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藤子Aの大傑作活劇「シルバー・クロス」ビック・5篇

『シルバー・クロス』
「少年」1960年6月号~1963年8月号

子供の頃は、藤子不二雄の作品は安孫子先生と藤本先生の二人で一緒に描いているものと思っていたので、F作品だから、A作品だから、というような区別は全く考えずに、「藤子不二雄」のマンガとして、あれこれ読み漁っていた。

今となってはF先生とA先生の描いた作品が、絵のタッチも物語の方向性も全く異なっていることが良くわかるわけだが、あの頃は全く区別が付かなった。

まるでスタジオ・ジブリ作品と括って見ていた映画が、宮崎駿と高畑勲という全く個性の異なる二人の監督によって作られていることを、後から知るようなこととよく似ている。

なので、子供の頃から藤子不二雄作品として、熱狂して読んでいたA作品も数多く、それらについてもこのF-noteで取り上げねばなるまいと常々思っていた。

今回は、そんなA作品の中から、特別に好きな『シルバー・クロス』という作品の「ビッグ・5篇」について、熱く語ってしまおう、という記事となる。考察はできてないので、取り留めのない文章となりますがご容赦ください。。


まずは作品の背景から。
『シルバー・クロス』は、1960年に光文社の月刊誌『少年』に連載が始まった作品で、大きく4部構成を取りながら、約3年間・全41回(読切含む)描かれた大活劇マンガである。

その中で特に大傑作と言われているエピソードが、「ビック・5篇」と呼ばれるシリーズで、実に3年余の連載の中での約半分の期間を費やした大作だ。A先生は、本作のようなストーリーマンガを得意としている印象を持つ。

もう一方の藤子F先生は、基本的に短編の名手で、数年に及ぶようなストーリーマンガを描くようなことはほとんどない(合作の「海の王子」くらいか?)。一ページ一ページ、一コマ一コマを濃密に緻密に描き込むのが大きな特徴であろう。

ところがA先生は、「プロゴルファー猿」しかり、「まんが道」しかり、本作しかり、数年に渡るような長編ストーリーマンガの傑作を何本も描いている。F先生と個性が全く異なるのである。

ちなみに、本作が描かれた1960年は、二人の合作『海の王子』が週刊少年サンデーにて連載中だった。F先生は、単独で「ドラえもん」のパイロット版とも言われる『てぶくろてっちゃん』などを連載していた。F先生は生活マンガの方向性に舵を切り始め、A先生はストーリー重視の活劇で評価を高めていった。二人の藤子不二雄が、それぞれの個性を開花させようとしていた時代となる。

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シルバークロスの概要について。
主人公は、国際的秘密結社QQQ団に父を殺された少年・黒須健二。彼は猛特訓の末に秘密警察・十字警察の一員となり、シルバー・クロスとして、世界中の悪党と命を賭して戦うことになる。

流麗な躍動感溢れるコマさばきが、大きな見所だ。西部劇などのアクション映画で学んだと思われるカット割り、近景・遠景を使い分けるキャメラワーク、巧みなシルエットの使い方、改めて読むとカッコ良くて痺れる。このカッコよさは、F作品にはあまりないものだ。

加えてキャラクターがいい。やや過剰にデフォルメされたビジュアルで、マスクを被ったりしているのに、表情が豊かに見えたりする。キャラクターの強さが、A作品の特徴ではないかと思う。

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続けて「ビック・5篇」について見ていく。本作の最大の魅力は、何といっても敵の存在感にある。

アフリカに突如新興した「スケルトン帝国」。黒人を奴隷にしている独裁的な軍事国家で、率いるのはマスクの独裁者・カリギュラ総統である。カリギュラは、SBIという秘密警察を組織し、国民を監視体制の元に置いている。

このSBIのメンバーがとにかく個性的。特に、ビッグ・5と呼ばれる名うての5人は、それぞれに得意技があり、暗殺のテクニックを持っている。簡単に紹介しておこう。

アイアンマン・・・ビック5の総司令で、全身を鋼鉄の鎧で覆っている。銃などの対人戦闘能力がめっぽう高く、男気のある真っ直ぐな性格。マーベルの「アイアンマン」が生まれたのは1963年だから、本作の方が先に登場させている点を強調しておきたい。最初の登場までは、シルエットにして期待感を煽り、いざシルバークロスと一騎打ち、というシーンでようやく全貌を見せる仕掛けとなっている。十字警察との戦いの陣頭指揮を執るが、敗戦が続き、最後は身内によって処刑される。

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キングコブラ・・・ムチの名手。最初のシルバークロスの敵で、見ごたえのある攻防を見せる。その後、十字警察の一人の自爆に巻き込まれて死亡。最初のビック・5の脱落者となった。

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毒蜘蛛タランチュラ・・・蜘蛛のような身のこなし、命綱を使って空を舞い、義手を使って翻弄する。口からの毒針攻撃などトリッキーな技を繰り出して、十字警察を苦しめる。シルバークロスと戦いで、目つぶし攻撃によって優位に立つが、降り始めた雨で目つぶしが流れて、取り逃がす。その直後不運が重なり、教会の屋根から落下して死亡。

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機関銃コリー・・・その名の通り、機関銃のぶっ放しが得意な男。シルバークロスとブラッククロスとの地下水道での対決で、機関銃を水路に落とし、機関銃を救おうと飛び込み、水流に飲まれてそのまま溺死してしまう。

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医者上がりのドック・・・凄腕のガンテクニックを持つが、アルコールに溺れて、腕を落としている。シルバークロスが怪我をしている所を助けるなど、医者としてのプライドを強く持つ優しき男。その後シルバーとは一騎打ちにもなるが、手が震えて敗れる。「この手が震えていて良かった。シルバーを傷つけずに済んだからな」とひたすら格好いい。途中で姿を消してしまう。

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十字警察は7人で乗り込むのだが、二人は最初に死んでしまう。そこにビック・5が現れるので、5対5の形となり、十字警察とビック・5のどちらが生き残るのか? という見せ場が序盤から中盤までの見所となっている。

そして、十字警察を何度か取り逃がしたアイアンマンを処刑したのが、ジーグフリードという謎めいた暗殺者である。このジークフリードとの戦いが、後半の最大の見所となっていく。

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十字警察の側は、リーダーがジャストメンという男で、今回のビック・5篇では実はあまり目立った活躍はしていない。シルバークロスの兄貴分がブラッククロスで、冷静沈着で戦闘力も高く、最も頼れる男だ。

後半、顔を包帯でグルグル巻きにして、その上からサングラスを掛けるというとんでもない風貌の男、ホワイトスネークが参戦する。この男はビック・5篇の前に連載していたQQQ団篇での強敵で、敵が味方となって現れる、という展開である。後に「キン肉マン」「ドラゴンボール」などのジャンプマンガで使われるストーリーテリングの手法だが、先んじてA先生は採用している。

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ホワイトスネークは、銃の名手だが、ジーグフリードと一対一で撃ち合い、片手を吹っ飛ばされてしまう。しかし、この戦闘中、撃たれる直前にバックルカメラで写真を撮っており、これがジークフリードの秘密を明らかにしたのだった。

ジーグフリードの正体と弱点。
ジーグフリードは、マブゼ博士の息子、というようなことで登場する。初登場では、雷鳴と共に姿を現わす。十字警察の一人をやっつけて手柄を取ると、反抗的なアイアンマンに対しても、圧倒的な力でねじ伏せ、仕留めてしまう。とんでもない実力を持った怪人だ。ホワイトスネークが片腕を代償に得た情報は、ジーグフリードの正体がロボットであるということだった。シルバークロスは、ジーグフリードとの一騎打ちにて、強力なマグダム弾を胸に仕込んだ電子頭脳に打ち込んで狂わせ、撃破に成功するのだった。

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本作は基本的にビック5とジーグフリードとの戦いがメインとなるが、その合間にはワニとの戦いや底なし沼での奮闘、戦車戦や、敵陣の戦車のハッチに手りゅう弾を投げ込んだり、川下りで原住民の襲来から身を守ったりと、常に冒険と活劇が連続する

シルバークロスのガン・テクニックも読者を大いに喜ばせる。「十字撃ち」だけでなく、「伏せ撃ち」「スリーピング・アイ」などの多彩な銃撃テクニックが登場する。「プロゴルファー猿」でも、旗包み、モズ落とし、といったスーパーテクニックを披露していたが、ケレンのある必殺技を挟みこんでいくのもA先生ならでは作風と言えるだろう。

本作でカリギュラ総統は行方不明のまま事件解決となるが、次のシリーズとなる「イーグル・キング篇」に再登場し、帝国復興を夢見ていることが描かれる。その時はシルバークロスと一騎打ちとなり、逆十字撃ちというトリッキーな技で敗れ、海に身を落としている。

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取り留めなくシルバークロスを紹介してきたが、主人公が少年であること、少年が銃のテクニックで次々と悪の大人たちを倒していくこと、そういった「ジャンプ」的な爽快感が特徴的であるように思う。少年の日常を描くF少年の活躍を描くA。この頃はまだA先生も少年マンガに軸足を置いているが、同じ少年マンガでも全く方向性が異なる

藤子不二雄が二人で一人だと思っている読者にとって、単純に藤子不二雄の作風が、この頃から一挙に拡張している印象となるだろう。「てぶくろてっちゃん」と「シルバークロス」が同時に連載されるという幅の広さを獲得し、藤子不二雄は、本格的な全盛期の到来を迎えるのである。

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