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パーフェクト・デイズ

今年のカンヌ国際映画祭で役所広司さんが主演男優賞に輝いた、ヴィム・ベンダース監督の「PERFECT DAYS」がようやく劇場公開となったので、さっそく足を運んだ。

今年の東京国際映画祭のオープニング作品として本邦でも上映され、その評判の良さが漏れ伝わってきていたので、非常に楽しみにしていたのである。

まず総評すると、個人的に今の気分にジャストフィットした素晴らしい作品であった。

ともかく、全編出ずっぱりの役所広司さんの演技が秀逸。役所さんは、もともと何かテーブルの上を拭き掃除したり、棚の整理をしたりといった動きの芝居が上手いなあ凄いなあと思って見惚れていたのだけど、本作はその極致を見ることができる。

役所さんがトイレ掃除をする姿、お手製盆栽(?)に水をやる仕草、車内でカセットを探る様など、延々に見ていられる所作なのである。

そんな役所さん演じるトイレの清掃員が、毎日毎日丁寧に仕事をして、慎ましく暮らしていく様子が描かれていくわけだが、同じような日々が続くようで、それなりの出会いがあったり、再会があったりと、ささやかな出来事が起きる。

何か映画的に大きな事件が起きるわけではないが、人生ってそういうことだよね、という説得力に満ち溢れている。


また、ベンダース監督は小津安二郎シンパで有名だが、小津安二郎が戦後描いてきた一連の家族ものの、その先を描いている点に着目しておきたい。

たとえ家族という固まりが離散したとしても、それで人生は孤独だと感じる必要はない。一人の人間となった先にも美しい日々があることを本作では語っているように思えるのである。

ともかくも、これほど心地よい映画もなかなかあるまい。ルー・リードの「PERFECT DAY」を聞くだけでも、是非ともスクリーンに足を運んでもらいたいと思う。



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