書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 08

 呼び出された場所は、ロータリーの隅に位置する待合室だった。
 ティアとカーラは何気なさを装いながら、待合室の周囲をさっと一周して観察する。入り口の扉には【コイオス観光 貸し切り中】の看板が下げられていて、コンテナを改造したらしき四角い建物の中に、いくつかのソファーとテーブルが置かれている。窓から部屋の内部と二人の人間がソファーに座っているのを確認し、入り口のところで再び立ち止まると、ティアは自分の感じた悪い予感が的中していないことを祈った。

 これ以上、悪いことなんて起きないはずなのだから。

 ティア・ロードとカーラ・ラン――カルティゴから出国する際に自国側で用意された仮の身分だ。
 その名前で呼び出されたというのなら、待合室でまっている人間はこちら側の味方であるはず。
 丸メガネの奥で紫の瞳が不安で揺れる。ドアノブに手を伸ばすのを躊躇う白い指が震えて呼吸が乱れていくのを感じた。

 脳裡によぎる研究室で倒れていた教授の死に顔。頭から血を流して、毎日手入れをしている立派な顎髭を血で汚し、限界まで見開かれた瞳には、すでになにも映していない――恩師であるヘルメス教授は死んだ。否、殺された。


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