書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 10

 おおよそ観光業者を名乗るのには行儀の良い格好。砕けた態度ではあるが、彼女たちを映す二人の瞳は冷たい警戒心が潜んでいる。

 よかった、しっかりした人たちだ。とティアは心の中で胸を撫で下ろした。自制心の低い人間はたいていカーラの方に視線がいき、修道服を盛り上げている豊かな曲線を視えない舌で舐めまわす。彼女の存在のおかげで、初対面の人間の人となりが判断できるのだから、本当に存在自体が有難い。

「どうも、コイオス観光のプルートスです。こちらは見習いのファウスト」
「はじめまして、魔導王国オルテュギアーへようこそ! 本日は当社が主催する素敵なツァーをお楽しみください」

 出来る限りの明るい声を出して、あくまで自分たちは観光業者であり二人は観光客であるという体(てい)を繕う。

「ささ、まず。ここまでの長旅で疲れたでしょうからソファーに座ってください。お茶の準備も出来てますので」
「……わかりました」
「はーい」

 そう促されてソファーに座ると、ファウストと呼ばれた青年は待合室に備え付けられているドリンクサーバーからお茶を出した。備え付けの紙コップを四つ出してお茶を注ぎ、丁寧に給仕する彼の挙動は宮廷遣い特有の品の良さを感じる。

「どうぞ、粗茶ですが」

 笑顔でお茶を勧められた時、ティアは紙コップの横に二枚の名刺が置いてあることに気付いた。
 名刺にはこう書かれていた。

【魔導王国オルテュギアー 王立警察 警視総監 プルートス・オケアノス】
【魔導王国オルテュギアー 王立警察 警視総監補佐 ファウスト・メレアグロス】

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