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のび太の3大特技がスゴイ!けん銃編/考察ドラえもん⑥

「けん銃王コンテスト」
「小学六年生」1976年1月号/藤子・F・不二雄大全集3巻

何をやってもダメなのび太だが、いくつかの特技があって、それらは全て世界トップレベルであることはあまりに有名な話だ。のび太の取り柄、それが①拳銃②あやとり③昼寝である。

まず、②あやとりと③昼寝については、様々なエピソードの中に登場する特技だが、これらに焦点を当てた話としては「あやとり世界」(1977年)、「ねむりの天才のび太」(1982年)がある。この二本とも「もしもボックス」によって生み出された、あやとりと昼寝が世の中で最も大事な競技(?)であるという”もしも世界”のお話である。

のび太はこのもしもの世界で、あやとりチャンピオン、昼寝チャンピオンになる。つまり、あやとりと昼寝については、世界一の能力を有しているということだ。何の役に立つか不明の特技だが、世界トップクラスというのは凄いことである。

ちなみに「もしもボックス」はドラえもんでの代表的なひみつ道具で、「もしも世界が・・・だったら?」という思考実験の世界を実際に体験することのできるもの。書き手としては、作者の想像力が試される非常に挑戦的なひみつ道具である。F先生はこの道具を気に入っていたようで、「小学4年生」1976年1月号で初登場させて以来、繰り返し色々なテーマで取り上げてきた。

あやとり世界、昼寝の世界以外でも、「お金のいらない世界」「音のない世界」「鏡のない世界」「のび太が転校してしまう世界」など、ネタに困ったら出す、といった感じで頻繁に登場させている。

そして「もしもボックス」の集大成が、映画用大長編の「のび太の魔界大冒険」だろう。「科学ではなく魔法が発達した世界」という壮大なアイディアを、ワクワクドキドキさせる展開の大スペクタクルにまとめ上げた、F先生史上の最高傑作である。この作品については改めて全力投球で考察してみたい。

次に①拳銃の特技について。

のび太の特技の中でも白眉なのが拳銃のテクニックだろう。普段はのんびりとしているのび太が、何故か拳銃を持つと人が変わったような洞察力や瞬発力を発揮して、狙いは絶対に外さない一級のガンマンに早変わり。

この拳銃のテクニックを使った代表作が、「ガンファイターのび太」(1980年)である。西部劇の世界にタイムマシンで向かったのび太が、一人取り残され、西部の街で悪党どもと戦うことになるというお話。

この話を子供の頃テレビで見た。当時、毎日10分の放送だったが、本作は前後編二日にわたって放送され、日付を跨いでとにかく興奮したことを覚えている。最終的にはドラえもん(ドラミ)のひみつ道具は出てくるが、基本的にのび太の素の実力で困難に立ち向かわねばならないという設定が、血沸き肉躍った。

F先生もこの話が気に入っていたのだろう。これを書いた数か月後に連載が開始される大長編ドラえもん第二作「のび太の宇宙開拓史」で、再びのび太に拳銃を持たせて、宇宙版の西部劇を書き上げた。この作品は映画となることを最初から意識して書いた初めての大長編で、F先生が子供の頃から好きだったという西部劇の世界と宇宙SFの世界をミックスさせた意欲的な傑作だ。この作品もいずれ別の回で全力投球の考察を行いたい。

さて、この拳銃が得意という設定が初めてきちんと描かれたのが、今回取り上げる「けん銃王コンテンスト」である。この作品は、前出したような西部開拓時代や宇宙には行かず、普段の町の中で友だち同士でけん銃王の座を競うという夢いっぱいのお話となっている。作中で、コンテンストを始めるにあたり、ジャイアンに「俺こんな遊び大好き。幼稚園の頃からの夢だった」と子供の気持ちを代弁させている。

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では、この隠れた(?)名作を冒頭から見ていきたい。

いつもの空き地でけん銃ごっこをしているジャイアンとスネ夫ともう一人の男子。3人はそれぞれ、ルガーオートマチック1908、ワルサーPPK、バントラインスペシャルというモデルガンを手にしているが、F先生の趣味が発揮された精緻さで描かれている。特にジャイアンの持つバントラインは、かのワイアットアープが使っていた名銃として紹介もされている。F先生は銃マニアでもあったのだ。

のび太はモデルガンを持っていないことをバカにされ帰宅するが、帰るや否や押し入れからコルクを飛ばすおもちゃの銃を探し出す。そして、机に鉛筆を何本も立ててその銃を向けると、立て続けに鉛筆を倒していく。百発百中。のび太の特技の初お目見えのシーンである。

それを見たドラえもんは、「誰でも取り柄がるもんだねえ」とバカにしたように感心して見せる。のび太はイラっとしつつ「僕が100年ほど早くアメリカの西部に生まれていたら、ガンマンとして歴史に名を残したと思うよ」と答える。この一言が、「ガンファイターのび太」のアイディアに繋がったことは間違いない。

のび太の思いを叶えるべく、ドラえもんが取り出しのが「空気ピストル」というひみつ道具。指の先に液を垂らして、「バン」と言うと空気の塊が飛び出して、相手を気絶させるというもの。

のび太は再び空き地に向かい、けん銃ごっこを続けていたジャイアンたちに声をかける。皆でけん銃コンテストをやろうというのである。ルールは、この空気ピストルを10本の指に仕込んで、各自町に散り、出会ったら決闘し、撃たれたら負け。そして最後まで残った者がけん銃王になる、というもの。

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面白そう、ということで大勢が集まってきてコンテストが始まった。ここからがのび太のガンマンテクニックの見せ所。まず一人目、出会った男子に「お先にどうぞ」と先に撃たせてあと、余裕の一発で仕留めてしまう。

その様子をみたスネ夫ともう一人の男の子は、二人がかりでのび太を倒そうと背後からひたひたと迫っていく。ガンマンのび太は、急に洞察力を増す。止まっていた車のバックミラーに映る二人を見止めると、すぐさま振り返って二人を2発で倒してしまう。この様がとにかくカッコいいのである。

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さらに空き地で撃ち合っていた3人を挑発して三発で一網打尽。いよいよ残すはジャイアンのみとなる。そして新ためて残りのタマ数を確認し、あと3発は残っているはずだと勘定する。

そんなのび太の様子を茂みの陰で伺うジャイアン。ジャイアンは、ヒュウと口笛を吹いて野良犬3匹をのび太にけしかけるのだが、襲われたのび太は犬を倒すために思わず残りの3発使ってしまう。

「ウフフフ」と、いかにも西部劇の悪党さながらのび太の前に現れるジャイアン。先ほど玉を使い果たしたのび太に対し、ジャイアンは最初から隠れていたので、10発まるっと残しているのである。

「どこを狙ってほしい。頭か?胸か?」とセリフも悪役そのもの。ジリジリと追い詰められるのび太。しかしガンマンのび太は機転が利く。先ほど倒した男の子の腕に飛びつき、バンと残り玉を発射してジャイアンを倒してしまうのであった。

このガンマン対決の一部始終は、まさにのび太の独壇場。連載が始まってから、おそらく最もカッコいいのび太ではなかっただろうか。この隠れた名作は是非読んで堪能してみてほしい。

おまけ:こうしてみんなに見直されてご満悦ののび太だったが、家に帰ってママに「大活躍で腹ペコなんだ。バンご飯まだ?」と指先を向けてしまう…。実は一発残っていた空気ピストルでママは撃たれて失神。「タマの数間違えてかな?あそこで一発、あそこで二発…」と数勘定のできないのび太でお話は終わる。

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