12/5_執筆制限時間10分小説_【359 杉藤 俊雄(すぎとう としお)は××したい】続く
目の前がぐらりと揺れる。
今日はいつだ? 8月? いや、まだ7月の夏休みが始まったばかりだ。
1999年。この年の夏はよく雨が降っていた気がする。晴れた日が、なんだか黄色く色褪せていて、夏日の猛々しい太陽が、なんだか悲鳴を上げている気がしたのは、その太陽を見る、僕たちの目が失望で淀んでいたからだろう。
一人の予言者に踊らされた、1999。世界が滅びなかった年。杉藤貴子至上主義の五代くんだけは、ふふふんっとノストラダムスの予言が外れて、誇らしげに鼻を鳴らしていた。
そして、今、高校の僕はどこにいる?
「俊雄。くれぐれも体に気を付けてね」
「わかっているよ、母さん。それじゃあ、直人が待っているから」
いや。山中崎の家じゃない。そもそも、僕は大川くんのことを下の名前で呼んだことなんて、一度もないっ!
ちがうちがう、これは僕の記憶じゃない! 別の誰かの記憶で、僕の記憶じゃ決していない。
「緑、公博、樹、雪彦、待たせたな!」
ちがう。この僕は。みんなも違う。これは、ありえた世界でしかない。
『貴子さんが、過去に事故で死ぬ予定の友達を救おうとしたんだ。だけど、その友達を助けたら、死ぬ予定じゃない人たちが大勢死んだ。運命を変えると、変えた分の修正がかかるんだってさ』
まるでヒントをだすように再生された声。
これは、小学生の時に五代くんが話してくれた、杉藤貴子の話。
そこで、彼は言ったんだ。
『時間の流れは本来は、未来から過去に流れているって』
――じゃあ、此処にいる僕は未来の僕が観測している姿なんだろうか。
だとしたら願う、あの世界へ。
一片の救いがあった、あの世界へ。
1999年7月26日(月曜日)
学生寮の食堂で、僕は人を殺しかけた。
投稿時間:9分58秒
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