【加筆・修正ver】杉藤 俊雄 は××したい_14_小学生編03
「無理だよ」
五代くんは力なくうなだれる。
「君には見えなかったかもしれないけど、霊園には何台も監視カメラがあるんだ。やったことはすぐバレる」
そう言って、言ってしまったことを後悔するように五代くんは顔を青くした。両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んで肩を震わせる。
「なんだよ。私は君のお父さんと同レベルじゃないか。結局、私も口だけか」
「いや、なんかバチあたりそうだし。お前がビビるのも当たり前だって。そういえば、ソノ」
五代くんを擁護する大川くんは、園生くんにたずねた。
「な、なに」
「霊園の監視カメラ設置したりしてんの、お前ん家《ち》だろ。こういう記録って、あとで回収することできねぇ?」
「あー……うん、そうだね、それなんだけど」
「なんだよ、はっきりしねぇな」
「あぁ、うん、できるけど、できるかもだけど」
園生くんは歯切れが悪い言い回しで、言及をさけようとしていた。たしかに、骨壺盗みが失敗したら、一番親に叱られるのは、管理者の立場にある園生くんの家だった。
「はっきりしろよ。協力しねえんなら、もしバレたとき、お前も協力したって言うぞ」
僕は大川くんの頭のよさに感心してしまった。体の大きな大川くんは、体を前に出してすごみをきかせて、園生くんを言葉でおどしつける。
「そ、そんなっ! イヤだ。イヤだよ」
園生くんは、黒目がちな瞳に涙をためて懇願した。
「だったら、協力しろよ。結局、バレなきゃ、みんな嫌な思いをしなくて済むんだ」
「う、うぅ……」
……あの、園生くんが、今イヤな思いをしているんだけど。
と、僕は言おうとして口をふさぐ。彼には悪いが、僕たちが骨壺を盗むには、園生くんの協力が必要なのだ。
「うぅ……イヤだよ。怖いよ」
「緑、すまないけど、協力してくれないか。私は、貴子さんを助けたいんだ」
五代くんも一縷の望みをかけて、園生くんに頼む。だが、彼は細い首を横に振った。追い詰められたウサギのように身を震わせて、じっと黒い瞳を僕たちに向ける。彼の黒い瞳の奥で、不安定な意志の揺れを感じた。匂いも、焦げた生肉の匂いがしてきて、なんだか物騒なかんじだ。
やばいな。このまま大声を出して大人を呼んだら、確実に怒られて、骨壺を盗めなくなる。それに、いつ父が帰ってくるかもわからない。
「怖いのもわかるけど、これは悪いことじゃないんだよ。園生くんがそんなにイヤなら、無理強いしないから」
僕はなるべく優しく言った。
悪いことじゃない。だけど、良いことでもない。かぎりなく灰色な言い回しだ。
園生くんは混乱しつつ、石を呑み込んだカエルのような顔で、視線を外しながら首を上下に振る。
「……わかった。協力する」
園生くんは降参した。
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「防犯カメラだけど、じつは正面の入り口しか作動していない」
え。
ぶっちゃける園生くんに、僕たち三人は驚いた。
「マジ?」
「うん、直人君。マジ。大人たちは、ぼくに言っても分からないだろうからって、べらべら話すんだ」
園生くんが言うには、園生家の財政は、かなり前からひっ迫している。
主な原因は、杉藤家のたくさんあった分家筋が途絶えたことで、その分の報酬ががっつり減ったことらしい。
しかも、園生家の方も生活水準を落とすことができず、方々に借金を重ねて、杉藤家からもらう報酬のほとんどを、借金返済にまわしているのだという。そして植生とか、設備を維持したりする足りない分を借金で賄うから、家計がつねに火の車なのだそうだ。そのせいで、設備もなにもがおざなりになっているという。
「あと、あとね。霊園の裏側には、業者用のトラックを入れるための大きい出入り口があるんだ。そこのカギの隠し場所、ぼく、知ってる」
早口で、知っている情報をまくしたてる園生くんは、僕から見ても気の毒なくらい必死だった。自分が悪いことをしていないと信じて、親に怒られないように。僕も父さんや母さん、イザベルさんに怒られたくないし、失望されたくなんかない。
「てことは、近くに道路があってことだよね。そこを通っていけば、父さんと鉢合わせにならないよね」
僕が言うと、五代くんが強く頷く。
「うん、そうだ。この屋敷からちょっと離れているけど、大きい道路があってバスも通っている。山を越えた先に小さい集落があるんだ」
「あ。そこって、長奈村《ながなむら》だろ? 配達の手伝いで、何度か行ったことがある」
大川くんの言葉に、僕は驚いた。これ以上の山奥に、人が住んでいること自体が想像を超えていた。
「それと、一番気を付けないといけないことなんだけど」
園生くんは、そう前置きして僕たちを見た。
「お墓にあるプレートは、普段はカギが掛けられているんだ。今日は納骨があるから、あらかじめカギを開けてあるんだけど、そのカギがある場所をぼくは知らない」
「……つまり、骨壺を盗めるのは今日中で、僕の父が霊園から帰ってくるまでが、タイムリミットってことだね」
「一応、私達には探検に夢中で、外にも探検しに行ったていう言い訳ができるけど、戻りが遅くなれば当然怪しまれるね」
「つーか、さっさと行こうぜ。時間が惜しい」
「そうだね」
僕たちは一気に立ち上がり、静かに屋敷を出て、霊園に続く道ではなく道路の方に出る。道路のおおよその方向は、大川くんがいて助かった。配達で何度か行った道だから、だいたいの方角と位置を把握していたのだ。
時間は少しかかったが、道のりは順調で、道路から枝分かれした小さな道に差し掛かると、園生くんが言う。
「ちょっと待ってて」
枝分かれした場所には、丸い鏡をつけた分かれ道を示す標識があった。園生くんは慣れた様子で、標識の棒に登ると鏡の裏からなにかを引きはがす。
――それが、カギだった。
こうして霊園の裏口のカギを入手して、僕たちは着々と骨壺のある石碑のエリアまで侵入できた。
ここまでは良かったのだが。
「動かねぇ」
近くの、椿の花が咲く茂みに隠れた僕たちは、プレートから全然離れてくれない父に焦れてきた。
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地面に両ひざと手をついて、じっとその場所を動かない父は、まるで石像のように、どうしようもないほどに微動だに動かない。
日が傾きはじめて、青空が少し黄色く褪せてきた。カラスや野鳥の泣き声が、夕方が近いことを告げているようで、不安で体に汗が滲む。
「このまま、夜になったらどうしよう」
「……そうだな、ちょっとヤバいかも」
「…………」
不安げな園生くんに大川くんが同意して、五代くんの方は険しい表情で父を睨みつけている。この男が立ち去らない限り、誰にも気づかれることなく骨壺を盗むのは難しいからだ。
苛立ちがピークに達したのか、五代くんの身体から、怒りの匂いがむわりと放出されて僕は閉口する。
このままではいけない。悪臭がさらに悪化していくのも、そしてこの事態も。
「ねぇ、僕に考えがあるんだけど」
なるべく、三人を納得できるように、小さく、だけど確信を持った声を出す。
「僕が父を「迎えに来た」って説得して、屋敷に帰らせるから。三人はその間に骨壺を盗んで、屋敷に戻って」
「えっ」
ものすごい顔で僕の発言にびっくりしたのは、意外にも五代くんだった。どうやら、彼の中では最後まで僕が付き合ってくれると思っていたらしい。
「とりあえず、防犯カメラのチェックって、いつもどんな感じにやっているのか知ってる?」
僕たち四人は裏門から侵入している。だけど、父を連れ出すとしたら、僕は正面から霊園を出なければいけない。正面入り口の防犯カメラに、僕が霊園に入ってきたデータがない以上、前後の矛盾にカメラをチェックしている園生くんの両親は気付くのだろうか。
「うん、えっと。防犯カメラのチェックは、いつもお父さんが、べつの仕事をしながら早送りで見ている」
よかった。と、僕は内心で胸を撫でおろした。
イザベルさんだったら、こまめにカメラのデータをチェックして、矛盾を見つけたら、自分が納得するまで記録を突き付けてくるだろう。
そうなったら僕たちは怒られて、故人の愛情が深い分、骨壺を盗んだことをずっと責められる。
「お前のかーちゃん、防犯カメラのチェックしないの?」
「うん。お父さんが言うには、母さんには向いていないって」
園生くんがいうには、一度防犯カメラのチェックをやらせてみたのだが、彼女の生真面目な性格が災いして、たった三十分の映像のチェックに半日かかったらしい。これでは、他の業務に支障をきたしてしまうから、園生くんの父が、映像をチェックしているのだそうだ。
「だったら、だけど。僕たち四人が、正面の入り口からここに入ったら、すぐに気付くかもしれないけど、僕一人だった場合の気付く可能性は?」
園生くんは少し泣きそうな顔になった。自分の父親が、防犯カメラの映像をおざなりにチェックしていることが前提で、この作戦は成立しているからだ。
「うん、杉藤君一人だったら、気づかないよ」
そう言う園生くんは、悲しそうに視線を落とした。
「絶対気づかない。杉藤君が一人なら別に気にも留めないと思う。裏から入ったなんて思わないだろうし、自分たちが見逃した程度だって、片付けちゃうと思う」
情けなさそうにぼそぼそ話す彼からは、かび臭い風呂場の匂いが漂ってきた。ガソリンの匂いとかびの匂いに挟まれて、なかなかキツイ状況になった。
茂みに咲く椿の花の香りは、すでに焼け石に水の状態で、なんの慰めにもならない。
「そんで、お前の父ちゃんはどこにいるんだ? ここに来る可能性は?」
僕は驚いた。大川くんの問いに、自分の甘さを痛感した。
たしかに、行動を把握していない上に、認識していない大人の存在は脅威だ。
「お父さんは、山を下りて町にいる叔父さんの家にいるよ。僕が学校に通うには、ここからだと不便だから、四月になったら、ぼく、叔父さんの家に住むんだ。けど、ちょっと揉めちゃってね。……本当は今日、ここに来る予定だったんだ」
説明する園生くんは、手を伸ばして茂みに咲く椿の花びらをつまんだ。
ぷちりぷちりと、赤い花びらをつまんで引き抜いて、ぱらぱらと地面に落とす。地面に落ちた赤い花びらが、まるで血に見えて僕は目をそらした。この感情は、今は不要だった。
「ごめん。僕のせいだ」
意識するまえに、謝罪の言葉が口をついた。
父は多分、僕の為に、園生くんを僕と同じ小学校に通わせるつもりなのだ。
園生くんの意思も、家族の意見も無視して、イザベルさんは喜んでいたけど本心はわからない。
「ううん。むしろ、助かったのはうちの方だよ。離れて暮らすのは寂しいけど、本当にバラバラになるわけじゃないし」
「緑、私も同じ学校に入る。一人じゃない」
「うん。同じクラスになればいいね」
「じゃあ、あらためてよろしくな」
「よろしく、直人君」
「大川、トマト好きか?」
「あん、好きだけど」
「私は嫌いだから、給食のトマトを食べてくれ」
「じゃあ。オレ、ブロッコリー嫌いだから、ゴーが食べてくれ」
「ん? 私はゴーか。わかったブロッコリーも任せた。あと、わかめも食べてくれ」
「増やすな」
園生くんだけじゃない、大川くんも五代くんも、僕に巻き込まれる形で同じ学校に入学する。
どうしようもない申し訳なさで息が苦しかった。
久々に胃のあたりがぎゅっと締め付けられて、この三人のために、僕にできることはなんだろうかと途方に暮れてしまう。
「そんじゃ。親父さんのことは頼んだぜ。そんで、オレたちが探検して遊んでいるって感じに、大人たちをうまくだましてくれよ」
「! う、うん!」
そうだ。と、僕は自分にできることを自覚した。
まずは、目の前のことを、つまり父を連れ出すことにベストを尽くそう。
そうやって、少し少し積み重ねながら彼らに報いていこうと、幼い僕は健気に考えた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
僕は茂みを少し移動して、父の背後に回り込んだ。
あずき色の床を歩くと靴がきゅっと鳴ったが、父が振り返ることはない。
「…………」
項垂れて動かない父から、濃厚な雨の匂いが鼻腔を直撃した。土砂降りの時に感じる匂い。土と水とが激しく混ざり合って、草の香りや建物の香りを巻き込んで、湿気と共に家にうっすらと漂ってくる……そんな匂い。
「父さん」
「ん、俊雄、か?」
息子の声にようやく反応した父は、のろのろと身を起こして振り返る。涙を出し尽くした、チワワのような瞳は真っ赤に充血して、声はしわがれてガラガラとしている。見えない何かに打ち据えられたように、悄然と痛々しい父は、焦点の合わない目で息子を見た。
「父さん、一度帰ろ? もうすぐ夕方になるよ」
「……あぁ、そうか、そうだな」
父は黄色がかった青空に納得して、小柄な身体を、重たそうに、よろよろと屋敷に続く山道を歩いた。
まるで、見えない大きな岩を背中に背負っているような、重たげな足取りだ。
よろよろふらふらと、だけどしっかりとした速度を保って、山道を歩く父。僕の隣を歩いていた筈が、いつの間にか僕を追い越して、僕の歩く速度よりも早く、しかし、普通に大人が歩く速度よりもずっと遅い――そんな微妙な速さ。
少し寒い風が吹く。葉をつけていない茶色の梢が風に揺れて、互いを打ち鳴らし、僕の耳に不快に響く。
カラカラケタケタ……。
嘲笑う声のように聞こえるのは、僕自身が父に対して背信行為を働いている後ろめたさから。
だけど、バレなければ父は傷つかない。そして、僕も怒られるとこはない。大川くんも殴られないし、五代くんも園生くんも大人たちから叱られない。だって問題なんて、はじめからないのだから。誰かの目があるからこそ、問題が起きるのだから。
僕は公民館での出来事を思い出す。多くの人間が知ることで、問題が形になっていく工程と、他者の恐ろしい思い込みを。
人間は誰も違うから、解釈が当然バラバラだ。だけど、解釈が一致した時「これはおかしい」と大きな声で騒ぎ出すのだ。
そして、一致した解釈が「誘導されたもの」なのか、「自然に導き出されたもの」なのかは関係なく、一致したことが重要であり、手に入れた連帯感に酔っぱらって目に見えない暴力をふるう。
幼い僕は屋敷に向かう父の背中を見ながら、必死に自分の中で保身の理論を塗り固めた。大人の僕でも称賛するほどの、独善的な思考だった。
それだけ、僕は子供だった。
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開きっぱなしの門扉を通り、正面玄関から屋敷に戻る。
玄関で靴を脱ぎ、玄関をあがる父は再び大きな瞳に涙を溜めながら、屋敷の廊下を歩き始めた。
目的地が仏間だと直感したのは、父の身体から線香の香りが漂いだしたからだ。鼻腔を刺激する香りは、僕の脳裡に様々な映像を呼び起こし、父がどのような心情なのかを物語る。
セーラー服を着た可憐な二重瞼の少女。
杉藤顔が生まれなかった本家の血筋。
疑われる姉の出生。
そして、高校の修学旅行で杉藤貴子が、行方不明になったこと。
人目を惹く美しさゆえに、彼女は男たちに連れ去られたのだ
班行動をしている中で、堂々と連れ去られたことから、犯人の男たちは常習犯だったのだろう。
悲しみに暮れる両親、己を責める同級生、死んだように静かになった日常。
だが、三日後に姉は警察に保護された。
喜ぶ家族に、警察が説明する。
運がよかったと。
拠点にしていた、山中にある廃墟に姉を連れ込もうとしたところ、床が崩落して、男たちは下の階に落ちた。そのすきをついて姉は逃げ出し、山の中をずっと逃げ続けていたらしい。
最悪の事態を想定していただけに、両親は歓喜した。
生きているだけでも、ありがたかった。
けれども、姉の方はどうおもっていたのだろうか。
「ただいま」
玄関の扉をあける音と、鈴を転がすような声。
出迎えた両親が、目を輝かせて姉を見る。
なぜなら、姉の顔が歪み始めていたから。
物が腐り落ちるように、次第に崩れていく【美しかった】顔。
喜ぶ両親、杉藤顔に変化した姉に対して、手のひらを返す一族と、醜くなったことで邪険に扱うようになった周囲。
顔が変わっただけで、こんなにも逆転した世界。
それを間近で見ていた弟《父》は、両親や周囲に対して、穿った目を持つようになり、ひたすら姉を哀れに感じた。
だが、一番許せなかったのは、姉を醜いと感じてしまった自分自身だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
これは、父さんの、記憶?
砕け散ったガラスの如く、無数の映像が僕の頭に渦巻いた。
僕の生まれる前の、杉藤家の記憶を処理するには、僕の脳みそは幼すぎて、精神は小さすぎた。
匂いが運んできた記憶は、僕の頭に収めるだけ収まって、奥深くにしまい込まれた。
記憶を取り出そうとすれば、頭痛が走り、崩れ始めた杉藤 貴子の記憶を探れば、その顔は黒く塗りつぶされる。
白い顔《かんばせ》に覆いかぶさる黒い●。その時の父の感情が反映されているのか、顔を覆う●が×だったり、長方形の■だったり、形を変えて杉藤貴子の顔を覆いつくす。
■、●、★、▼……。
父の記憶の中で、黒い記号に埋もれた伯母の顔。僕は誰かの記憶の中で、どんな顔で記憶されているのだろう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
仏間にへたりこんで座り込んだ父は、呆けたように姉の写真を見続けた。
崩れて杉藤顔になる前の姉の顔――父の中の時間は、もしかしたら姉の顔を崩れた時点で止まり、そして彼女が死んだことでようやく動き出したのかもしれない。
『どうして、どうして、僕は杉藤顔じゃないのっ! ほら、こんなに顔がおかしいんだよ』
不意に幼い声が聞こえた。僕は幼い父の声だと直感して、耳を澄ませる。父の身体発せられる匂いに意識を集中させて、記憶の続きを見ようとする。
僕も知りたいんだ。
杉藤顔とはなんなのか。
『杉藤顔には【神が宿る】――杉藤の血を引く者は、それがわかるのだ』
神が宿る?
それは、なにかの例えなのだろうか。
『山神の使いである【杉藤顔】を持つものは、知能と運動能力が常人より高く、強い霊感を持っている……和樹、それは自ら求めて得るものじゃないんだ』
『わからない、わからなよ。お父さん。じゃあ、この顔はなんなのっ! 僕が杉藤顔じゃなかったら、僕はなんのためにこんなブサイクに生まれてきたの?』
幼い父は嘆いて顔を両手で覆った。
父の問いには誰も答えられない。答えられない。
ただただ、冷たくて暗い沈黙が流れるだけで、沈黙に耐えられなかった父は、杉藤家に生まれた自分の不運を嘆くしかない。
場面が暗転する。
修学旅行で男たちに攫われて、行方不明になった杉藤 貴子が、警察に保護されて帰ってきた時だ。
『ただいま、和樹』
『――』
姉の顔には、神が宿っていた。
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