マハーバーラタ/1-40.アルジュナのティールタヤートラー

1-40.アルジュナのティールタヤートラー

クリシュナがドヴァーラカーに帰った数日後、聖者ナーラダがインドラプラスタにやってきた。ユディシュティラは大変な敬意を持って彼を迎えた。
ナーラダはユディシュティラに王国を統治する方法を助言した。
ドラウパディーはナーラダに挨拶し、祝福を受けて部屋に帰っていった。
ナーラダは彼女に対する注意を与えた。
「あのドラウパディーは五人全員の妻なのですね。彼女が原因となって問題が起きないように気を付けなければなりません。
こんな話があります。
昔、スンダとウパスンダという名のとても仲の良い兄弟のアスラがいました。彼らはとても力強く、三つの世界全てを征服できるほどでした。彼らはティローッタマーという名の美しいアプサラ(天女)に出会い、二人ともが彼女を愛してしまいました。彼女を独り占めしたいと思うようになり、最後にはお互いに殺し合ってしまいました。他の誰も手を出せないほどの力を持つ彼らを倒したのは自分の兄弟だったのです。そして実はそのアプサラを送り込んだのは彼らに手を焼いていたデーヴァ達(神々)でした。
あなた達はこの話のようになってはなりません。パーンダヴァ兄弟の結束が強いことは知っていますが、一度その結束が壊れたらドゥリタラーシュトラの息子達はあなた達を簡単に倒せるでしょう」

その話を聞いたパーンダヴァ兄弟は話し合い、一つの結論に至った。
ドラウパディーは五人の家で一年ごとに順番に過ごす。
もし彼女が二人きりでその年の者と家で過ごしている時に、他の者が邪魔をしたなら一年間森へ行く。
このルールを守ることで兄弟間で問題が起きないようにした。

ある日、町に住む一人のブラーフマナがアルジュナの元へ駆け込んできた。半狂乱の様子であったが、話を聞いてみると泥棒に牛を盗まれたということであった。牛を取り返してもらうようにアルジュナに頼んだ。
アルジュナはそれを引き受け、武器を取りに行こうとしたが立ち止まった。
武器が置かれている場所はユディシュティラの家で、しかも今はドラウパディーとユディシュティラが一緒に家にいる時間だった。
「牛は取り返します。ただ、今は弓矢を取りに行けない事情があるので、しばらく待ってください。兄の許可を得るまで待たなければならないのです」
ブラーフマナは話を聞こうとしなかった。アルジュナは彼をなだめようとしたが無駄であった。仕方なくアルジュナはユディシュティラの家に入り、武器を取って牛泥棒を追いかけた。まさにその時ユディシュティラとドラウパディーは二人きりの時間を楽しんでいる最中であった。

武器を持ったアルジュナは牛泥棒のまだ新しい足跡を追った。牛を取り返すのは簡単な仕事であった。牛を返してもらったブラーフマナはアルジュナに感謝し、彼の勇敢さを褒め称えて帰っていった。

アルジュナはユディシュティラの家へ行き、ルールを破った罰としてティールタヤートラー(聖なる川の巡礼の旅)へ出ることの許しを求めた。ユディシュティラは困ってしまった。
「アルジュナ、それは必要ないよ。緊急事態だったのだから。
私達の邪魔をしに入ってきたわけではないでしょう? 私の家に置いてあった武器が必要だっただけでしょう? 思いとどまりなさい。あなたを責めていないし、気分も害していない。何も悪いことはしていないんだよ」
「ユディシュティラ兄さん、それはダメだよ。自分達で決めたルールなんだから。あなたは完全に公正な人でいないといけません。愛情で判断を変えてはなりません。引き止めないでください」
ユディシュティラはしぶしぶながらも、アルジュナの一年間の自主追放となる巡礼の旅を許可した。

アルジュナの旅は心地よいものであった。
ガンジス河の岸にたどり着き、沐浴をする為に川に入った。
水から出ようとした瞬間、何かが自分の足をつかみ、引きずり込まれた。
足の方に目を向けると、そこにいたのはとても美しい女性だった。
「おいおい、ちょっとなんだい。なぜこんなことをするのですか?」
「・・・・・・ごめんなさい。私はナーガローカ(蛇の世界)の王の娘、ウルーピーと申します。あなたが水の中に入っているのを見た時、あなたに恋をしてしまったのです。えーっと・・・川から帰らせたくなくて、思わずつかんでしまいました。お願いです! 私の愛を受け入れてください!」
アルジュナは自分が何者であるか、なぜ自ら一年間の追放を課したのか説明した。優しく諭すように話を続けた。
「そういうわけで、私は旅を続けなければならないだよ。そしてブラフマチャルヤ(禁欲)を守らなければならない。あなたを喜ばせることはできない。分かってほしい」
「ええ、あなたの言いたいことは分かります。ですが、よく考えてください。そのブラフマチャルヤはドラウパディーに対してだけでしょう? あなたを喜んで受け入れる他の女性にはあてはまりません」
そこまで言ったところでウルーピーは自分の言葉に恥ずかしくなってうつむいた。
アルジュナは彼女の美しさと、その性格に負けた。
そして彼女と幸せな一晩を過ごした。

翌日アルジュナは地上へ戻り、旅を続けた。
アルジュナはヒマラヤに向けて進み、全ての聖なる川を訪れ、今後は進路を南に向けた。

旅を続けた彼はゴーダーヴァリー川とカーヴェーリー川で沐浴し、マナルールに到着した。
そこで出会ったのはチットラヴァーハナ王の娘、チットラーンガダーであった。アルジュナは彼女と恋に落ちた。

アルジュナは王の所へ行き、彼女との結婚の許しを求めた。
「アルジュナよ。私達の家系は何世代にも渡って一人っ子が続いています。この子も一人娘です。私の全ての愛情を注いで育ててきました。
彼女の子供が王位継承者にならなければなりません。もしあなたが娘と結婚し、娘との間に生まれた子供を私の跡継ぎとして残してくれるなら、あなたという偉大な英雄に私の娘をやりましょう」
アルジュナはその条件に同意した。

チットラーンガダーと結婚し、そこで三ヶ月間を過ごした。後にバッブルヴァーハナと呼ばれることになる息子を彼女に授け、アルジュナはさらに南へと旅を続けた。

アルジュナは大陸の最南端に到着し、西側の海で沐浴した。
彼の旅は終わりに近づいていた。

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