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チームをかき乱す「パーやん」という男/考察パーマン⑤

何度も書いているが、僕は「パーマン」がF作品の中でも抜群に好きである。改めて本作の魅力を考えてみると・・・

①F作品としては珍しい、チームプレーものである点。
一人の力だけではなく、仲間との協力で事件を解決したり、事故の救助活動を行う。時には知恵を出し合って、謎を解く、というような展開もある。そうしたパーマンチームの物語としての魅力を強く感じる。これは大長編ドラえもんが好きな理由にも通じるように思う。

②等身大の男の子が主人公であるという点。
マスクを取ると、平凡かそれ以下の男の子が、正義感をもって活躍する。普通の男の子である時と、ヒーローとしてチヤホヤされる時とのギャップが激しく、そこでドラマが生まれていく。

③壮大なラブストーリーであるという点も魅力の一つとなっている。
これについては、今後丁寧に記事にしていく。

こうして「パーマン」の魅力を並べていくと、パーマンたちの成長や葛藤、友情などが活写される、青春マンガであることが、僕自身を引き付けている最大の理由であるようだ。


さて、「パーマン」を青春マンガだとみた時に、パーマン仲間のメンバー構成は非常に大事となってくる。チームの魅力は、メンバー個々のキャラクターの魅力の掛け合わせによって高まるものだからだ。

1号が男の子、2号がサル、3号が女の子ときて、4号はどうするのか? F先生が選び出した答えは、関西人、であった。凄い掛け合わせである。


関西人のパーマン4号、通称パーやんは、連載開始から2か月後に登場したパーマンだが、おそらくこの4号までは連載前からの予定だったと思われる。というのは、パーマンの物語を作り上げていくにあたり、4号がいないと成立しない展開の物語が多いからである。

では、4号が担う役割とは何か? 初期パーマンの中から3本を抽出し、F先生が考えたパーやんの役割と存在価値について検討していきたい。


参考文献:
『パーやんですねん』
「週刊少年サンデー」1967年9号
『わたしの命はねらわれている?』「週刊少年サンデー」1967年12号
『ゆうれい船』「週刊少年サンデー」1967年18号

パーやんとは何者なのか。
まず関西人である。これにより、パーマンの活動範囲は東京だけではなく、西へ、そして日本全国へと広がった。
次にパーマンやパー子より一つ年上である。パーマンとしては後輩だが、年上のしっかり者であることが重要となってくる。
関西人のガッチリしたイメージを利用したキャラ設定となっている。お金稼ぎが上手い、利口である、ケチくさい、要領が良い、等々。下手をすればいけ好かない性格である点に注目しておきたい。


それでは一話ずつ、ポイントを絞って見てみよう。


『パーやんですねん』

冒頭、パーマンバッチが鳴り出し、パーマン三人は、その音の発信先である大阪へと向かう。そこで初めてパーやんが登場するのだが、いきなりのインパクトが凄い。パーマンになって5日目にも関わらず、荷物配達のアルバイトを始め、コピーロボットも新聞配達をさせて、お金稼ぎをしているのである。「パーマンの力を金もうけに使っているのか」とパーマンに避難されるが、

「正義だけでは儲からんよってな、アハハハ」

と悪びれない。それどころか、大人になったらパーやん貿易という会社を興し、世界中相手に商売をやる、という壮大な夢を語るのだった。いきなり登場から数ページで、商売人=パーやん、という構図が出来上がっている。
(ちなみにこの夢は別の作品で達成される…これはまた別の話)

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その後、おにぎりを仲間に売りつけようとしたり、皆でたこ焼きを食べても割り勘にしたりとケチのイメージも付けている。

また、本作ではパーマンたちが不当な契約書を元にタダ働きさせられるのだが、パーやんは機転を利かせて悪者どもに報復を行っている。頭が切れる部分を印象付ける。

また、貧乏な男には金を渡している。出世払いということらしいが、損して得取れの精神も感じさせる。つまりただのケチではない

パーやん登場の話を通じて、以下のことがわかる。
①頭がいい。②ケチ。③ケチだが人間味はある。④商売人 である。

以後、パーやんのこのキャラクターを活かして、パーマンの物語は、多重な魅力を深めていく。

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『わたしの命はねらわれている?』

大金持ちの老人が、家族の誰かが自分の財産を狙って殺そうとしているから、警護をしてくれ、とパーマンたちに依頼がある。パー子が対応しきれず、お鉢がパーマンに回ってきたのである。

大金持ちになった途端に人が変わってしまったという老人は、何もかもが怪しく見えてしまう偏執狂で、その家族も手を焼いている。大枚で警護役を引き受けたパーマンだったが、すぐにやる気を失ってしまう。ブービーにバトンタッチすようとするが、サルでは頼りにならん、ということですぐにご破算となってしまう。そこで、パーやんを呼ぶことに。

パーやんは、ろくに説明も聞かずお金を取り上げて、犯人を見つけるなら本人に聞いてみよ、と言って家族全員を集めて、誰が老人を殺そうとしているのかと問い質す。

パーやん「犯人はどなたでっか?」
富豪「あいつバカじゃないの」

集まった家族は、疑われるような事実はないと弁解する。老人が怪しいと思っていることには全てそれなりの理由があるというのである。

しかし全く聞く耳を持たない老人。パーやんは、そこで突拍子もない提案をする。

「なるほど! おっさんはこの人たちを信用してへんのやね、一緒に暮らしている限り安心できんというわけや」
「そう」
「よっしゃ、山奥で一人で暮らしなはれ」

そして無理やりに山奥に老人を連れて行ってしまう。山中では、一人で小屋を作らせたり、イノシシ狩りをさせようとしたり、挙句「楽しく暮らしなはれ」、と行ってしまおうとする。

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そこに心配となった家族がやってきて、富豪を連れて帰ろうとするのだが、パーやんはそれに割って入ってくる。

「僕はあんたたちからおっさんを守るために雇われたんや」
「安心しなはれ、絶対におっさんを渡さんから」

年寄りを置き去りにしたら死んでしまう、という家族に対しては、

「遺産がもらえていいでしょ」

とむべもない。

家族の怒りを買い、パーやんは殴られるのだが、「やられたあ」と大袈裟に飛んで行ってしまう。ようやくここで、家族の絆を取り戻すために、パーやんが悪者となっていた、という意図が明らかになる。

本作では、突拍子の無いことを言いだすが、実は計算ずく、というパーやんの賢さが独特の嫌らしさと共に表現されている。この、”誤解を恐れず、一見嫌な行動を取る”、という性格が肝で、後に主にパーマン1号といさかいを起こす原因ともなってくるのだ。

パーやんの嫌らしいほどの賢さが、実直なパーマン一号と対比されることで、新しいドラマが生まれてくるのだ。

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『ゆうれい船』

みつ夫が世界中の海に沈んでいる難破船の財宝を探そうと、他のパーマン3人に提案するのだが、パーやんは

「金もうけちゃうもんは、そんな雲を掴むような話と違うぞ。もっと現実的な厳しいもんや」

と全く興味を示さず去ってしまう。

お金儲けをミッションとしているパーやんだが、実際は堅実なリアリティストであることが、強く示される。

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結局一号とブービーで海中に潜って沈没船を探すのだが、海中で何かの光を目にする以外特に見つからない。海上に上がると漁師がいて、この辺りで沈没した貨物船があって、その中に人がいる、という幽霊船の噂を聞く。先ほどの海底探索中に光を見ていたパーマンは、きっとあの光が幽霊だったのだとショックを受けて、ブービーと共に熱を出してしまう。

このニュースを聞きつけてパー子とパーやんも現れ、嫌がるみつ夫を連れ出して幽霊船の正体を探りに行くことに。

海中で光を見つけ、近づくと難破船があり、窓から不気味な男の姿が現れる。一目散に逃げ出すパーマンたち。

その夜、パーやんが写真を持って現れる。難破船に居た男の写真を現像すると、男の手には「助けて」のメモを持っていたのだ。男は幽霊ではなく、生きていたのである。

再び海中に潜って、今度は難破船を浅瀬まで押し出して、助けることにする。そして、その途中で、パーやんは襲ってきたサメをモリで刺していたのだが、パーやんはそのサメをかまぼこ屋に売ってお金に変えていたのだった。

「金儲けはこんな具合にやりなはれ」というパーやんに対してみつ夫は、

「パーやんはしっかりしすぎてて嫌いだ!!」

と腹を立てるのだった。

このように、しっかり者のパーやんと、ある種ピュアなパーマンとの対比が、いい具合のギャグとなっているのである。

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さて、3本のエピソードを繋げてみてきたが、パーやんの誤解を厭わない行動力と、嫌らしいまでの堅実さが、大いに発揮されている3本だった。

特に注目しておきたいのは、「誤解を厭わない」という点である。仲間に対しても特に説明もなく独善的な行動を取るように見えるため、これが誤解を生んで余計な軋轢を生むケースが多発していくのである。

いずれにせよ、これでパーマンの主要メンバーは揃った。
次回の「考察パーマン⑥」では、4人のチームワークを活かした名作をご紹介したい。

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