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書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖

 杉藤俊雄の話が9割がた終わりましたので、エブリスタにて年単位で休載してしまったダークファンタジー小説を復活させたいと思いました。
 今日はエブリスタにも載せている序章をこちらに載せますので、次回から続きを書き出していきたいです。
(改めてみると、序章以降からの文章が空回っている印象があるので、大幅に描き直したくなりました)
 ぼちぼち書き足して、また加筆修正したやつを週一で上げていきたいと思います。

【序章】
 魔導王国オルテュギアー。通称オルテは、悪霊に支配されている。
 魔王を封印した勇者を王族に迎えて500年。
 血塗られた王位継承法が編み出されて500年。
 そして、この世界――デーロスが歪《いびつ》な平和を維持して500年。

――もう、終わりにしよう。

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「ティア様、あと、30分ほどで到着します」
「……んっ」

 隣席から体をゆすられて、窓際の席に座っていた少女――ティアが目をさました。
 丸眼鏡をかけた紫の瞳が眠たげに半分持ち上がり、健康的なピンクの唇から控えめなあくびがこぼれる。幼さを感じさせる白い瓜実顔《うりざねがお》。マンダリンオレンジの短い髪。凹凸の目立たない小柄な身体を包むシルバーグレイのワンピースドレス。黒のロングブーツは踵《かかと》が持ち上がっていない平坦なものだ。

「おはよう、シスターカーラ」
「おはようございます、ティア様」

 そう言って、柔らかく微笑む女性はティアを見て痛ましげに目を細めた。
 年のころは二十代ほど。ティアと同色の修道服は豊かな曲線で盛り上がり、純白のヴェールをおしのけるボリュームのある金髪は腰まで届いている。弓なりの形の良い眉に、すこし垂れ気味な青い瞳は右目元の泣きボクロのせいか、それとも本人の気性せいか、今も泣きそうな印象を与えた。
 
 ティアは窓のカーテンを開けて風景を見る。進路方向右側に見える青い孤島の影から、もうすぐ列車がコイオス諸島に入ることを告げていた。
 諸島を抜けた先の大陸がポーロス大陸。大陸の北端に位置する、オルテの首都クエルがこの列車の終点になる。

 ボオオオオオッ。

 まるで、悲鳴のようにあがる電車の汽笛。先頭の煙突から吐き出される金色の粒子が混じった黒煙は、動力源である魔媒晶《マテリアル・ストーン》の燃えカスだ。
 ティアは顔をしかめた。青い天井に吸い込まれる黒煙とともに、海に落ちていく魔媒晶《マテリアル・ストーン》の燃えカス。紺青の波に溶けあうキラキラとした金色の粒子は、一見するとキレイに見えるが、だれもそれ以上のことを考えようとしないのだ。
 この大陸間を横断する黒鉄《はがね》の列車も。
 海上に設置された磁力の力を利用し、列車の車体を海上に浮かせる合成ミスリルのレールも。
 魔媒晶が発掘されて、科学の力により産業革命でにぎわう世界も。

「ちょっと、顔をあらってくる。その間にワゴンを呼んでくれる? 軽めのを、今のうちにお腹に入れたい」
「かしこまりました」
「あと、ミルクもつけてね。一応、わたし、成長期だから」
「はい」

 了承するシスターの笑顔が少し曇った。ティアはその様子をどこか他人事のように観察しつつ席を立つ。
 コンパートメント式の座席は、ベッド代わりの2列座席が向かい合うように配置されて、座席の中央に丸テーブルがあり、通路と席を仕切るスライド式のドアがあった。
 ドアに手をかけて通路に出る。ドアに隔たれた向こう側で、シスターの嗚咽が聞こえてくるのに、ティアは少し苦笑する。
 もしかしたら、と考える。自分が現状をヤケになることもなく、悲観することもなく、平常としていられるのは彼女のおかげなのかもしれない。

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「今年、オルテで王位継承の儀式があるんだってな、今回は何人死ぬんだ?」

 レストルームで顔を洗い、シスターの待つコンパートメントに向かう途中だった。別のコンパートメントから声が聞こえてきて、ティアは足を止めた。

「たしか今回は三姉妹で、末っ子がカルティゴのネイリス学院に留学しているらしいぜ。今回、呼び戻されているのかもな」
「へぇ。ネイリス学院って、かなり優秀な奴しか行けないって話だよなぁ、もったいねぇ」
「あぁ、それなんだが」

 どこか面白がるように前置きをする声。少し間をおいて、注目を集めようとする気配にティアは苦い記憶がこみあげてくるのを感じた。
 論文の発表は内容や質よりも、プレゼンテーションの面白さが勝り、そしてユーモアを交えたパフォーマンスで相手の興味をひかないとすべて無駄になる。そんな当たり前なことを最近学んだからだ。

「……噂だけど、かなり変わり者らしい。「このままじゃ世界が滅ぶ」って、論文を発表して学会で大暴れをしたとか」
「うわっ、やべぇな。というか、世界が滅ぶって魔王でも復活するのか?」
「あ、いやぁ、詳しいことは知らないなぁ」
「いや。魔王が復活したらヤバイって……」

 魔王復活を恐れる声に、ティアは奇妙なおかしさが腹をつくのを感じた。魔王よりも恐ろしい存在が身近にいることを知らないからだ。

 通路の窓からエメラルドに揺らめくサンゴ礁が見える。
 宝石のような色とりどりの魚と、金色の粒子がまじりあう光景。
 その一角。赤黒く変色したサンゴ礁の群生が紫の瞳に映る。
 
 宝石の海と謳われたコイオス諸島は、静かに滅びを迎えようとしていた。
 

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【つづく】

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