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リンさんの小さな子~読書記録285~

2005年、フランスの作家、フィリップ・クローデルによって書かれた小説。

作者・フィリップ・クローデル
1962年フランスのロレーヌ地方に生まれる。小説『忘却のムーズ川』(1999)でデビュー、その後もナンシー大学で文学と文化人類学を教えながら、『私は捨てる』(2000年度フランス・テレビジョン賞)『鍵束の音』 (2002)など着実に作品を発表してきた。2003年の『灰色の魂』(2004、みすず書房)により三つの賞を受賞して注目を浴びる。『リンさんの小さな子』(2005、みすず書房)『子どもたちのいない世界』(2006、みすず書房)も話題を呼び、2007年『ブロデックの報告書』(2009、みすず書房)では「高校生ゴンクール賞2007」を受賞した。さらに映画『ずっとあなたを愛してる』(2008)を監督、戯曲『愛の言葉を語ってよ』(2008)もパリで初演されるなど活躍の場を広げている。

戦禍の故国を遠く離れて、異国の港町に難民としてたどり着いた老人リンさんは、鞄一つをもち、生後まもない赤ん坊を抱いていた。まったく言葉の通じないこの町の公園で、リンさんが知り合ったのは、妻を亡くしたばかりの中年の大男バルクだった。ところが…。現代世界のいたるところで起きているに違いない悲劇をバックにして、言語を越えたコミュニケーションと、友情と共感のドラマは、胸を締め付けるラストまで、一切の無駄を削ぎ落とした筆致で進んでゆく。ベストワン小説『灰色の魂』の作者が、多くの読者の期待にこたえて放つ傑作中篇。フランスと同時に刊行される最新作。(出版社紹介文より)

前年に出版された「灰色の魂」の翻訳者が翻訳されているのだが、実際に作者が来日した際に直接会い、その時に是非、翻訳して日本でも出版をなった作品のようだ。
作者と翻訳者が懇意にされているからこその共感できる作品でもあるのかなと感じた。

翻訳者が言うには、作者はベトナムを旅した時に出逢った女の子を養女として引き取ったのだという。1999年のデビュー作の時に1歳だったという。

この本では、主人公の老人がどこの国から難民となり、どこの国に移ったかははっきりとは書かれていない。だが、作者の体験、こんにちはの挨拶がボンジュールとなっていることから、ベトナムからフランスに移り住んだのだろうと推測される。

物語は平易で穏やかだ。祖国、家族を失った老人と妻を失った男性との不思議な友情が描かれている。
そして、作者が映画監督だからであろうか。
読んでいて、あれは何だったのだろう?と思う事柄がいくつかあるのだ。

主人公の老人、リンさんが入れられた施設。あれは老人ホーム?あるいは、精神病院なのだろうか?
リンさんが孫だと言って手放すことなく抱いていたのは、実は人形だったのだろうか?

ベトナム戦争と言えば、1970年代の話なのだが、この本が書かれた21世紀でも混乱の中にいるのだろうか。
ただ、日本に於いても、今現在ベトナムから貨物船で密入国する人はいるので、平和とは程遠いのだろう。

人は生まれた場所を選べない。そのことを思うのだった。


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