12/9_執筆制限時間10分小説_【363 杉藤 俊雄(すぎとう としお)は××したい】続く
――こんこん。
控えめなノックに暗い妄想から現実に思考が切り替わる。優しく漂う匂いから、僕のことを想ってくれている優しい友達。一歩引いた礼儀正しさを考えるに、ノックの主は五代くんだ。
「どうぞ、入ってもいいよ」
僕が言うと、音を立てずに五代くんが部屋に入ってきた。二重の整った顔立ちと、背は高くないけどすっと伸びた背中とか、僕の神経を逆なでしない心遣いとか、五代くんは順調にモテる男として成長している気がする。
そんな五代くんが持ってきたのは、茶盆に二つに白のティーカップと小皿には可愛らしいお菓子が乗せられていた。パステルカラーで緻密な花の細工が施されているお菓子、確かデパートの和菓子屋さんで見かけてような。
「和三盆(わさんぼん)って和菓子だよ。甘さがすっきりしていて丁度いいから、いきずまったら食べているんだ」
「へぇ」
僕はのろのろとベッドから起きだして、小さなテーブルについた。
澄んだ琥珀色の紅茶と、可愛らしい和菓子の存在にささくれだった心が和らいだと同時に、自分の意識が自嘲気味に歪む。やっぱり、見た目が良いのを見ると気分が良いのだ。
投稿時間:9分48秒
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