書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 12

「あぁ、あのバスを見かけたのですね」

 ティアの見せた芸当にプルートスはわずかに目を見開き、次に余裕をもった笑顔で頷いて見せる。

「あのバスは海岸沿いを走らせて、イルカとクジラの群れを観るんですよ。あと、王家の丘に行く途中で果樹園に寄りますし、秋になりますとコリオス諸島を訪れる海鳥たちへのバードウォッチングが大人気でございます。ホレ、ファウスト。なに見習いの分際でボーとしとんだ」
『監視はこちらのファウストが、町中に目を張り巡らせておりますのでご安心を。不審者が近くにいれば、こいつが一番に気付きます』

 プルートスは隣に座る部下を肘で小突きつつ、流麗な茶水の文字をつづる。器用に演技と伝達を使い分けて、ティアとカーラに対して安心して欲しいとやんわりとした圧(あつ)をかける手法に、ティアはプルートスの意図を理解した。そしてプルートスもティアの意図を理解した。

 わざと紙コップを零して、飛沫に至るまでコントロールできるデモンストレーションには二つの意味がある。一つは自分の手の内を見せて安心させること、もう一つは下手に抵抗したらただでは済まされないという脅し。プルートスがその気になったら、全身の水分を暴走させて脱水症状を引き起こすことも可能なのだ。

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