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水底の女~読書記録393~

水底の女 レイモンド・チャンドラー 村上春樹訳

私立探偵フィリップ・マーロウは化粧品会社の経営者ドレイス・キングズリーのオフィスに呼ばれた。ドレイスの妻はどうやら男と駆け落ちしたようだ。マーロウは妻の安否確認を依頼され、その足取りを追うことになる。しかし、たどり着いた湖の町でマーロウが見つけたのは、別の女の死体だった。行方知れずの社長の妻となにか関係があるのか?マーロウの調査はベイ・シティーの深い闇をえぐる―旧題『湖中の女』の新訳版。

解説で村上は、チャンドラーの長篇がもつ溌剌(はつらつ)とした魅力に欠けていて、ゆるめのプロットひとつで長篇を書いたことを問題視しているが、ファンの間ではトリッキーと評されて一定の人気もある。ハードボイルド派は本格ミステリ派に対抗して生まれたが、ハードボイルド派による本格揶揄(やゆ)にも見えて面白い。
しかし村上の姿勢は、ハードボイルドとしてではなく、「準古典文学作品」として翻訳をすることにある。チャンドラーの素晴らしいオリジナルな文体をできるだけ原文に忠実に日本語に置き換えることだ(かつての翻訳は逐語訳ではない)。
そのため清水俊二訳『長いお別れ』に親しんだ読者は、チャンドラー新訳第1弾『ロング・グッドバイ』に驚いた。これほど華麗な文体だったのかと感嘆したのだが、同時に不満もあった。
チャンドラーが評論「殺人の簡単な芸術」で披瀝(ひれき)したマーロウ像、荒っぽい機知、異様なほど鋭い感覚、欺瞞(ぎまん)に対する嫌悪、姑息(こそく)なものへの軽蔑などがその口ぶりから読みとれるはずなのに村上マーロウは老成していて猥雑(わいざつ)な熱情が薄い。村上が述べるように、ハードボイルドのリアリティーと有効性が失われつつあるからでもあるのだが。(池上冬樹)


訳者あとがきで村上春樹が述べているように、少し説明不足というか、え?なんでこんな展開なの?という場面もあちこちにあった。
冒頭に出て来る水の底に沈んでいた女は別の人物であり、その女が犯人でもあり、殺されてしまうわけなのだが、推理小説としてというよりも、登場人物1人1人の個性に目がいくものであった。
殺人犯は刑事だったわけだが、最初から最後までイヤな奴だな、の思いだ。
マーロウが訪問した家を出た時にいきなり後をつけて、実際にはしていないスピード違反だの、警官に対する暴行だので留置所に連れていくわけだが、その過程でもって、かなりの荒っぽいやり方をするのだ。


ブラックジャック (Blackjack) は、殴打用の武器。 サップ (sap) ともいう。 円筒形の革や布袋の中にコインや砂などを詰め、固く絞って棒状にした棍棒の一種。 詰まった砂や金属で相手を打ち倒すための重量を持たせながら、表面が布や皮なので流血沙汰になりにくい。

マーロウは、ブラックジャックで何度も殴られるのだ。ああ、もう読んでいて怖い。タフ、ハードボイルドで片付けるのか。

殴られて、マーロウが舌で確認すると歯が1本だけなどの個所もあった。
大丈夫なのか?普通に喋れるの?
と、何故か、本の流れそっちよりも心配の私であった。


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