アニメ『ボボボーボ・ボーボボ』をちゃんと考えてみる③(52話-76話)
3月に①、4月の②に続き、ラスト。アニメ『ボボボーボ・ボーボボ』を論考する記事のシリーズ。初期の癖のあるシュールな作風から、中ボス戦を重ねて徐々に明解な笑いへと変貌していく流れについてをここまで書いてきた。
これは有名な話だが放送最後の半年はノンスポンサーで放送された。テレビ朝日と東映アニメーションが共同出資で存続させただの、スタッフキャストが身銭を切って存続させただの、真偽不明の都市伝説が出回っており、このような噂の数々もアニメボーボボが伝説とされている要因だろう。さて、この伝説の終わりを観ていこう。
つまらなさすぎるオープニング
この時期ウルフルズ「バカサバイバー」が流れるOP映像の前に、本編から切り離された小話のようなエピソードが放送されていた。これがつまらなさすぎるのだ。これは原作には存在しない、アニメオリジナルのパートなのだが本編の笑いのトーンとはかなり異なる。通常のギャグアニメでは許容されるだろうが、本編の切れ味と比べるとやや甘めのギャグと思わざるを得ない。
これは原作者・澤井啓夫の作家性が極めて強い不条理ギャグが展開される本編と比べると、条理が有りすぎるのだと思う。言うなればかなりベタなことをちゃんと面白いものだと思ってやろうとしすぎているのだ。フリがあるとオチがある、しかしこのオチを無茶苦茶なものにするのが本編ボーボボだとすればオープニングはあまりにもきっちりとオチをつける。
また例えば首領パッチが田ボ(田楽マンとボーボボが融合した女性戦士)を性的な目線で写真撮影するなど、あまりにもキャラクターの本質とかけ離れた描写が為される点も白けてしまう。と言うより恥ずかしさがある。尺調整のためとはいえ、かなり無理をした追加要素だったと言わざるを得ない。ちなみに同じ理由で中盤とラストにある"じゃんけん占い"もややスベりに思う。
これらは本編のギャグの異様さを逆説的に際立たせていると良い方向に解釈できなくもない。前回の記事で、笑いがポップで明快になったとは言ったもののベタなフリオチを無加工で行ったり、中途半端なノリやキャラ萌え的なほっこりギャグを行っていたわけではない。変わらない突飛さと意味の切断を、馴染のキャラクターの身体を通して見せていた、ということなのである。
キャラクターアニメとしてのボーボボ
この51話~76話が擁するのは「旧マルガリータ帝国編」と「新皇帝決定戦編」、そして「闇皇帝編」の途中まで、という3パートである。その最初にあたる、100年前の毛狩り隊との闘いを描く旧マルガリータ帝国編において、ようやくメインメンバーとして定義される9人が揃うのだ。
ボーボボ、ビュティ、首領パッチ、ところ天の助、ヘッポコ丸、ソフトン、田楽マン、破天荒、魚雷ガールから成るこのメンツ。活躍を通して定着したキャラクターや、突然付け足された謎の設定を駆使しながら笑いを展開させていくのがこの51~76話の大きな特徴と言えるだろう。
例えば魚雷ガールのソフトンに対する恋心は、メリーゴーランドでの戦闘における魚雷/ソフトン/破天荒というフォーメーション(+ツッコミとしてのヘッポコ丸)というおよそ主人公不在とは思えない濃厚な笑いに満ちたパートを作り出していたし、他にもボーボボ/天の助/破天荒というあまり観ないトリオでの戦闘なども見られ、キャラクターアニメとして洗練されつつあった。
旧帝国編では主に3対3での戦闘(3狩リヤと呼称される)が中心となり、これも異なる組み合わせによる化学反応を楽しむに相応しい。バトルフィールドもシチュエーション大喜利を更に過剰にしたようなテイスト(スケートリンク、流れるプール、メダルゲームなど)であり、ここまで積み上げてきた笑いの技法と視聴者のキャラクターへの愛着が交差する見事な作劇だったと言える。
しかしここでも9人が完全に揃うことはほぼなく、戦闘場面では遂に最後まで描かれることはなかった。最終話では魚雷ガールが元の姿であるOVERに戻っていたし、いずれかのキャラクターが必ず不在なまま終わることになってしまった。意外にもそのもどかしさもまた、キャラクターへの愛着を加速させる。実は巧みにその"大集結"をクリフハンガーにして進行した作品なのだ。
一発ネタも再生する
アニメ版の最終局面にあたる「新皇帝決定戦編」、そして「闇皇帝編」はこれまでの積み重ねが一気に開花するパートである。ここではこれまでボーボボ一行が戦ってきたヴィランたちが再び登場し、これまでとは異なる組み合わせで関係し合っていくというキャラクターモノの最上級の贅沢がある。
ギガ、ハレクラニ、三大文明、宇治金TOKIO、ハンペンといった主要な悪役たちはもちろんであるが、6(ロク)、モーデル、スパーラビット、絶望君といった一発ネタキャラたちも鮮やかに再生を果たすこのパート。絶望君に至ってはこの後、しばらく戦闘メンバーに加わる大出世を果たす。
また意外にも、過去の設定をしっかりと引き継いでいる部分もあり、これもストーリーのあるアニメとしての性質を担保している。元Aブロック隊長である天の助が、副隊長であったカツと対峙するシーンや、田楽マンが実は新皇帝決定戦への出場資格がある点など細かい部分を忘れていない。
ちなみにこのオールスターシリーズ、結果的に声優陣がとても豪華になっている。ギガは関智一で、ハレクラニは三木眞一郎である。まさかノンスポンサーで放送されていたとは思えない、大団円に相応しい豪華さ。こうしたクライマックスを迎えられた点もアニメボーボボの求心力を感じる。
その幕切れ
このアニメは76話で幕切れとなる。約2年に渡る放送期間、闇皇帝編にいざ突入せんというタイミングで唐突に終わる。打ち切り作品のベタである、「俺たちの戦いはこれからだ!」の画をキメた後に田楽マンが「完」と書かれたボードを持ち出し、最終回を告げる。そこで画面に映る全員が「えーっ!」とツッコんで終わる、何ともボーボボらしくないベタな終わり方だ。
ノンスポンサーになった段階からここで終わろうとしていたのか、スポンサーが見つかれば続けようとしていたのか。それは分からない。この後登場するのはLOVEや白狂というキャラクターで確かにアニメ化に適していない技を繰り出すという懸念はある。しかし闇皇帝ハイドレートの声優は千葉繁であり、その気合の入ったキャスティングには続行の意志も静かに感じ取れる。
しかし同時にギリギリの不安定さもある。たとえば作画。第60話が特に妙な仕上がりであり、その後も安定しない時期が続く。またその台詞や構成。最終話、ありえないタイミングでありえないトーンでビュティがツッコむなど、明らかな崩壊の予感も漂っている。このまま突破するにはあまりにもクオリティが危うい、しかし終了は惜しい。確かな寂寥感に包まれながら、EDテーマのmihimaru GT「H.P.S.J」を聴く最終回なのだ。
アニメ版ではここまでだが、これ以降、漫画では真の意味での集大成へと向かっていく。かつての敵との共闘、また「新・毛の王国編」でのボーボボの兄や姉たちの登場、そして首領パッチに対するシゲキX、ところ天の助に対するさすらいの豆腐、ソフトンに対するアイスンなど、レギュラーメンバーの因縁にならざるを得ないヴィランとの戦いが待ち受けているのだ。
Netflixで初めてこの作品に触れた方、途中まで観ていて改めて最後まで観た方、その誰もが投げ出されてしまうことが悔しく思う。願わくば、コミックスで21巻まで、あわよくば「真説ボボボーボ・ボーボボ」全8巻までに触れて頂きたい。アニメでは描き切れなかった、彼らの冒険の全てがここに。最後まで、恐ろしく美学を貫いた作品だと分かって頂けるはずだ。
※おまけ
ドラマ『ボボボーボ・ボーボボ』キャスト案
アニメを観ながらぼんやりと、もういっそ実写ドラマ化とかしてしまってのもいいのかも、、という悪い幻想を抱いてしまったのでしっかりと考えてみました。ここでおまけとして載せておきます。軍艦編までをシーズン1と想定してまして、首領パッチや天の助など、人じゃないキャラクターはモーションキャプチャーで動きもお願いする予定です。Netflixの方々、是非ともこちらを参考にしてみてください。
《シーズン1》
ボボボーボ・ボーボボ:鈴木亮平
ビュティ:山田杏奈
首領パッチ:阿部サダヲ
ところ天の助:森山未來
ヘッポコ丸:平野紫耀(Number_i)
ソフトン:綾野剛
破天荒:岡田将生
田楽マン:金田朋子
魚雷ガール:桜井ユキ
軍艦:長瀬智也
スズ:河合優実
サービスマン:大橋彰
ツル・ツルリーナ4世:戸塚純貴
《シーズン2以降》
ライス:吉沢亮
OVER:桐谷健太
ハレクラニ:小栗旬
ギガ:松坂桃李
ツル・ツルリーナ3世:井浦新
ハイドレート:北村一輝
べべベーべ・ベーべべ:オダギリジョー
ビビビービ・ビービビ: 窪塚洋介