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フライパンをもった猫②

んーーよく寝た。
今日はここだ、と思ったボクのカンはやはり正しかった。
(まぁ、外したことなどないが。)

さて、今日もひと仕事しよう。
ボクは生きているだけで素晴らしいし、恐らくもう充分にかわいいボクを見て満足しているだろうが、ボクはその辺のやつらとは違うからな。

くっと背中の真ん中を真上にあげるようにする。手足に血がめぐってくる。

ボクの相棒、フライパンをもって。さて、キッチンはどこかな?
お、あった、あった、近いな。今日の家は1つしかコンロがないようだが、割りに高さがある。

えい、やっ!とフライパンをコンロに投げる。こいつはとても不思議なフライパンで、真っ黒で重たいくせに(ボクは力持ちだから運べるんだけどね!)火の出るところにだけは、ふわりと踊るように、うれしそうに乗っかるんだ。
さっそく火をつけてやった。ほおら、うれしそうだろ。

さて、冷蔵庫はどこかな?ボクは知っている。その中に白くて丸い卵が入っているんだ。

卵をもったらキッチンに上がって、コンコンってフライパンに合図して、卵を開けるんだ。

パチパチ
ジューーーー

いいタイミングになったらフライパンが教えてくれる。
ボクは黄色くて丸いつやつやをぼーーーっと見る。
それだけ、簡単なお仕事。でもなかなかできるやつ(猫)は見たことがないだろう。

「え!?なに!?目玉焼き作ってる!???うそ!?」

驚く声が聞こえた。
まぁそんな声ボクは慣れてる。
面倒だから、あんまり気づかれないように、コソっとやることのほうが多いんだけど。

「意味わかんない…うーん、夢?私、頭変になった?
もういいや。かわいいし、夢だろうし、もういっそ…」

なにやらボソボソ何か言っているようだがよく聞こえなかった。
まぁ何しろボクは黄色い丸いつやつやに夢中だから。

「あ!猫さん!フライパン、そんなに大きいフライパンに卵一個なんてガス代もったいないよー!」
なんだ突然、大きい声をだすな!しっぽが膨らんでしまう。驚いてなんかいないぞ!!

「もう一個つくろ!それからー…あ!ウインナーあるよ!一緒に焼いちゃお!」

コンコン…
ジューーーーー

あぁ!ボクのフライパンに勝手になにするんだ!!!
僕がしっぽと目をまあるくしている間に入れられてしまった。
卵を入れたことしかないのに、寝心地が変わっちゃったらどうしてくれるんだ…。でもフライパンは少しうれしそうだ。それなら悪いものではないようだが。

「食パンもあるよ!一緒に食べるよね!?
あー、でもご飯に乗せるのもいいなぁ…。

猫さん、猫さん、ご飯とパン、どっちが好き?」

知っている。ボクはご飯も、パンも、知っている。でも、知らない。
食べたことはない。

「喋るわけないかー。パンにしよ!パン!目玉焼きのっけて食べよ!」
失礼な、ボクは話せる。そのへんのやつら(猫)とは違うからな。

「ウインナーにはケチャップでー…、目玉焼きもケチャップでもいいけど…今日は醤油な気分…」
なんだか一人で話しながら、勝手にどんどん準備している。

「あ、もう良さそうじゃん!」
ボクが固まっている間に、皿が出され、パンが乗せられ、
あぁ!卵もウインナーもフライパンから出された。
ボクのフライパンだぞ。フライパンのやつめ、なんでうれしそうなんだ!

「さぁ!猫さん!テーブルに運ぶね。一緒に食べよう!」

一緒に、食べる…?ボクが?


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