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1975年、ツチノコブーム去る!/考察ドラえもん⑩後半

「帰ってきたドラえもん」
(小学四年生1974年4月号/藤子・F・不二雄大全集4巻)
「ツチノコさがそう」
(小学五年生1974年7月号/藤子・F・不二雄大全集3巻)
「ツチノコ見つけた!」
(小学六年生1975年3月号/藤子・F・不二雄大全集2巻)

1973年に突如起こったツチノコの一大ブーム。その時々の流行を物語に巧みに取り入れるF先生だが、特にUMA(未確認生物)への造詣・思い入れが強く、そのせいか、なんと一年間で3回もチツノコを「ドラえもん」に登場させるに至った。

前回の投稿で、まず「さようならドラえもん」に言葉として登場していたことを語った。今回は、残りの二本を見ていく。

前回の登場から3カ月、早くもチツノコは二回目の登場を果たす。タイトルは「ツチノコさがそう」。

のび太が見栄を張って、みんなの前でツチノコを見たと嘘をついてしまい、ドラえもんにツチノコを出してとお願いする。ドラえもんは、いつものび太の出まかせの尻ぬぐいをさせられる、ということでご立腹。一度懲りた方が良い、と言って出て行ってしまう。

のび太は、そんなドラえもんの様子を見て、いざとなったら助けてくれるはずだと睨んで、一人タケコプターでツチノコ探しに出かけることにする。

案の定、山でのツチノコ捜索の様子を陰ながら見ているドラえもん、そしてそれに気が付くのび太。のび太は白々しく、ドラえもんの言うことを聞いておけば良かったと叫び、それを聞いているドラえもんも満更ではない様子。

そしてお腹が空いたとのび太が言うと、ドラえもんはお弁当をこっそりと出してくれる。シメシメとのび太。さらに調子に乗って、ツチノコ落ちてないかなあと叫ぶ。お弁当のようにドラえもんにツチノコを出してもらおうという魂胆である。

ところがしばらくしても、ツチノコは姿を見せない。のび太はドラえもんに対して早く出してくれとせっつくのだが、そこにバサとツチノコが姿を現す。

そのツチノコ、いかにもおもちゃのような見てくれで、迫力もあったものではない。のび太はそんなツチノコをこのように評す。

「おもちゃにしても、よほど安物だよ。」
「ツチノコってもっと凄みがあるはずだよ」
「こんなしまりのない、ぶさいくな、漫画みたいな顔の…」

と言いたい放題。それを聞いたツチノコは悔しそうにのび太に飛び掛かるが、ひょいと虫網みで捕まえられてしまう。のび太は一言「我慢するよ」。

帰ってみんなに見せびらかすが、どうせドラえもんの道具だろと全く相手にされない。のび太は無駄な骨折りだったと、そのツチノコを空き地に投げ捨ててしまう。

家に帰ってドラえもんにその話をすると、なんとドラえもんは、お弁当を渡してすぐ帰ったのだという。つまり・・・のび太が捕まえたツチノコは本物なのであった。

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この話でのポイントは、ツチノコが漫画っぽいブサイクキャラだという点である。これを押さえた上で次の話を見てみよう。

続けて「ツチノコ見つけた!」。これは小学六年生の3月号掲載作品で、来月から中学に進学する読者に向けたエールを送る作品となっている。

お話の冒頭、のび太の発言。

「僕はまもなく中学生。」
「この先、どういう人生を歩むか、それはわからないが、とにかくこの世に生まれたからには、何か一つ足跡を残したい!」
「野比のび太の名を、歴史の一ページに残したい!」

そこにタイムマシンから帰ってきたドラえもんが登場。未来の百科事典をのび太に渡す。そこのチツノコのページを読めという。

のび太は、「ツチノコ?どっかで聞いたことあるな」と反応し、

「あ、そうか幻のヘビだ!いるとかいないとか騒がれてた」

と過去形のコメントをする。前二回までのツチノコへの現在進行形の思いがだいぶ薄れている感じで、早くもツチノコブームが過ぎ去ったことを連想させる。

ツチノコの説明を読み進めるのび太。すると、1975年剛田武さんによって発見されたと記されている。ドラえもんは、彼は百科事典に名を残しているんだと発破をかける。

冒頭、歴史に名を残したいと言っていたのび太は、ジャイアンより先にツチノコを見つけようと空き地へと繰り出す。

ところがいくら探しても見つからない。諦めて家に帰るのび太だが、そこにドラえもんは、近未来でツチノコブームが起こり、ペットとして飼われているという情報を得てくる。

タイムマシンで2045年に行くと、町中でツチノコが大繁殖。ペットショップではお金が古くて買えなかったが、捨てようとしている少年からツチノコを譲り受けることに成功する。

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それを持ち帰って記者発表をしようとするのだが、目を話した隙にチツノコに逃げられてしまい、籠はもぬけの殻。まだ近くにいるはずだと探しに出るが、空き地でジャイアンが先にそのツチノコを見つけ出してしまう。結局、未来の百科事典にジャイアンの名前を残す手助けをしてしまったのび太であった。

ここで登場するツチノコは、前作「ツチノコさがそう」で安物のおもちゃ呼ばわりされたチープでブサイクな外見そのまま。それを興奮したように捕まえるジャイアンの様子はつい笑ってしまう。

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このジャイアンのツチノコ捕獲シーンは、藤子ファンの中でドラ名場面の一つと認定され、藤子・F・不二雄ミュージアムなどではグッズが売られたりしている。

ドラえもんの「ツチノコ三部作」(勝手に命名)を読み進めると、ツチノコブームの熱狂とそれが収まっていく様がわかって面白い。そして、藤子先生が描いたツチノコは、その後日本人における一般的なツチノコ像として定着していったように思える。

例えば「妖怪ウォッチ」に登場するツチノコなどは、惚けた装いが藤子先生のブサイク路線を引き継いだように見える。

さらに、ドラえもんが海外に進出するにあたって、ツチノコ像も輸出されて、台湾などではちょっとした知られた存在となったらしい。
(参考文献:「ツチノコの民俗学 妖怪から未確認動物へ」伊藤龍平 著)

今どきの人たちは、もうUMAへの関心もないのかも知れない。けれど、1973~74年に、確かにツチノコの大ブームがあったのだということは、紛れもない事実なのである。

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