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4人の友情に泣く「パーマン全員集合!!」/考察パーマン⑥

『パーマン全員集合!!』「週刊少年サンデー」1967年16号

これまで「パーマン」の考察を5回に渡って行ってきた。今回は4人揃ったパーマンたちの友情をテーマとした『パーマン全員集合』を詳細に見ていきたい。

本作が描かれたのは「パーマン」連載開始から4か月後で、パーマン仲間も4人揃い、それぞれの個性もしっかりと確立してきたタイミングとなる。これまでのギャグ路線から一転、少しシリアスでかつ感動的なドラマが描かれている。初期パーマンの傑作の一つとされている作品である。

本作では、みつ夫のパーマンとしての中だるみが事件の起因となっている。スーパーヒーローになることは憧れでもあるが、実際になってしまうと忙しいし、無償なのでやはり割に合わなく感じてくる。僕はこれを「ヒーローの中だるみ」と呼称している。サム・ライミの「スパイダーマン3」なんかもそのパターンの作品である。

ヒーローである自分と、小学生である自分。そうした二つの顔を持ち続けることが疲弊に繋がってしまうのである。


冒頭、ヒーロー活動に疲れたみつ夫がブービーからの出動要請を断るところから始まる。そこに、以前からパーマンに憧れている三重君が現れ、千円払うのでパーマンセットをパーマンから貸してくれるようにお願いしてくる

みつ夫はその申し出を一度は断る。お金をもらうことも、スーパーマンとの約束を破ることも気がかりだったのだ。しかし、ヒーロー中だるみ中のみつ夫は考え直す。お金儲けはパーやんもやっているし、三重も喜ぶし、誰にも迷惑をかけない、バレなきゃいいじゃないかと。本来悪いことと分かっていても、自己正当化してしまう。これ、凄く共感できる部分だ。

パーマンセットを借りた三重。案の定調子に乗って、カバ夫やサブにいつもの仕返しをするのだが、見知らぬ男にマスクを取った姿を写真に撮りたいと言われてポーズを決めているうちに、パーマンセットを奪われてしまう

一方のみつ夫は貸したことを後悔し、やはり貸すのを止めると三重に言いに行くのだが、時すでに遅し。パーマンセットは奪われた後だった。そしてそこに、バッジの呼び出し音。タイミング悪く、久しぶりに地球に顔を出したスーパーマンからの呼び出しなのであった。

パーマンセットを制服と呼んでいるのは目新しかったが、それはともかく、スーパーマンは怒り、「約束通り動物にする」と変換銃をみつ夫に突き出す。ちなみに動物変換ではなく、クルクルパーにする、というのが元々の設定であるが、そのあたりはご了解のほどお願いしておきたい。

あまりに厳しい措置に、他のパーマンからも抗議の声が上がる。それに対してスーパーマンは、「ちょっとした間違いでも制服が悪人の手に渡れば、世界中が滅茶苦茶にされてしまう」と正論を吐く。そして、「厳しい資格検査にパスしたものだけがパーマンになれるのだ」と、初めて聞く話をする。

スーパーマン曰く、パーマンの資格は二つ。

①その力を悪いことに使わないような人間
②その秘密を絶対に他人に漏らさないこと

いつの間にか、二つの資格をチェックしていたと言うのである。

この発言の矛盾に的確に突っ込むのは、賢いパーやんだ。だとしたら、みつ夫をパーマンに選んだ甘い判断をしたスーパーマンにも責任があったということだと。いわゆる任命責任の追及である。

一本取られたスーパーマンは、三時間だけパーマンセットを探す猶予を与えることにする。一秒でも遅れた許さない、と相変わらず強い口調である。

難を逃れて皆に感謝するみつ夫だが、パーやんは「礼を言うのはまだ早い」とあくまで冷静だ。ブービーとパー子は、居ても立っても居られないとばかりに探しに飛んでいく。パーやんは、なぜかみつ夫の家にお邪魔することする、という。


パーやんの舌足らずの性格については、前回の考察でも取り上げているが、本作でも真意のわからないことを始める。悪い癖だ。

みつ夫の家に入り、TVを見始めるのだが、みつ夫は「友達のピンチに呑気にテレビを見るとは!」と怒り出す。それに対して、「焦ってもしようがない」と、みつ夫も読者もイライラさせるパーやんなのである。

手がかりが無いまま、残り30分となる。相変わらずテレビを見続けるパーやんには、ミツ夫はブチ切れてケーキを頭からぶつける。これは無理もない。

その時、パーやんが遂に動き出す。テレビでニュース速報が流れて、パーマンセットを奪った男の犯行が発覚したからである。パーやんは闇雲に動き回るのではなく、情報が入るのを待っていたのである。なんと冷静で賢い男。のんびりしていたパーやんの表情が、グッと引き締まるのが、個人的にはカッコいい一コマである

「そうか・・・パーやんはボサーッとしているようで気が付くなあ」と感心するみつ夫。しかし、残り時間はなんと6分となってしまった。スーパーマンも姿を現わす。

現金輸送車を赤梅街道から奪って逃走している犯人をパーマン3人がかりで捕まえ、そしてマスクを奪取。そしてパータッチで急ぎみつ夫の元へと戻る三人。あとは時間との戦いだけだ。

残り二分。全速力で飛ぶ三人だが、どう急いでも10分はかかる。結局8分遅れで到着。神妙な顔つきのみつ夫を見て、「間の抜けた顔になってきた」とパーやん。ここは初出ではパーとなった、というようなことを言うのだが、それを受けてみつ夫は、「この顔は生まれつきだい」と言い返す。

スーパーマンは腕時計を示して言う。「約束の5時の1分前、君たちは間に合ったのだ」と。

スーパーマンが飛び去ったあと、パーマンたちは笑い出す。「あんな狂った時計を持っているなんて」

みつ夫は3人に素直に感謝の言葉を述べる。

「君たちには何とお礼を言っていいか分からない。今度のことは一生忘れないよ」

固く手を取り合う4人の姿は感動的だ。

宇宙のスーパーマンは言う。

「その友情をずうっと大事にしたまえ。おっと時計を元に戻しておかなくちゃ」

厳しさと優しさを兼ね備える、良い上司なのであった。

今読んでも泣けてくる。ヒーローの疲れは、仲間がいてくれれば解消できる。この作品を描いたことで、チームプレーとして「パーマン」の魅力が抜群に増したのではないだろうか。

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