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11/29_執筆制限時間10分小説_【350 杉藤 俊雄(すぎとう としお)は××したい】続く

「あの時、嬉しかった」

 物部くんが、そう零したのは、大人になった時だった。
 押し入った家であらかたの処理を終えたと思ったら、タンスにまだ獲物がいた。ガタガタ震えて、血まみれの僕たちを見る子供に、大人の僕は別の意味でイラついた。

 あんなことをしておいて、結婚して子供を作るなんて厚顔無恥もいいところだ。この子も将来、親みたいになるかもしれないから、今のうちに駆除しておこう。

 と、僕が数秒うだうだ考えているうちに、大人の物部くんが大ぶりのナイフで子供の心臓を一突き。悲鳴を上げる間もなく、ぶしゃああと血が出て子供の目が白目になる。

「わあ、スゴイね、物部くん」

 あまりにも見事だから、僕は手を叩いてしまった。ブサイクなあの頃ならともかく、今の僕は整形手術で美形だもん、それぐらい許されるよね。

 返り血を浴びた物部くんは、僕をきょとんとした瞳で見て、レンズ越しの目を細めて言う。

「あの時、嬉しかった」と。

「え? あの時って?」
「……高校の時、教習所に通うことになって、オレだけ理由が「なんとなく」だったのに、杉藤さんは一緒に頑張ろうって、言ってくれたこと」
「そうなんだ。だけど、僕だってカッコイイから取りたかったんだもん。物部くんのこと言えないよー」
「……ふっ、くくく」
「もう、笑わないでよー。ふふふ……」

 物部くんは薄く笑う。僕もつられて笑う。一家皆殺しの惨劇が行われたいたにもかかわらず、僕たちはいつもの延長線で笑い合う。

投稿時間:9分57秒

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