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感謝経済がインストールされた共同体「ネオ集落」をつくる──中村真広と丑田俊輔対談

現代にあった「村」を再発明しようと立ち上がった新生シェアビレッジ。そのシェアビレッジを運営する協同組合型の株式会社では、議決権を有する普通株式(一人一票)と、議決権を有しない優先株式の二種類の株式を発行することで、参加する一人ひとりのオーナーシップを基盤としたプラットフォームの育成を実践しています。

シェアビレッジが目指す、「村」の再発明とはどのようなものなのか。シェアビレッジの代表取締役・丑田俊輔と、各分野の最前線で活躍するシェアビレッジのパートナーとで語り合いながら、コミュニティの未来を考えていく対談をお送りします。

初回は、出資者の一人でもある株式会社ツクルバ株式会社KOUの代表取締役である中村真広さんを相手に、コミュニティの復権、ネオ集落等について話をしました。

「コミュニティの復権」に向けたそれぞれのアプローチ

丑田俊輔(以下、丑田):今日はよろしくおねがいします!たしか、中村さんと初めて会ったのは、co-ba shibuya(ツクルバが立ち上げたコワーキングスペース)でしたね。

中村真広(以下、中村):たしかそうだった!元々、ツクルバは2011年3月11日の震災にあとに創業してます。当時は人と人のつながりをもう一度取り戻そう!という空気が東京に流れていて。価値観が大きく変化していく中で、「何か声を上げなければ」と「co-ba」を始めました。

丑田さんがco-baに来てくれたときは、まだシェアビレッジはスタートしていなかった。シェアビレッジは、村長をしていた武田昌大くんが仲良くて知って。「こんな活動を始めたんだな〜」と思っていたら、いつのまにか丑田さんも移住してすっかり五城目の人になっていて(笑)

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(co-ba shibuyaの様子)

丑田:五城目に来てもらったのは、シェアビレッジが始まってから少ししてからですよね。「KOU」というコミュニティコインのサービスをリリースした頃に、その話もあって足を運んでくれた。

中村:ですね!たしか、2018年の冬。僕が「KOUはシェアビレッジと相性がいいのでは」と考えて、丑田さんに「KOUを使いませんか」と連絡して。

丑田:僕も、中村さんが『「感謝経済」宣言』というタイトルでnoteを書いていたのが印象に残ってます。

中村:そのnoteでも書いたことではあるのですが、KOUをつくったのはco-baを作ってからの「シェア」という概念の変化が影響しています。登場からしばらくして、「シェア」の場は商業化されるようになり、運営者と利用者が対峙する関係になっていっていました。初期、DIY的につくっていたシェアハウスやコワーキングスペースなどのコミュニティにあった、「主客一体」な空気感は薄れていたんですよね。

個々が市民意識を持って互いに助け合う「新しい村的コミュニティ」を復権させられないか。そのためには、既存の経済システムでは捉えられない価値であるコミュニティ内の助け合いを価値と認識していかなければならないと考えていたんです。そのためには、感謝が循環する経済システム「感謝経済」を構築できるといいのではないか、そう考えて生み出したのがKOUでした。

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丑田:「新しい村的コミュニティ」といった表現を見て、コミュニティコインが目指す世界と、シェアビレッジが目指す世界の近さを感じました。秋田に来てもらったときは、武田くんも一緒に3人で山登りしたり、温泉に入ったりして、つくりたいコミュニティの話をしたのを覚えてます。

一度はスケールを目指したシェアビレッジの葛藤

中村:五城目に行く前くらいから、「シェアビレッジはこれからどうするの?」と話していたんですよね。当時、僕はシェアビレッジとco-baがタッグを組んで、ツクルバのローカル事業部を立ち上げていってもおもしろいんじゃないか、と考えていて。

丑田:当時、シェアビレッジも2015年に立ち上がってしばらく時間が経過して、香川県に拠点ができ、会員の数も増えていたんです。ただ、なんとなくもやもやが生まれていたタイミングでもあったんです。

規模が大きくなればなるほど利便性は上がる。けれど、規模が大きくなるほど、小さなコミュニティの手触り感は薄れてしまう。シェアビレッジは拡大路線をとるのか、小さなコミュニティが自律的に増えていくアプローチをとるのか。どちらに進むべきかを悩んでいたタイミングでした。

僕個人の直感としては後者のほうが楽しそうだなと思っていたのですが、そのおもしろさをあまり言語化できていなかったんです。結果、その両者の間で葛藤を抱えながらも、周囲にはスケールさせたいと伝えていました。

中村:この葛藤も大事なストーリーですよね。葛藤を感じながらも、スケールさせる方向性の企画書をつくっていて、僕もその方向を後押ししていたけれど、株式会社アカツキの創業者である塩田元規さんと話したあたりから企画の方向性が変わっていった。

丑田:塩田さんからはストレートに「え、これって上場するの?」って聞かれたんですよね。そして、「村って資本主義の枠組みに留まらないよね」とか「創業者が何を手放せるか?」なんて問いも投げてもらいながら、対話を重ねていくなかでスクラップアンドビルドしていきました。

中村:企画書の大転換があった頃、僕もツクルバとしての上場前後のタイミングだった。僕は、資本主義の中でどう結果を出すかを考えていて、塩田くんはどう資本主義を手放すかを考えていて。だから、企画書へのコメントの方向性が真逆だったんだよね。

当時、自分のモードは資本主義のなかでしっかり結果を出そうとするツクルバモードだった。KOUの方は逆サイドである資本主義じゃない価値をつくろうとするモード。シェアビレッジに対しては資本主義モードになっていたことに気づいて、「そうじゃないよな」と自分のモードが変わっていったのを思い出しました。KOUは感謝をテーマにしていて、「村ってそれが大事じゃん」って。

モードを変えたあとは、使う言葉も変えていきました。シェアビレッジは、ピュアにコミュニティを楽しむほうがフィットする。だから、議論もプレイフルさを重視していった。

プレイフルエコノミーを実践するための「協同」

丑田:改めて、シェアビレッジはどのような方向性を目指すのかを考えていった際に、頭に思い浮かんでいたのが、「プレイフル」という言葉でした。

研究者の上田信行先生が提唱した概念で、「本気で物事に取り組んでいるときのワクワクドキドキする心の状態」のこと。僕らもものすごく感化されていて、2017年には五城目の商店街に「ただのあそび場」という地域のコモンズとしての遊び場をつくったりしました。また、秋田の事業創造プログラム「ドチャベン」では、LaborやWorkerといった受動的な働くから、自発的に没頭していくプレイフルな働くであるPlayerへと変わっていくという考えを打ち出していました。これらを僕は「プレイフルエコノミー」と呼んでいて。

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このプレイフルであることが、村づくりに関しても大事だと思うんです。「経済的なインパクトか、社会的インパクトか?」という話もよくでるんですが、どちらか一辺倒でも、そのためだけに生きているわけでもない。二項対立に入ってしまいがちな中で、プレイフルな感覚を大事にして、ワクワクする気持ちや本気の遊び心でつながっていくコミュニティが増えていったらいいな、と言語化していきました。

中村:丑田さんが感じていたもやもやを一つずつひっくり返したら、シェアビレッジのありたい姿に近づいていったんだよね。だから、強いプラットフォームが一方的に利便性を整えるのではなく、関係者がなめらかに関わる自律分散型のプラットフォームをつくっていきたいとなった。

ちょうど、コミュニティコインとしてKOUも、壁にぶつかってピボットしようと思っていたときで、それもタイミングがよかったんですよね。元々、シェアビレッジではコミュニティコインを使ってくれていたので、「閉鎖します。タッグを組んで取り組んでいたので申し訳ない」と伝えて。そしたら、「これ、このまま新しいシェアビレッジで使えませんか?」と言ってもらえた。

すぐに「それはいいな」と思ったんですよね。コミュニティコインとしてのKOUが目指していた村的なコミュニティは、新しい村をつくろうとしている人たちに育ててもらうのがいい。シェアビレッジ以上にふさわしいプレイヤーはいないと思いました。

丑田:おかげで、シェアビレッジにとってなくてはならない機能を実装することができました。プラットフォームについての議論を重ねていくなかで、プラットフォームの運営も協同組合型が向いているんじゃないか、という議論もしていって。

中村:現実的な方法として、株主のあり方など会社法上の組織構造を設計していった結果、協同組合型株式会社というアプローチに挑戦することになった、と。

丑田:そうです。組織運営の方法もチャレンジのひとつなので、この実践もゆくゆくは発信していきたいなと思ってます。

感謝がめぐる「ネオ集落」の構築を目指して

中村:丑田さんは、シェアビレッジを通じてどんな社会を実現したいんですか?

丑田:コロナ禍になって、小さなコミュニティの大事さ、いろんなコミュニティとつながっている安心感が大切なんだって改めて感じたんですよね。

出資者の一人である青木純さんは、練馬区の「青豆ハウス」で村のような共同住宅を運営していて。住人同士に関係性があるし、青豆ハウスというコミュニティが全国のいろんなコミュニティとつながっていて、贈与し合うような関係ができている。だから、コロナ禍でも協力しあえている。こうした小さな共同体の連帯が大事なんだと改めて感じました。

今回のコロナ禍で、産業にも変化が生じていると思います。辛い状況にある業種と、なんとか助け合えている業種が分かれた印象がある。例えば、主客が一体となって運営されているようなお店は、助け合いができているんですよね。例えば、常連さんがキッチンに入ってきて勝手に料理をつくっているようなお店は、しなやかに事態に対応している。住まいやオフィスでも同じような状況が見られます。

これは村的な性質をいろんな産業に帯びさせていくということなんじゃないかと考えています。いろんな産業が村のようになっていくと、しなやかに持続する形になるかもしれない。

中村:シェアビレッジでは、村のように暮らす民主的なコミュニティを運営できるようにするだけではなく、産業の中にも村的な要素をインストールできるようにしていきたい?

丑田:そうです。もちろん、暮らしに近い領域ほど村らしくなるとは思います。新たな村ができて、コモンズとして村営の住宅や別荘、食堂、農場、サウナなどが全国に分散する。人々はマルチコミュニティに所属して、各地にあるコモンズを自治しながら利用できる状態は、仮想的な村のようになるんじゃないかなと。

いろんな産業に村的な性質がインストールされていくと、人のライフスタイルのなかに入り込んでいきます。そうすると、さまざまな場面で参加が必要になって、消費者でいられない場面が増えていくはずです。

現在は、田舎でも都会でも、大きなシステムの中に入ったことで人の主体性が薄れてしまっている。システムの外側にある、小さな村に参加することで人が主体性を取り戻していけるといいのではないかなと。

中村さんがやろうとしている「ネオ集落」の実践も近い目的があるんじゃないかな。

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(ネオ集落をつくる予定の土地の様子)

中村:そう思います。丑田さんは、身体も五城目に引っ越していて、リアルな村的コミュニティに軸足を置いた上での言葉なので、体温ある感じがする。僕は、東京で東京らしいビジネスをしていて、そこでこぼれ落ちてしまっている価値があると感じている。ただ、東京でビジネスをしていても、共に前を向いていく関係をつくりたいと思って、試行錯誤をしてきた。

アプリとしてのKOUも、貨幣経済でこぼれ落ちてしまう、その都度リセットされてしまう人間関係をやりとりの履歴として記録し、助け合い感謝し合うような、人間くさい関係にもっていけないかと思っての挑戦だった。開始した当時も、「都会の人を村人化するプロジェクトだ」だと言っていた。以前から、シェアビレッジと感覚はリンクしていたんですよね。

今も変わらず、関係者も含めて共に前を向く関係はツクルバでも実践しているけれど、丑田さんのように自分もローカルコミュニティに身をおいて、溶け合っていくなかで自分を変容させるということは自分もやりたいなと思っていて。

資本主義のど真ん中でも活動しながら、ローカルの経済で自分も村人の一人になりたい。ある土地に縁があって、そこで集落作りをする予定です。仲間と一緒に複数家族で暮らしたり、短期滞在ができるような拠点をつくったり、自分が当事者に土の人、風の人が混ざるような、感謝が循環するローカルコミュニティをつくりたいなと。例えば、家賃や宿泊費は使う人が言い値で決めていったり、それはお金じゃなくてもいいかもしれない。

丑田:まさに新しい集落づくりですよね。楽しそうだ。

中村:シェアビレッジまわりには村作りの先輩たちがいるので、そういう人たちと連携しながらであれば、うまくやれると思います。いまは、人間関係がリセットされやすい都会の世界と、土着性が強いローカルの世界が二項対立的になってしまっているので、そこを架橋していきたい。

それぞれの良い点を統合する生活者像が、次の生活者のあるべき姿じゃないかなと思っていて、それを自ら開拓していきたいんですよね。都会から村化できるところもあれば、田舎から都会に近づくのもある。両者の間で各々がいい感じにその配分を調整していけるといいなと思っています。

丑田:2つの特徴をいい塩梅で共存させるライフスタイルはありますよね。自分自身、都会と田舎のゲージ調整をし続けながら過ごしています。田舎には自然などの非人間的な部分や、長い時間軸も含めた関係のなかで生きる性質があるし、都会では人間的な現在の関係が色濃くなって楽しい。ゲージのどのあたりを居心地が良いと感じるは、ライフステージの変化と共に変わっていくと思うんですよね。

これからの生活者のあり方として、マルチコミュニティに所属して、それぞれのいいとこ取りができるはず。シェアビレッジ上で、コミュニティ同士が邂逅していって、いろんな発明が起こるようにしていきたいと思います。

皆で持ち寄って育む、“村”のようなコミュニティをつくってみませんか?

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