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【オープンビレッジ④】暮らしの解像度を上げる。(ゲスト:俵山ビレッジ発起人・吉武大輔さん)

澤正輝(以下、澤):こんにちは。ラーニングビレッジ代表の澤正輝です。

10月から公開記念イベントを全4回ではじめ、今日はその最終回。ゲストには俵山ビレッジ発起人の吉武大輔さんをお迎えしました。

吉武さん(以下、吉武):ありがとうございます。ラーニングビレッジについてのお話を聞いたときは、率直にありがたいなと思いました。

コミュニティを作りたい人って、直感派が多いと思うんです。でもコミュニティには生み出すこと、育むこと、つなげていくこと、継承していくことと段階がある。

直感でできるのは生み出すところまでで、育んでいくには論理性が必要なんです。そのためにも、ラーニングビレッジは貴重な機会だと思います

「ブーム」から「文化」へ

吉武:僕は山口県で生まれ、英語の先生を目指して横浜の大学に入学しました。ところが、大学でいろんな人に出会い、ストレートで先生になっている場合じゃない。自分の視野をもっと広げて、それでも先生になりたかったらなろうと思うようになったんです。それから色んな法人やプロジェクトを立ち上げたり参加したりしてきました。

コミュニティづくりには結構早くからかかわっていて、大学4年生の時にシェアハウスを立ち上げました。

当時はルームシェアという言葉はあったものの、赤の他人が一つ屋根の下に暮らすというのはなじみがないもので、「若者が集まってそんなことして何になる」と言われました。

でも今では、シェアハウスって普通になりましたよね。これが「ブーム」が「文化」になったってことだと思っています。

今、エコビレッジとかコミュニティって「ブーム」だと思うんです。これが
「文化」になっていくことで、人々の選択肢になる。だから今が大切。そのカギになるのが、シェアビレッジ、ラーニングビレッジだと思っています。

2020年にコロナが始まったとき、「これは数年かかるぞ」と思いました。東京にいても人と人がつながれない。マスクをしていないだけで白い目で見られる。

東京に戻る意味が見出せなくて、日本一周の旅に出ました。自分にはどんなところで暮らすのがあっているのだろう。「直感ぶらり旅」という企画を立ち上げて、オープンチャットで200人ほどの人たちと居場所や今日やったことを共有しながら、日本中のコミュニティや温泉を巡りました。

僕は山口県の瀬戸内海側生まれなんですが、この旅の途中に山口県の反対側にある俵山温泉と出会いました。俵山温泉は西日本で一番の「湯治場」、心身の病気を治す温泉なんです。

観光温泉みたいに派手じゃなくて、古い集落のようにポツンとある。ここに本物のお湯が沸いています。

俵山温泉には旅館に温泉がありません。旅館から浴衣を着て下駄をはいて、温泉に入りに行く外湯の文化が残っています。

旅館の当主さんのことは、みんな旅館の名前で呼びます。みんなの距離が近いんです。

お湯が出る町「湯町」では約300-400人くらいの人が暮らしています。高齢化率は約60%。集落全体の人口はここ2年で約40人減っていて、集落の人たちと、この町をどうやって残していくのか話し合っている最中です。

1人のカリスマがコミュニティを作る時代は終わった

吉武:活動を始めて2年がたちました。現在は物件を7件所有していて、20代から50代までの11名で、俵山ビレッジを運営しています。

俵山ビレッジのゴールの1つが「子育てを中心にしたコミュニティ」を作ること。子どもが育たないコミュニティは必ず衰退します。

先日お隣の萩市のお豆腐屋さんのおばあちゃんとお話しする機会がありました。このコミュニティは、人口92人、0歳から14歳が0%、15歳から65歳が25%、それ以上が75%とぽ言う超高齢化社会。おばあちゃんたちは、このコミュニティに実質未来がないことを理解しながら、長年引き継いできた豆腐を作り続けています。

「若い子たちが『もうだめだ』と思って出て行ってしまったら、この町は成り立たなくなってしまう。だから、あなたたちが若い子たちを連れてきてくれるのがうれしいんです。」

そうおばあちゃんたちが言ってくれた時に、涙が出そうでした。この人たちの力になりたい。そう思いました。

エコビレッジとかスローライフだとか、「やりたいことしたい!」って勝手に始めるのは簡単なんですよ。でも実際は、どれだけ地域のためになるかっていうのがすごく重要。

「どうせいなくなるんでしょ。」って今まで何度も言われたし、今でも言われます。でも、子育てをするっていうのは、その地域に根差さないとできない。だから、自分たちが子育てをしたいと思えるコミュニティを自分たちの手で作っていきたいと思っています。

具体的なコンセプトとしては、健康のディズニーランド。一週間くらい訪れて、湯治以外にも断食やヨガが体験でき、箸の持ち方とか靴を揃えるとか、そういった生活習慣を見直すことを通して人生を見つめなおすことができます。

コミュニティは専門性と関係性がないと成り立たない。たとえるなら起業と結婚を一緒にするような感じです。

コミュニティのゴールイメージを共有することも大切です。

ただ人が集まるだけじゃ、コミュニティじゃなくて烏合の衆になってしまう。価値観の近い人たちが集まって、ノリの合う人たちだけで固まってしまえば、地域の人たちとのつながりがなくなってしまいます。だから初めに、何をKPIにするのか、時間軸とともに決めておくことが必要です。

僕は俵山ビレッジが「吉武大輔の俵山ビレッジ」じゃなくて、発起人を必要としないコミュニティであるべきだと思っています。

1人のカリスマがコミュニティを作る時代は終わっている。責任は必要ですし、0→1にするメンバーは必要ですが、それだけに頼ってしまってはもって30年。だからこそ、次の世代を育てていかないといけないと思っています。

運と縁

澤:コミュニティをどこでいつはじめるかってその後にも影響してくると思うんです。どんな理由があって「やってみよう」と思ったのか聞かせてもらえますか?

吉武:大事なポイントでの決断って、論理的に決めるってより運と縁だと思うんです。その運と縁を引き寄せる力と、それを形にできる力をそれまでに貯められるかが重要になってきます。

俵山温泉に出会ったとき、未来を描けたんです。

ぶっちゃけ、どこでもコミュニティは作れる。あとはその人によって、場所で決めるのか、方法で決めるのか、時で決めるのか、それぞれだと思います。そんな中、僕の決め手となったのは人との出会いでした。キーパーソンたちと深い関係を作れたことが大きかったと思います。

澤:そうやって引き寄せた運と縁を形にしていくときに必要なこととして、吉武さんがコミュニティ運営を目指す人達に伝えていることって何かありますか?

吉武:靴を揃えなさいとか、箸の持ち方気をつけなさいとか、挨拶しなさいとか。当たり前のことです。心に余裕がなくなるとコミュニティって崩壊してしまう。

他にも、例えばなにかいただいたときにお返しをするタイミングってありますよね。そのときに、相手はお酒を飲む方なのか、ビールがいいのか日本酒がいいのか、それとも甘いものを上げたほうが喜ぶのか。そういうことを知ろうとすることで、自分も人間として成熟していく。

澤:なんか修行っぽいですね。

吉武:そんなつもりはないんですけど、よく言われます。きっと、それを修行と思うってことは普段してないってことだと思うんです。

そうやって注意されて嫌だなって思う人達はコミュニティから離れていく。だからそれを当たり前にできる人たちのコミュニティになっていきますよね。

澤:さがってしまった「普通」のレベルを上げていく。人間の再生ですね。

トラブルは大歓迎

澤:コミュニティを運営する上で、大変なことも多いと思うんですけど、それといかに付き合っていくのかって動的な営みだなと思っていて。それをどうしているのか知りたいです。

吉武:素の自分を見られても恥ずかしくないように、自分をアップデートしていくことが根幹にあります。

うちのシェアハウスはルールを決めないんですよ。ご飯も気づいた人が作る。その中で、やってる人とやらない人が出てきたときが面白いんです。

自然にやる人もいれば、鬱憤をためながらやってる人もいる。やらないことに罪悪感を感じている人もいれば、何も感じていない人もいる。

澤:なんかトラブルの話をしているのに楽しそうですね(笑)

吉武:トラブル大歓迎なんです。それが人の営みで、そうやって成熟していく。トラブルが嫌なら、コミュニティじゃなくて組織になればいい。それでもコミュニティを選ぶ理由ってそこにある気がします。

澤:今日ずっと、吉武さんは人間の成長とか成熟っていう話をされてきたと思うんですけど、ぶっちゃけ、「これは僕の組織なんです」っていうバリューはもういらないんですか?

吉武:参加者の方からいただいた、「1人になりたいと思うことはないんですか?」という質問とも関連してきそうなんですが、1人になりたいと思う人って、絶望したことがない人だと思うんです。まだ、本当の意味で、人との分断を味わっていない。

1人になりたいんじゃなくて、自分にとって心地よい程度に人と繋がっていたいんじゃないかな。

私がコミュニティを作りたい理由は、本当に人と繋がりたくて、本当に絶望して、もう生きていけないんじゃないかっていう原体験と20代の頃から向き合ってきたからだと思います。だから、「自分が自分が」って思いはなくて、自分が褒められるより眼の前の人が褒められたほうが嬉しく感じる。

1人の時間がいらないようになっちゃったんです。

いくつか事業もやっててお金もあったら、自分の家が欲しくなるじゃないですか。でも今、みんなと川の字で雑魚寝してますからね。

今は、どうしても1人の時間が必要な人もいるよなと思って個室のシェアハウスも作ったんですが、初期段階では、そういうメンタリティの人は自由にやっていいけどコミュニティ側から提供することはしないよってスタンスでした。

澤:厳しいですね。

吉武:そうかも知れませんね。1人になりたいときに1人になって、人に会いたくなったら会うっていう環境から、人と一緒に入られる時間を伸ばしていくトレーニングみたいなものです。

素でいられるコミュニティ

吉武:いつか自分がいなくなってもいいコミュニティを目指しているからこそ、これだけ強く意見を持っていられると思うんです。

「自分は1人の時間がほしい」っていう人がいるのはいいんです。でも、はじめから多様性、多様性言い過ぎると、自分じゃない誰かの考え方をいいものとして認めなきゃいけなくなっちゃう。

仲間たちが、私の言ったことを必ずしも「それがいいよね」って受け止めないことがわかっているから、意見を全面的に押し出せるんだと思います。

良く外部の方が来られると、「日常的にこんな話してるの?」って驚かれます。うちはゲームもないしテレビもない。だから会話の質が高いんだと思います。

澤:そういうレベルの高い会話ができる環境ってどうやって作ってきたんですか?

吉武:まずは自分が全部話す。相手に求める前に全部話すんです。

そんなオープンになれないよって人も、オープンな人たちと一緒に過ごしていく中でだんだん素を出せるようになっていきます。

やりたくなかったら全部出さなくてもいいけど、うちのシェアハウスでは基本全部出す感じですね。

澤:周りの方たちは、吉武さんとかコミュニティをどう見てるように感じているんですか?

吉武:父性が強く見られる一方で、ほんとにダメダメだよねって言われることもあります。人間としてはポンコツなんです(笑)

それでも、責任とか、役割とか、ちゃんと義理を通すっていうところは徹底している。そういう風に言われることが多いです。

澤:まさに素の状態なんですね。

吉武:そうです。私はコミュニティってコミュニケーションが行われる場と定義しています。

だから、どんなコミュニケーションが行われているかによって、コミュニティの質感が変わる。コミュニケーションがないコミュニティはコミュニティじゃない。

澤:コミュニケーションっていうのは?

吉武:対話ですね。会話の内容じゃなくて、観点とか、どう行動してるかとか、何を目指してるかとか。

質問:組織とコミュニティの違いって?

吉武:コミュニティ内のコミュニケーションと、会社とか組織で結果や成果を出すためのコミュニケーションってちょっと違うと思っています。

組織は目的を達成するためにあつまって結果を達成する。

一方、コミュニティは質やプロセスの方が大事。方向性が違うから、その中でのコミュニケーションも変わってきますよね。

澤:どっちがいいとかじゃなくて、組織的なコミュニケーションの在り方が自分になじんでいるんだったら、コミュニティ的なやり方をインストールしてみるとか、そういうプロセスも必要ですよね。

吉武:だけど、両方するのって実際は難しいんですよね。軸足はどっちかによっちゃう。

だから、今いるコミュニティの形を楽しんでみるっていうのも手です。そしたら運と縁でまたつながっていくかも。

2023年、どんな年になる?

澤:最後にお聞きしたいんですが、2022年を準備の年とするなら、2023年とその先はどんな年になっていくと予想しますか?

吉武:自分たちの暮らしを自分たちで作るっていうのを大切にしたいですよね。

どんな洗剤使うかとか、何を食べるかとかそんなことでいいんです。

「海の近くに住みたい」って言っても、日本海なのか瀬戸内海なのか太平洋なのか。朝日が昇る海なのか、夕日が沈む海なのか。そうやって考えて暮らしの解像度をあげて行くことが必要な時代になるんじゃないでしょうか?

関連リンク集

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[動画]俵山温泉に移住した若者たち

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