胸アツ!自己犠牲4大キャラその1:台風のフー子/考察ドラえもん⑪前半
「台風のフー子」
「小学二年生」1974年9月号/藤子・F・不二雄大全集6巻
忘れてしまいがちだが、「ドラえもん」は基本的にギャグマンガである。便利なひみつ道具を使ってその恩恵に与った後は、調子に乗って悪用してしっぺ返しに遭う、というのがベースパターンとなる。
ところが、時おりものすごく泣ける感動エピソードが現われ、これにF読者は心を掴まされる。
感動エピソードの代表は、感動良いとこどりの「STAND BY ME どらえもん」2作で主たるテーマとなった”おばあちゃんもの”や、”さよドラ×帰ドラ二部作”や、みんな大好き「のび太の結婚前夜」などである。
けれど、感動エピソードはもちろんそれだけではない。
今回僕がオススメするのは、自らの命と引き換えに世界を救う”自己犠牲キャラクターもの”というF先生お得意のパターンの作品群である。個人的に自己犠牲4大キャラクターと呼んでいる4人(?)を紹介したい。
まず自己犠牲パターンの最初の作品「台風のフー子」である。僕の知り合いのF通の映画監督は、ドラえもんの中で本作が一番好きだと言っていたが、全く頷ける。
しずちゃんの小鳥を卵からかえして心から可愛がって育てたという話に影響されたのび太は、自分も卵から何かを育てたいと言い出す。ドラえもんから、どんな生き物がかえるのか忘れてしまった卵を渡されて、さっそく布団で温める。
するとドラえもんが飛んできて、それはかえしちゃダメだと言うのだが、既に卵から、台風の子どもが生まれてしまっていた。気象台の学者の研究用の台風の卵であったのだ。
ドラえもんに、危ないから捨てようと言わるれるが、さっそく懐く台風を見て、可愛がって育てるのだと宣言するのび太。名前をフー子と名付けて、台風の飼育が始まる。
台風のえさは熱い空気だということで、ロウソクに付けた火を食べさせたり、投げた枝を取ってこさせたりと、まるで犬のように育てるのだが、それらの仕草がすごくかわいいのである。
そうこうするうちに、フー子は風力が強くなっていき、部屋を散らかしたりと悪戯をするようになる。見兼ねた両親から、近所迷惑にもなる、ということで捨ててこいと言われて、空の散歩中に置いて帰ってしまおうとするのだが、フー子は離れようとしない。押し入れに閉じ込めておくから、と泣いてフー子を家に置いておくよう懇願するのび太。
このあたりの描写は、台風であることを除けば、ペットあるあるである。
それから三日後。ものすごい大型台風が発生し、まっすぐ日本に向かってくると予報が出る。屋根が傷んでいたのに、直していないことが発覚する野比家。風雨が強まり、停電になる。
その時、閉じ込められていた押し入れから飛び出すフー子。フー子の目はこれまでの可愛らしい愛玩物の目ではなく、真剣な目つきに変わっている。フー子は家から嵐の中に飛び立っていく。
テレビでは、日本に迫る大型台風に向かって、日本から小型の台風が飛び出しぶつかっていく天気図が報道される。二つの台風は絡み合って動かなくなる。フー子と大型台風が戦っているのである。
「フー子、負けるな。頑張れ。」
風が収まり、台風が二つとも消えたと報じられる。フー子は身を挺して日本を台風から守ったのである。安堵するのび太の両親をバックに、一人夜空に向かって涙をこぼすのび太。
ラストカット、のび太はつむじ風を見て言う。
「小さな風が舞っていると、つい思い出しちゃうんだ。フー子のことを」
わずか10ページで、ペットを飼う喜び、自己犠牲の精神などがぎっしりと詰まった傑作である。
藤子F先生は、本作の自己犠牲パターンをこの後も幾度か繰り返していくことになり、大長編ドラえもんでも使われるモチーフとなる。
そして、藤子先生が亡くなった後の大長編において、本作をベースとした作品も作られている。それが大長編23作目「ドラえもん のび太とふしぎ風使い」である。
F先生亡き後の大長編をどのように作っていくのかという問題は、いずれ記事にしなくてはならないが、「風使い」において「台風のフー子」に目を付けたところは、とても感心している。もっとも、フー子を着ぐるみの中に入れてしまう展開はどうかと思っているが。。
さて、ここまで4大自己犠牲キャラクターの紹介ということで、パターンの原型となった「台風のフー子」について紹介した。次回は、一気に残りの3人を取り上げる。