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お笑いブームの極致にて~2012 to 2022

「2012 to 2022」は10年前の作品/カルチャーなどを起点にし、この10年の作り手やシーンの変容についてあれこれ記していく記事のシリーズです。

2022年10月22日、ウインクあいちで「天高く馬肥ゆる東名阪漫才興行」の名古屋公演を観た。カナメストーン、真空ジェシカ、ママタルトの3組による漫才ツアーで6月以来の開催となる。M-1グランプリ2022を控えたこの10月。じっくりとネタを仕上げつつある過程を垣間見れる貴重な機会であった。

ママタルトは今年、決勝をキメに来た覚悟を感じた。ありネタを磨きあげる段階。更に驚くべきは真空ジェシカまでもがカッチリとした4分間を作り上げていたこと。仲良し友達ライブだからどんだけふざけにいくかと思いきや、程よい緊張感があってすごく良かった。しかしカナメストーンの「機嫌なおして!」のくだりは無限に続くかのように思えた。あのしつこさはどこかでフィーチャーされてほしい。やっぱり「おもしろ荘」とかなのだろうか。

後半はトークとコーナー。平場でのカナメストーンの強さを実感したし、かましに行きすぎない真空ジェシカも、ひたすら可愛らしいママタルトも皆より好きになった。そんな座組みでどんどん悪い方向に突き進んでくのはだいぶ楽しい。「配信が無いから」という免罪符により、放送禁止用語もちゃんと飛び出す。あの強烈な下ネタで会場の600人近くを沸かしているのだいぶ意味が分からなかった。お笑いブームの極致と言える光景だった。

ここ数年、爆発的なお笑いブームが持続している。ダウンタウン現象や第一次漫才ブームはリアルタイムで知らないので比較はできないが、自分が観てきた中では最大級の規模感だ。およそまだテレビの人気者とは言いがたい3組が、大ホールを格別な面白さの漫才とどぎついテーマのコーナーで埋めて沸かせているこの今。そのブームに至るまでを、圧倒的に個人的な目線であるがまとめてみたい。10年前からその萌芽があったのではないかという観点から。


お笑いとの邂逅

振り返ると10年前の10月と言えば9月まで放送されていた大お笑い番組「テベ・コンヒーロ」が終了し、なかなかの絶望感を味わっていた頃だった。「クイズ☆タレント名鑑」に端を発し、後に「水曜日のダウンタウン」に継承されるTBSの藤井健太郎プロデューサー(通称・地獄の軍団)による番組で当時の自分にとっては最も先鋭的なお笑いが観れる番組だった。これを失い、残すところ「ゴッドタン」と「アメトーーク」くらいしかない状態だった。

個人的なお笑いの目覚めは小学校5年生時に観たM-1グランプリ2004。猛烈な衝撃を受け、お笑い第5世代の波に乗ってネタ番組をわんさか観た。エンタも笑金も良かったけど、やっぱり爆笑オンエアバトル。あとはサブカルワナビーの嗜みとして、ラーメンズはこっそりYouTubeで観て中学時代にどっぷり浸かった。テレビがショートネタブームに移行するといまいち乗り切れず深夜番組に笑いを求めた。「ゴッドタン」の無軌道な展開に惚れきっていた。

プライム帯を物足りなく思っていた時期に始まった「クイズ☆タレント名鑑」衝撃だった。刺激的な語彙と、良くないノリ、内輪で盛り上がり続ける中毒性。今の言葉で言えば「お笑いリテラシー」の異様に高い番組。当時高校2年生ということもあり、こういうヒリヒリした番組は魅惑的でしかなかった。正直お笑いを見始めた頃よりははるかに落ち着いた感のあるお笑いブームを牽引するはず、と思っていたが放送終了となってしまい悔しかった。


2012年-2017年 ブーム前夜

こうした趣味嗜好ゆえ一般的なブレイクや賞レースの結果には納得いくことが少なかったけれど、2012年9月のキングオブコントでバイきんぐが優勝、そしてこれはそう有名でないかもしれない事実だが10月にNHK新人演芸大賞でうしろシティが優勝した。元より特殊なコントが好きだったゆえ徐々にピントが合い始めた。KOC2012で強烈な印象をくれたかもめんたるは翌年優勝した。KOCはやや盛り上がりに欠ける大会のように思えたが、この年初出場した上記3組とさらば青春の光がコント好きの血を盛り上げてくれた。所謂ボケツッコミの掛け合いのみではないパンチ力、構成力、設定力の強化などが見られ始め、今のコントシーンに繋がる大きな節目だったと言えるだろう。


漫才にしてもそう。THE MANZAI 2011で千鳥を久々に観た。こんなにも面白かったか、と思い2012年からは千鳥への偏愛が強まった。2012年大会でのポカリ川には脳を揺さぶられまくったし、本当に結果に納得がいかなかった2013年での森のくまさんにも沸いた。漫才ってこんなに自由で良いのかということを教えてもらえた。その後の活躍も、プライム帯で結果を出せずとも自分たちの笑いを突き詰め、それを発揮できる場所(千鳥で言えば「いろはに千鳥」と「キングちゃん」だろう)があれば頂点へ向かえるのという1つのロールモデルとして映った。TVで満場一致の支持を得るだけがブレイクへの道筋だけではない、というのは今のお笑いブームを支えているように思う。


そして忘れてはならないのが「水曜日のダウンタウン」(2014~)と「有吉の壁」(2015~)の存在。功罪あるだろうが「水曜日のダウンタウン」が仕掛ける角度のついた笑いと芸人が泥臭く輝く場面はバラエティ番組のお笑いでもここまでやれる、を押し広げていった。また「有吉の壁」はトークバラエティ中心だった当時のシーンに大きな革命をもたらした。作り込んだ笑いを得意とするコント師たちが自分たちの能力を存分に発揮できる場所になった。また、2015年には「M-1グランプリ」が復活。これを機に出場条件が芸歴15年以内に広がり、ゆえに実力者たちがひしめき合う大会に。敗者復活戦も放送され視聴者投票もあるなど、観客の参加もより意味の濃いものになった。


2018~ そしてお笑いブームへ

今のお笑いブームの契機となったのは「M-1グランプリ2018」での霜降り明星の優勝だと思う。若い感性で同世代のツボを押さえた笑いにより、新しい波を創り出したことは間違いない。それに紐づきお笑い第7世代というキャッチーなくくりが生まれ、ハナコ、EXIT、四千頭身、宮下草薙といったあらゆる方面からのブレイク組が客観的に"大きな波”として見えやすくなった。2019年頃からテレビ番組に出ている顔ぶれががらりと変わった印象がある。


ミルクボーイ、かまいたち、ぺこぱが競った「M-1グランプリ2019」の盛り上がりは尋常でなく、このままテレビのお笑いも格上げされるはずと思った矢先の2020年。コロナ禍に突入し、特別編集やリモート収録ばかりで元気を失ったかに見えたあの春。かなり絶望しかけたものの、ここからまさかより一層に巻き返すことになるとは思わなかった。そう、オンラインライブ。配信システムをよしもとが導入したことを機に中央集権していたお笑いライブが全国で共有できるようになった。どうしても迫力を足りなく思う音楽ライブと比べ、お笑いは配信でも一定の"同じもの"を受け取れる点も大きい。配信との相性が良いのだ。質の良い笑いをたくさん配信で観て、生のお笑いライブへの渇望も高まっていく。この好循環はお笑いブームを安定化させた。

そして芸人YouTubeの台頭。最初はコロナ禍における危機管理の1つとして始まったところもあったように思うが、先んじて話題を集めていたさらば青春の光を筆頭に、自分たちの面白さをパッケージ化して届けるのに相応しいメディアと捉えた結果、ブレイクの糸口となった。ネタもあれば、裏側を語ったり、芸人たちの関係性にフォーカスしたり、かなり自由度が高い。マイナーな芸人が羽ばたく機会として「おもしろ荘」やバラエティ番組のショートネタコーナー以外の場所が生まれたことはとても意義深いものだろう。

お笑い芸人がパーソナリティを務めるラジオ番組も勢力を増している。空気階段が顕著な例だが自身のライフストーリーとネタが高次元でリンクして支持を集める稀有なケースとなった。ポッドキャストやradikoが当たり前になりアーカイブにも触れやすくなった結果、その番組との距離も近くなりやすいし、ラジオで語られるエピソードの数々を聴くことでその芸人たちの内側にいるという感覚にもなりやすくなり、ファンはどんどん濃くなっていく。

お笑いのリアリティショー化、と言うとやや穿った形容になってしまうのだが実際、芸人たちの成り上がりや"人生変えてやる"の物語性が観客や視聴者の心を熱くさせ続けているのは間違いないだろう。お笑いは、エモいのだ。映画「浅草キッド」があれほどまで支持を得たことと無関係ではないはず。


お笑いブームの真っ只中にて

誰かが流行語を取り、トーク番組だけが安定してあって、年末年始にネタ番組があって、という時代はとうに過ぎ去って、お笑いは一種のクールなポップカルチャーとして固定したものになった、と言えるだろう。AマッソとKID FRESINO、オードリーとCreepy Nutsが蜜月となり、MOROHAやCody・Lee(李)がお笑い芸人たちと全国ツアーを行う。優れた映画やドラマにもお笑い芸人が1人はキャスティングされている。こうしたクロスカルチャーも突拍子もないものというよりはある種の納得感をもって受け入れられている。

"笑う"という1つの感情動作を起こすために、無数のアプローチがあるというのもお笑いの奥深さだ。テンポよくコミカルなやり取りをする、そういった定型に当てはまらないまでに進化を遂げたこの10年のお笑いは、その分多種多様なファン層を生み出した。技巧的な笑いが評価されると、そのカウンターのようにマヂカルラブリーのようなアンダーグラウンドなお笑いが賞レースで活躍するタームも来る。芸人、ファンを含め自分たちの信じるお笑いを世に定着させたいという想い(そして、ちゃんと定着し得るという強固な事実)がこのブームを引っ張り続けており、高止まりの状態であり続けるだろう。


これらはあくまでも個人的な見解だ。年々、賞レース決勝に際して皆がお笑いを語る言葉を持ちよってあれこれと語らい、予選から話題を欠かさないような現在のお笑いブームを一度自分の言葉でまとめてみようと思った。今日10/30もまたNHK新人お笑い大賞でスパイシーガーリックというアイデアのエグさで突破する結成2年目のコント師が優勝した。きっとまた新たな潮流へと繋がっていくことだろう。多種多様な笑いがひしめき、混沌の中から多幸感を生み出す終わりなきブーム。疲弊感が訪れる気配の無さはむしろ恐ろしく、どうなっていくのかとも思う。しかし今この瞬間は市井の人々の生活をポジティブに変えてくれる大衆文化の発展を嬉しく思いたい。まーごめ。


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