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藤子F初期作品をぜーんぶ紹介!!/①1953-54年

この藤子F-noteでは、藤子F先生の膨大な著作の全てを検証していきたいという野望がある。何年かかるのか、途中で断念してしまうのかはわからないが、一応努力はしておきたいと考えている。

既に「未完のデビュー作」となる『天使の玉ちゃん』と、最初で最後の書き下ろし大作『UTOPIA最後の世界大戦』については、記事化を終えている。特に後者の考察記事は、個人的に完成度の高い文章が書けていると思っている。是非興味のある方はご一読願いたい。

『UTOPIA』を書き上げた藤子不二雄は、コンビで上京し、伝説のトキワ荘に入居する。そこからは、お互いに単独作・合作織り交ぜながら、尋常ならざる分量の作品を描き上げていく。F作品については、藤子・F・大全集のおかげで、そのほとんどを読める環境にしてもらったので、発表順に作品を読み返して、少しずつレビューを残していきたいと思う。

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『暴風の奇術』
「少年少女冒険王」 1953年12月号/初期SF作品

ウィキペディアの著作リストによれば、藤子F先生最初の単独作品となっている。まだ富山から上京する前に描かれた作品となる。掲載誌は「少年少女冒険王」という秋田書店から出版されていた月刊誌。49年創刊で56年2月からは「冒険王」と名前が変わった。

作品は6ページのミステリもの。
暴風の夜。お屋敷から銃声が聞こえて、たまたまその前を通りかかった主人公の男の子が、逃げてくる犯人の写真を撮ったことから物語が始まる。

この時代、まだまだ小型カメラは一般的ではなかったものと思われ、カメラ好きで知られるF先生ならではの小道具と言える。また、写真の引き伸ばしを使って犯人を見つける展開は、本格的なカメラ普及の前の段階としては、画期的なアイディアであったように思う。

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『宇宙鉱脈』
「探偵王増刊 漫画ブック」1954年新年増刊号/初期SF作品

16ページの中編で、人口流星をめぐる活劇。主人公は男の子二人。自由自在に星を操り、世界支配を目論むゲラール氏率いる秘密団体の基地に入り込み、研究者であり組織を裏切ろうとしている初老の博士とともに、ゲラールの野望を止めようとする。躍動感あるアクション描写が印象的な作品である。

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『ぼくは…うしろにつけた』
「漫画少年」 1954年09月号/初期SF作品

変則4Pのコミカルなお話。掲載誌の「漫画少年」は、藤本・安孫子両名が学生時代から頻繁に投稿していた月刊誌で、新人作家の登竜門的役割を担っていたとされる。1947年12月創刊、1955年10月号で休刊。藤子不二雄としては、1954年5月号掲載の『一米四方の冒険』(合作)からほぼ毎月原稿依頼があったようで、『まんが道』を読むと、「漫画少年」を頼りに上京しているようにも見える。

後ろにも目を持った三つ目の男の子が主人公。後頭部に目を持つことで便利となること、不便となることを笑いを交えて丁寧に描いている。「もし本当に後ろに目があったら」というお題に対して、きちんとその状況を想像してディティールを積み上げている。

SF設定自体を思いつくことも大事だが、その設定だった場合、実際どんなことが起こるのか、という想像力が必要な部分から逃げずに取り組むのが、F作品のその後にも通じる特徴の一つ。

「ドラえもん」の『手足七本目が三つ』にも出てくる逆向きお辞儀のギャグもここで登場している。

なお本作は、トキワ荘仲間と立ち上げた「新漫画党」の同一お題による競作の一本で、そのお題は「神様からもうひとつの目をもらったら」であった。

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『さてほんとうに穴をでるには?…』
「漫画少年」 1954年10月号/初期SF作品

3ページ。大きな穴から出られなくなってしまった4人の男の子の脱出劇。化石の入った石を穴の外に何個も投げ出して、他の遠足に来ていた人たちの目を引くという作戦で、見事脱出に成功する。ほのぼの楽しい作品となっている。

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『ある日本人留学生からのローマ便り』
「漫画少年」 1954年11月号/初期SF作品

4ページ。ローマに住む日本人の歴史研究者の卵が、イタリア政府からの研究費が打ち切られることになって、帰国しなくてはならなくなる。そんな時、奇跡が起こる…。

この年の4月にオードリー・ヘプバーン主演の「ローマの休日」が公開され、大ヒットを飛ばして、この年の洋画作品の配収一位を獲得するほどの勢いだった。映画好きだった藤子F先生がこの作品を見逃す訳もなく、冒頭のカットからもその影響が見て取れる。

コロッセウム、トレヴィの泉と観光地も巡る。ローマの歴史好きだったF先生ならではの題材であるように思う。

また、本作も新漫画党の競作の一本で、お題は「日本人が眠っている時」だった。

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今回は上京~トキワ荘入居~新漫画党結党の頃に描かれた5作品を詳細した。ミステリーあり、SFあり、ほのぼの日常ものあり、ローマの物語あり、といきなり作風の幅広さが印象的。描きたいことが次々と溢れ出てくる様子が想像できる。将棋で言えば、オールラウンダーとしてデビューした羽生善治さんを彷彿とさせる。

「初期作品をぜーんぶ紹介!!」はシリーズ化させて、少しずつ記事化していくつもり。次回は、1955年の発表作を見ていく予定である。

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