胸アツ!自己犠牲4大キャラその2:雪の精/考察ドラえもん⑪後半
「精霊よびだしうでわ」
「小学三年生」1980年3月号/藤子・F・不二雄大全集10巻
「ドラえもん のび太の海底鬼岩城」
「コロコロコミック」1982年8月~1983年2月号
「ドラえもん のび太と鉄人兵団」
「コロコロコミック」1985年8月~1986年1月号
前回の記事では4大自己犠牲キャラクターとして、その原型となった「台風のフー子」について詳細の解説を行った。
続けて、ほぼ同様のパターンを踏襲する「精霊よびだしうでわ」を見ていきたい。本作は火の精、水の精、風の精、木の精などの精霊を呼び出すことができるひみつ道具を使ったお話。
この道具は、うでわをさすりながら「○○の精」と口に出すと、その精霊が出てくるというもの。最初は家のストーブの燃料を切らしてしまったので、温めてもらおうと火の精霊を呼び出すのだが、出てくるなり「何を燃やせばいいんだ?」「カーテンを燃やそう」と物騒な行動を取り出す。
止めようとすると火で反撃を食らうのだが、一階でタバコを吸っていたパパが火を消すと、精霊も消えて事なきを得る。どうやら近くに火の種がないと火の精は生存できない仕掛けとなっているらしい。
この火の精のくだりで、二つのポイントが明らかとなっている。
①精霊は近くに自らの元がないと存在できない。
②精霊は結構凶暴。
この二点がその後の伏線となってくるので注目しておきたい。
のび太は家にいても寒いということで外に出ると、雪は降っているがまだ積もるほどではない。そこで「この寒さは雪のせいだな」と呟いて腕をさすると、「ゆきのせい」の言葉に反応して、「雪の精」が姿を現す。
雪の精の風貌は、スタイルの良い美少女タイプ。彼女はどんどん雪を降らし、雪が大好きだというのび太と雪のサーフィンなどで遊ぶことに。そこに、ストーブがついたとドラえもんがやってくる。
ドラえもんは、雪の精を呼び出したと聞いて、「やっかいなことになるぞ」とのび太に告げるが、「内緒話は嫌い」と雪の精はドラえもんをどこかへと飛ばしてしまう。
雪の精はすっかりのび太を気に入ってしまい、半ば無理やりに吹雪を使った空中遊泳に連れ出す。「雪はもういいよ」というのび太に対して精霊は、
「そうはいかないわ。雪が無くなると私も消えちゃうんだもの」
「春なんか来させるもんですか」
「あたしは消えたくないの。いつまでも、いつまでも」
と、不穏な台詞をはく。さすがに夜も更けて、のび太は家に帰ることに。帰るとニュースでは「気象庁始まって以来の大雪で電車も車もストップ…」と報じられている。この辺り「台風のフー子」と非常に似通った展開となっている。
部屋に戻ったのび太は寒気を覚え、酷い熱を出していることが発覚する。大雪でお医者さんも来ることができない。寝込んでしまったのび太の枕元に雪の精が姿を現す。
雪の精は、のび太の額に手をやり、熱を吸収しようとする。のび太は気がついて、「そんなことをしたら君が…」と彼女を思いやる。雪の精は言う。
「消えちゃうわ。でもいいの。雪は消えるのが当たり前なのよ」
「信じて欲しいの。あなたに風邪を引かせるつもりなんて無かったのよ」
「ほんとにあなたが好きだったのよ」
翌朝、のび太の熱は下がっていた。雪もすっかり消えたのだと言う。庭へ出ると温かい南の風が吹いている。もうすぐ春だと喜ぶドラえもんだが、のび太はどこか寂し気な複雑な表情を浮かべるのだった。
この雪の精のストーリーラインは「台風のフー子」をなぞっているのだが、本作の要素もまた、大長編ドラえもんに引き継がれていく。それが本作の5年後に描かれた「ドラえもん のび太と鉄人兵団」である。
ここで登場する人間型ロボットのリルルは、その外見、性格が雪の精そっくりとなっており、最後に改心して、自らの命が消えるのを覚悟した自己犠牲の行動を取るというパターンも同じである。
そのように考えると、「台風のフー子」→「精霊よびだしうでわ」→「のび太と鉄人兵団」というようにアイディアが発展していったのはほぼ間違いないだろう。
ちなみに「精霊よびだしうでわ」が発表された前月には「大あばれ、手作り巨大ロボ」という、これまた「鉄人兵団」に繋がるエピソードが描かれている。ここでは「ミクロス」や「ザンダクロス」の元となったロボットが登場している点に注目したい。
ここまで、4大自己犠牲キャラクターの①フー子、②雪の精、③リルルを見てきた。そして最後4人目は、究極の自己犠牲ストーリー「ドラえもん のび太の海底鬼岩城」のバギーとなるだろう。
バギーは、最終的に大ボス・ポセイドンに突っ込んで爆発し、ネジ一本しか残らない。壮絶な特攻精神を見せつける。涙無くしては読めないラストシーンである。
バギー登場の「のび太の海底鬼岩城」、リルル登場の「のび太と鉄人兵団」の大長編2本については、別の記事を立てていずれじっくり考察せねばならないだろうと思っている。が、今回はここまでとしておきたい。
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