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読書感想文 #65 敗れざる者たち

みなさんこんばんは。いかがお過ごしでしょうか。

3月も何日か経ちましたが、今日も寒い1日となりました。

今日はこちらの感想になります。先日たまたま図書館で借りました。

敗れざる者たち
沢木耕太郎 著

概要

勝負の世界に青春を賭け、燃え尽きていった者たちのロマンを描く、
スポーツノンフィクションの名作が、待望の新装版に!

登場するのは、クレイになれなかった男・カシアス内藤、栄光の背番号3によって消えた三塁手、自殺したマラソンの星・円谷幸吉、など。

沢木耕太郎が、徒弟修業中の自分にひとつの可能な道筋が見えてきた、と語る、自身の出発点ともいえる記念碑的作品。

目次
クレイになれなかった男 7 三人の三塁手 65 長距離ランナーの遺書 105 イシノヒカル、おまえは走った! 155 さらば 宝石 207 ドランカー(酔いどれ) 249 あとがき 311 あとがきⅡ 313 解説 北野新太 328

感想

「深夜特急」など名作の作家である沢木耕太郎が「敗れざる者たち」を発表したのは28歳の1976年で、この本はあとがきなど追加された近年発表された本のようです。1960年代〜1970年代のスポーツの選手にスポットを当てた6篇となっています。ある程度人生経験のある作家ではなく、20代の若者が、同世代のアスリートを取材していて、スターではないけれど、味のあるアスリートの話が描かれていて大変面白かったです。

”カシアス内藤”というボクサーは10数年前に島田紳助氏がテレビ番組の企画で音楽ユニットをプロデュースするときに自らを”カシアス島田”と名乗っていて、おそらくこの選手のリングネームから取ったものと思われます。カシアス内藤も、オリジナルは”カシアス・クレイ”のちのモハメド・アリから命名したもので、本人よりも周囲がそう勧めて名乗ったのだそうで、決して世界チャンピオンにはならず、東洋太平洋が取れそうで取れず、その後、韓国に遠征し、噛ませ犬として安いギャラで韓国人と戦い、負ける話です。1970年初期の韓国は日本からビザがないと行けず、テレビは白黒、北朝鮮と大して変わらない豊かさ、つまり貧しく、自国のボクサーが憎き日本人を倒すのを大衆は喜びに感じていたという時代で、プロモーターなどの事情で、そういう役割をするという悲しい選手。名トレーナーのエディ・タウンゼントに途中まで師事していたが、肝心なときに勝てない、優しい性格が仇となり、勝負弱い選手の悲運。こういう選手はたくさんいたのだろう。

マラソンで地元日本での開催1964年東京五輪で、大健闘の銅メダルを獲得した円谷幸吉は福島の須賀川出身で郡山の自衛隊に就職するも陸上部はなく、陸上経験のない同僚と走るトレーニングをしたら、二人共レベルが高く、あれよあれよと記録を伸ばし、東京五輪でメダルまで取るというシンデレラストーリーから一転、有名になりすぎ、腰痛などに苦しみ、結婚相手がいるのに許可されず、破談となり、その後自死してしまう。礼儀正しい遺書と、メキシコ五輪へのプレッシャーなどは彼をテーマにしたテレビ番組で描かれていたが、結婚意識した相手とか実情までしっかりとかかれており、時代の犠牲者だったのかと残念に思えました。東京のすぐ後に「結婚はメキシコまでは駄目だ」と言われるとか、今の時代と真逆のような時代だったようです。

宝石はプロ野球史上最年少1000本安打、2000本安打達成、高卒新人1年目記録も多く達成、神の領域までいった大打者榎本喜八の話。現在も彼の記録は残っているのもあり、ヒットを打つ技術は張本勲、イチロー、長嶋茂雄、王貞治以上とも言われるにも関わらず、知名度は極端に低い理由がこの章ではっきりとわかります。超真面目で努力家、合気道や呼吸法などマスターし、スポーツというよりも精神世界のような次元でプレーし、選球眼が抜群によくて四球が多く三振が極端に少ない、バッターボックスではほとんど動かないという打者ですが、時代は巨人全盛期、パ・リーグは不人気で、大毎、東京、ロッテオリオンズでプレーしていた彼はあまりテレビには映らない、日本シリーズに出たと思いきや、巨人ではなく大洋が相手だったり、ミサイル打線と言われた、オリオンズ強打者4人衆がある年、1人引退、2人移籍で、彼1人となり、過度にプレッシャーを感じ、その後精神に異常をきたしたりし、引退後、自宅から球場まで往復40キロを1日起きに走り続けたり、いろいろなことがあり、彼は大打者だったにもかかわらず、監督、コーチ、解説者にすらならなかったという、当時の野球を観ていた一部の人しかしらない激レアな存在だったという。長嶋、巨人、全盛の裏で宝石がいたという。野村克也さん以外にも。

前述のカシアス内藤を噛ませ犬として韓国で戦っていた金が、ある時日本人の世界チャンピオンの輪島功一を破り、世界チャンピオンになった。輪島は防衛失敗後、急激に衰えていき、にもかかわらず、日本で金へチャレンジャーとして世界戦を行うことに。下馬評は金有利で、試合が近くなるに連れて、金はますます有利で、輪島は絶対不利と言われたのだが、下馬評を覆し、最終15RでKOしチャンピオンに返り咲くという話。試合に向かう前のトレーニングの様子など著者が密着し、ボクサーは水がガブガブ飲めない理由なども説明されているが、この輪島はメチャクチャカッコいい。彼は苦労人にもかかわらず、底抜けの明るさから人気があり、引退後もタレント活動も行うほどだった。後年テレビ番組でも輪島が世界タイトル戦を前に、仮病を使い、マスクをして記者会見に望み、相手を油断させて勝利を得ることができた、といったエピソードで笑いをとるような制作がされていたが、実際にはストイックにトレーニングし、冷静に相手を観て、絶対不利と言われながら、試合前に関係者には勝つと言っており、そして実現した。どこな二流のチャンピオンが、もう輝きを失っている段階で、前評判を覆す見事な勝利というのは非常に感動する話であり、この試合の動画が観たくなりました。

決して大スターではなかったけれども、輝くものがあり、影があり、それはある意味大半の人がそうで、最近でいう羽生結弦や大谷翔平なんかは究極に稀有な成功例であり、だからまぶしい。大半はそんなんじゃない、どこか書けていて、勝負弱かったり、カシアス内藤が韓国での試合で軽量前日にあと100gまで来ていて、安心してその後にコーラを飲んでしまうとか、そういう意思の弱さは誰にでもあり、だから共感できてしまうのかなと思いました。


それではまた。



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