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ロシアを”悪”と批判する我々は”正義”か? 風刺画から見る中東情勢#38

ロシア・ウクライナ戦争が始まり早3か月。

日本や欧米のメディア報道では、ロシアは”悪”、ウクライナとそれを支援する欧米諸国は”正義”という勧善懲悪の2項対立で語られることも少なくないのではないでしょうか。

ロシアによるウクライナ軍事侵攻

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻により、2022年5月時点で3000人超の民間人が犠牲になっており、約644万人もの人々がウクライナ国外へ避難しています。

またロシアが行っている行為は、ウクライナ侵攻自体も含め、加えて生活に必要なインフラの破壊や、クラスター爆弾の使用など戦争犯罪の疑惑が数々挙がっております。

軍事侵攻含め、このような行為が許されるべきことでないことは明らかです。

参考:BBC 『ウクライナの民間人死者3000人超と国連 マリウポリの製鉄所への攻撃続く』(2022.5.02)
参考:NHK 【随時更新】ロシア ウクライナに軍事侵攻(22日の動き)(2022.5.22)
参考:BBC 『【解説】 戦争犯罪とは? プーチン大統領を裁くことは可能なのか』(2022.4.9)

”悪”を成敗する欧米諸国

日本含め欧米諸国はロシアに対して経済制裁を行っております。SWIFTからの締め出し、輸出入の禁止、最恵国待遇の取り消し、プーチン政権とその取り巻きの資産凍結などを実施し、経済的にロシアを孤立させています。

さらに国だけでなく、世界中の国際的企業がロシアから事業を撤退。あらゆる企業が「脱ロシア化」を進めており、600社以上がロシアから事業を撤退しています。

なかでも早期に、Facebook(現:Meta)は、フェイクニュース対策としてロシアのメディアの投稿に対してファクトチェックをするなど、ロシア関連記事への検閲を強化し、ロシアへの対抗の姿勢を強く見せていました。(これに対してロシアは、国内からFacebookへのアクセスを制限しました。)

参考:NHK 『ロシアへの制裁 各国比較すると』(2022.5.22)
参考:BJ 『ロシア、世界の主要企業600社が撤退等…国民が外部情報にアクセスできない懸念』(2022.4.13)
参考:NHK 『ロシア フェイスブックやツイッターの利用を制限』(2022.5.22)

中東・アラブの視点は?

ではロシアが”悪”であるならば、”悪”を成敗する我々は”正義”なのでしょうか?

物事はいろいろな視点から見る必要があり、視点によってとらえ方は全く異なります。今回のロシア・ウクライナ情勢を考えるにあたり、我々と異なる立場の第三者の視点として、中東・アラブの視点から今回の事象を見直してみましょう。

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 出典:Twitter Mahmoud Abbas@Mahmoud3abbas (2022.3.3)

パレスチナ系スウェーデン在住の風刺画家マフムード・アッバース(パレスチナ大統領と同姓同名)の風刺画です。

ベットに寝ている人は、頭が地球になっているので、表しているのは「国際社会」です。国際社会は、イラク、イエメン、シリア、アフガニスタン、パレスチナで戦争が起こっていても、気づかずに寝ていましたが、ウクライナが侵攻されて初めて起き上がり、「戦争をやめろ STOP THE WAR」と掲げるのです。

世界ではロシア・ウクライナ戦争以前から、戦争は起きていました。
しかしそれらの戦争は世界から「気にされなかった」、「知られなかった」あるいは「無視されていた」という風刺です。

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 出典:Twitter Mahmoud Abbas@Mahmoud3abbas (2022.3.12)

同氏による別の風刺画です。タイトルは「ダブルスタンダード」。
左の男の子はパレスチナ人。パレスチナの伝統的なスカーフをつけています。右の男の子はウクライナ人。服装がウクライナ国旗の色です。
「国際社会」は、ウクライナの子供だけを救います。

同じ子供であっても、この世界には救われる子と救われない子がいる。
優しくされる地域と、まったく見向きもされない地域がある。

世界は不平等。
すべての命が平等なはずが、一方は救われ、助けられ、その一方で見向きもされない、気にも留められない。その基準はなにか?

先進国・欧米中心主義に対する風刺

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出典:Alaa Al-Laqta / Arabi21 (2022.3.4)

こちらはArabi21というニュースメディアで掲載された、風刺画家アラーア・アッ=ラクタ氏の作品で、タイトルは「国際正義(Global Justice)」です。

この風刺画が示しているのは「この世界の命の重みには差がある」ということ。右側には地球の北半球が描かれており、左側は南半球の地図が描かれています。北半球の1滴の血はウクライナでしょうか。南半球では多くの血が流れているにも関わらず、北半球に比べその重さは圧倒的に軽い。北半球(先進国)と南半球(アフリカ+中東+ラテンアメリカの発展途上国)の命の重さの南北格差を風刺しています。

すなわち、先進国主義/欧米中心主義であるこの国際社会に対する批判です。

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 出典:Twitter Mahmoud Abbas@Mahmoud3abbas (2022.3.5)

こちらもまたマフムード・アッバース氏の作品。
タイトル「ウクライナの国境を超えるただ一つの方法」。

一見、ウクライナ人に見える左側の三人。4人目はペンキで肌に色を塗っている。よく見ると前の三人も肌や髪に色を塗って、色を変えている。

セリフを見てみる。右から、
女性「私はインスタグラムのアカウントがあります」
男性「私はネットフリックスを見ます!!」
子供「ところで、、私の眼は青いです」
(よく見ると青色の眼鏡をしている、、、)

インスタグラム、ネットフリックスという発言をすれば国境を越えれるという風刺は、先進国/欧米中心主義(中でも米国)の批判です。またこの絵では肌の色や目の色を変えれば国境を越えられるという風刺は、白人中心主義への批判でしょう。

すなわち、この国際社会で助けてもらえる基準は、先進国/欧米であるか否か、また白人であるか否かであるということになってしまっていることを風刺していると言えるでしょう。

Facebookに対する風刺

フェイスブックは、ロシアメディアによる投稿を内容を検閲し、また一方でロシアに対する暴力的投稿を容認するということを行っていました。

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出典:Alaa Al-Laqta / Arabi21 (2022.3.11)

タイトル「フェイスブックはロシア侵攻に対するヘイト投稿を容認した」

参考:ロイター 「フェイスブック、ロシアやプーチン氏への暴力促す投稿を一部容認」(2022.3.12)

一方で、パレスチナの国旗とともに、左側の目には斜め線が入っています。

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出典:Twitter Ahmad Rahma Cartoons @RAHMACARTOON (2022.3.13)

タイトル「フェイスブックのスタンダード」

ウクライナ兵はGOOD、パレスチナにはBAD。
パレスチナの子どもが石とパチンコを持っていることから、インティファーダを示唆していることがわかります。

背景として、以前パレスチナ人ジャーナリストのフェイスブックアカウントうが一斉停止されたということが2016年にありました。

参考:HUFFPOST 「フェイスブックがパレスチナのジャーナリストを検閲する」(2022.5.22)

フェイスブックは、ロシア批判は許す一方で、パレスチナのジャーナリストによるイスラエル批判は許さない。

表現の自由は、フェイスブックの都合のいいように、あるいは米国の都合のいいように、形を変える。これがフェイスブックのスタンダードであるということを訴えかけています。

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出典:Tomatocartoon.com (2022.3.14)

フェイスブック(現:メタ)のロゴマークを眼鏡に例えた風刺画。

左のパレスチナの国旗は割れている。右はウクライナ。
見てもらえる地域と、見てもらえない地域があるということ。
そしてその基準は力あるものに自由にコントロールされ、我々はその眼鏡を通して世界を見ているということなのです。

国際社会はダブルスタンダード

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出典:Cartoonist Omar Sommad @omarsommad (2022.3.6)

ロシアが侵攻すれば、株価は下がるが、イスラエルが侵攻すれば、株価は上がる。これが国際社会のリアクションであるという風刺です。
(そうなってしまうのは、割れた眼鏡を付けて世界を見ているからでしょうか)

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出典:Twitter Mahmoud Abbas@Mahmoud3abbas (2022.3.14)

ロシアによって、クラスター爆弾がシリアで使用された際は、国際社会は気にも留めなかったが、ウクライナでクラスター爆弾が使用された際は、声を上げる。

ウクライナがロシアに立ち向かうのはヒロイズム(英雄行為)。
一方、パレスチナがイスラエルに立ち向かうのはテロリズム(破壊行為)。

ロシアが”悪”で、我々は”正義”なのか?

ロシアが”悪”で、それを制裁する日本含む先進国/欧米諸国は”正義”か?
上述のように、中東からの視点で物事を捉えなおすと、先進国/欧米中心主義の国際社会のダブルスタンダードも、いわば”悪”であることが明らかになります。もちろん、日本もその批判の対象となるのです。

ロシアを批判することで、自らが正義であるふりをする前に、先進国主義・欧米中心主義的である自らを省みて、そもそもロシア・ウクライナ戦争以前から戦争が起こっていた地域があったこと、そしてそれらに対しては十分な声があげられたてこなかったことに気づく必要があるかと思われます。

また中東のように、そういった先進国主義・欧米中心主義の国際社会にうんざりしていて、それに不満を抱えている人々がいるということを認識するということも大切だと思います。

日本から見た中東・アラブ世界は、地理的にも文化的にも言語的にもハードルが高く、なかなか彼らの考えや思考に触れることは機会もなく難しいかもしれませんが、風刺画はそれらのハードルを越えて視覚的・直観的にメッセージを伝える力があると考えます。

このようについハッと大切なことに気づかされるような中東からのメッセージを、これからもお届けしていけたらと思います。

それでは。


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