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虫に成り下がったのかも
帰りが遅くなるとつい寄ってしまう小汚い中華屋がある。
ど田舎で真っ暗な道沿いに突然現れるピカピカとした下品な光。大して客もいないのに駐車場は無駄にだだっ広い。営業時間は近隣住民にとって親切なのかありがた迷惑なのか深夜0時半まで。だからどんなに残業しても大丈夫。こんな田舎町でもここがあるおかげで深夜食べる場所には困らない。
そんな行きつけの中華屋に今日も光に集まる虫の如く吸い寄せられてしまった。
がらがらっと扉を開けると油ぎった店内にぽつんとテレビを眺める中国人のおばちゃん。
サクッと注文を済ませて今日も美味しくないゴムみたいな麺のラーメンにありつく。何も食べてなかった胃の中にドスンと生温かい麺が落ちてくるのを感じる。
惨めだ。今日も客の言いなりになってしまった。おまけに自然と口からは謝罪の言葉が出た。無意識レベルで出た。そして一日の終わりにゴム味の麺を好んでもないのにずるずると啜る。惨めだ。
好きな本の一節に、「値下げの要求か嫌味しか言わない取引先のデスクに家族でディズニーランドへ行ったであろう写真が飾られてる。みんないろんな事情を抱えながら生きている」というのがある。
神様ぶったお客も取引先も、それぞれの地獄の中でそれぞれの事情を抱えながら生きてるんだと思う。いつも偉そうで気に食わないあの人も、泣きたくなる夜だってあるのかもしれない。
かく言う自分も、へらへらと乗り切った一日の終わりに、虫が光に吸い寄せられるかのように、いつもそこにあるという安心を求めて、気付けば不味いラーメンを悔しそうに啜ってる。周りの人らはこんな姿想像もしないだろう。なぜならそこそこ笑顔で真面目には働いてみせてるのだから。
豊かな想像力を持って生きていたい。相手の背景や事情を読み解くことのできる想像力。そこから優しさや思い遣りが生まれて、その先に謙虚さとなって雰囲気に滲み出てくるのだと思う。果たして自分はどうだろうか。
別に見返りなんかいらない。だって自分は虫に成り下がったのだから。
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