【不定期連載】給湯器ちゃんと私#8(終)
2月9日、木曜日。曇り時々雪。がっつり冷え込んでいる。
最強寒波を乗り越え、暦の上では春になり、しかし北海道はまだ寒い。土曜日なんて予想最低気温マイナス21度(地元の数字)らしい。そんな季節に、事態はものすごい勢いで急展開を迎えた。
2月から我がアパートにガスと灯油を提供する業者が変わるらしく、契約とかいろいろあるので連絡してくれとの書面が投函されたのが、たぶん1月末。知らない間に夫が連絡を入れていたらしく、業者が来ると聞かされたのがまさかの当日朝。もっと早く言え。
まあとにかくそれはいい。業者の人に給湯器ちゃんを見てもらい、「8日までに連絡します」と言われ、正直に言うと「本当にできるの?」と思った。散々いろいろと忘れ去られてきたのでね。
そして2月8日。昼過ぎに仕事があり、帰宅してココアを練り練りしていた時、夫のスマホが鳴った。私に確認もせずに9日午後に約束を取り付ける夫。まあいいけど。「やればできるのにやらないからできない」んだと思う。
翌9日。休日なのに健康診断に行かされた夫もお昼には帰ってきた。私は午後から仕事だが。そういうわけで、給湯器ちゃんとは指先まで痺れるような冷水での食器洗いを最後にお別れとなった。
夜、仕事をしばき上げてヨボヨボになって帰宅した。新しい給湯器ちゃんを早く見たい気持ちをぐっとこらえて上着を脱ぐ。家では裸足主義のため靴下を脱いで洗濯機に入れるついでに、チラッ。
おお〜!
これしか言えねえ。新しい給湯器ちゃんが、いかにもピカピカの新品です!みたいなオーラを放っている。腹の底から感嘆の声が出た。
通いの仕事の後はやる気ゼロなので、とりあえずコンビニで買ったパンを食べた。それからついに新しい給湯器ちゃんの力でおふろに入らせていただいた。
お湯が出る!!!!
これしか言えねえ。機械をリセットすることもなく、せっかく出たお湯が冷水に変わることもなく、お湯が急にアツアツになることもない。実家暮らしの頃以来の快適なバスタイムを過ごして、私は幸せを噛み締めた。
おふろ上がりの私に「問題なく使えた?」と夫。ちなみにゲームしながら片手間で聞いてきている。お湯が出た感動を伝えようとして、ゲーム中なら何を言っても無駄だと思い直し「非常に快適でした」と回答。なんだこれ。
かくして、1年ちょっと(たぶん)に渡る給湯器ちゃんと私との戦いは幕を閉じた。「水道からお湯が出る」という、現代日本ではほぼ当たり前の環境を手に入れるまで、なんだか異様に長かった気がする。
当たり前を当たり前と思わない、とかいいこと言って終わりたいところだが、そもそもこの問題は「管理会社が仕事をやればできるのにやらなかった」というシンプルな話だ。家賃払ってるから働いてくれ。
給湯器ちゃんと私は結局最後までわかり合えることはなかったが、私はこれからの人生で給湯器ちゃんとの格闘の日々を懐かしく思い出すだろう。いやそんなことないか。お湯は普通に出てくれよな。
最初から最後まで何も面白くない不定期連載だったが、この不定期連載を読んでくれたあなたやあなたに感謝を伝えたい。現代日本のすべての家庭の給湯器ちゃんに幸あれ。
給湯器ちゃんと私 おわり
いただいたサポートて甘い物を買ってきてモリモリ書きます。脳には糖分がいいらしいので。