてその手を小さな手で
握り返してきた。

それからしばらく
役割をなくした左手はあいていた。

次は心の手も離さなくては。



むずかしいけれど…