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餅つきのはなし

お正月の風物詩のひとつである、お餅つき。
ぺったん、ぺったん、ぺったんこ。
昔は、各家庭やご近所で集まって餅つきをするという光景があったりしたのだけど、私が住んでいるのが東京だからなのか、それとも時代なのか、そんな光景はすっかり見なくなってしまった。

ましてや、まもなく6歳になる我が家の息子は、
「おもちつきは保育園でやるもの」と思っているのだから、時代はやっぱり変わってしまった。

ついこの間、「自動餅つき機の動画が癒される」というツイートを見た。

私が子供の頃、大分の祖母の家には石臼があって、
祖父と祖母が一緒になって餅をつき、
家族揃ってそれを見守っていた。
つきたてのお餅はとっても美味しかったし、
祖母が味付けをする海苔とゴマの入ったお餅が、私はとても好物だった。

しかし、私が11歳の頃に祖父が他界して、
餅つきをする光景はなくなってしまった。
それでも正月は餅をつかねばと、祖母は「自動餅つき機」でお餅を作ってくれた。祖父がいなくなっても、祖母はお餅を大分県から奈良へ送ってきてくれた。

そして、私が大学生になる頃には、祖母も足腰が弱くなってきて、
お餅をつくこともなくなってしまった。
私も、お餅を食べなくなってしまった。

スーパーに売ってあるお餅をたまに買ってみては、
レンジでチンして、砂糖醤油で食べる。
美味しいのだが、それを味わうと同時に、
「あの頃のお餅を食べたかったな」と寂しさも感じるのだ。

石油ストーブの上にお餅を置いて焼いたなァ。
冬の寒い朝に、冷凍庫から祖母の餅を出して、
オーブントースターで焼いたなァ。

それが、30年後にはレンジでチンで終わる。

餅つきをしなくなった今、
祖父母のあの海苔とゴマのお餅を食べることもなくなった今、
私の餅つきの思い出は、心の中に大事に取っておこうと思う。
(744文字)

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