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経営者として退職にどう向き合うべきか

皆さん、こんにちは。シェイクの吉田です。
8月末に3年目社員が一人シェイクを退職しました。
経営者仲間と社員の退職について話すと「社員が辞める時は、恋人にフラれたような気持ちになる」という人や、「去る者は追わない」という人など、人によって感じ方、考え方が違うように思います。
私自身、2009年に社長になりましたが、毎年、何名かの社員がシェイクを去っていきます。社員から、「お伝えしたいことがあります」「相談したいことがあります」と切り出されると、「退職するのではないか」と頭をよぎります。そして、実際に、退職したいという申し出があると、様々な葛藤が起きます。
今回は、私自身が、社員の退職に対してどのように感じ、向き合っているのかを整理したいと思います。

退職相談を受けたときの葛藤


私自身、社員から退職の相談を受けると、2人の自分が現れます。
「社長としての自分」と、「社員の人生を共に考える人としての自分」です。

「社長としての自分」は、次のような心の声を発しています。
・せっかくここまで成長してきて、これから活躍するときなのに今辞めるなんて・・・
・シェイクの将来を担ってくれると思っていたのに・・・
・業績への影響や、周囲のメンバーに対する影響も大きそうだな・・・
・シェイクで働き続けたいと思わせることが出来ない社長で申し訳ない・・・

もう一人の「社員の人生を共に考える人としての自分」は、次のような自分です。
・人生の決断の時を迎えたか。どんな決断をしたのだろう・・・
・退職するときは、大きく成長するチャンス。じっくり話を聞いてみよう・・・

社長になった当初は、退職の相談を受けたとき、社長としての自分が強かったように思います。

社員を育てても辞める、といったことが繰り返されると、組織として人を育てる意識が落ちてきます。人の成長と、業績は大きく関係してきますので、売上に対する懸念が出ます。社員からも、「採用しても辞めるなら、本当に新卒採用をするべきですか?」という声が上がってきます。社長に魅力がないから辞めるんだというように、社員から否定されたような気になります。

10年以上前の話になりますが、社員の退職に直面した時、想いをもって入ってきた社員が組織に対する諦め感を持ったのは社長の責任であると感じ、「自分の力不足で申し訳ない」と社員に謝りました。その時、社員から言われたのは、「吉田さんが嫌で辞めるわけではないです。勘違いしないでください」と。
それは、「シェイクがいいとか悪いとか、社長がどうだとかは関係なく、自分が自分の人生の未来を選択して辞めていくだけで、そこにあなたが謝ってきても気持ち悪いだけ」と言わんばかりでした。

それまで、社員が辞めていくとき、「社長として力不足で申し訳ない」という気持ちや、先の経営者のように「恋人にフラれる気持ち」のようなものがありましたが、その時、社員は、社長のために働いているのではないことを強く実感しました。むしろ、社長のために働かせてはいけないのではないかと感じました。「社長として力不足で申し訳ない」「恋人にフラれる気持ち」は、自分を卑下していたり、傲慢になっている自分がいることも感じました。

「業績に影響が出るから辞めさせたくない」というのも、社長という立場から、人を業績を上げてくれるもののように見る視点で社員を見ていることに気づきました。組織が人を使うというよりも、個人が主体で組織で活躍する組織にしたいと思っていたのに、退職時には、私の在り方が、組織視点に立ち、人をコントロールする立場から話している自分に気づかされました。

もちろん、社員が辞めることで、売上の低下に繋がることもありますし、他の社員に負荷がかかるなど、大変なこともありますが、それは、そのことも見越して経営をしていくだけであり、そこに一喜一憂する必要もないと感じるようになりました。

その時から、社員から退職の話があると、様々な葛藤はあるものの、組織視点で社員を引き止めるというよりは、一人の人として、社員と向き合うことにしました。社員の人生を共に考える人として、社員に向き合っています。

3年目社員の退職


8月末、3年目社員が一人退職していきました。この社員が退職する時、殆どの社員から温かい言葉をかけられ、応援されていました。「また、一緒にプロジェクトしよう」「今度は、シェイクで副業したら」といったような声をかけられながら、温かく送り出される姿は感動的でもありました。

この社員から、最初に退職の相談を受けたのは、今年の1月でした。彼の話をじっくり聞きましたが、私がその時に感じたのは、彼が負の感情にコントロールされて退職を希望しているということです。同時に、「今は辞めるべきではない」と思いました。これは、今辞めてもらうと会社が困る、ということではなく、彼の人生のタイミングにおいて、今辞めるべきではないと強く思ったからです。

彼は、2020年4月に、コロナ禍で、世の中が混乱している中でシェイクに入社してきました。もともと、学校教育を改革したいという志を持っており、シェイクには、社会人向けの教育を学ぶことで、学校教育の改革に活かしたいという想いをもって、入社してきました。

入社以来、彼は真面目には働いているものの、仕事の意味を見いだせず、仕事に没頭できていない様子でした。「社会人教育は『人を会社という枠に適合させるもの』であり、そのような人材育成は本質ではない」という考えがあったようです。自分たちがお客様に「人材育成」という価値を届ける立場でありながら、その価値を信じることが出来ず傍観者のように見えました。

また、シェイクという会社に対しても、他の社員が当事者として会社を良くしようと活動している中、どことなく、会社に対しても傍観者、批判者のような立ち位置に見えました。組織に対して当事者になるということは、組織人に染まってしまうことだと感じていて、そうならないために、必死に抵抗しているように見えました。

退職の話を聞いていても、現状への諦め感や逃げの意識が垣間見れました。モヤモヤしていてすっきりしない自分がいるから、立場を変えて、改めて必死に働けば、もっと自分らしく働けると感じているようでした。シェイクという組織への不満がありながらも、自らは何も働きかけようとせず、傍観者でありながら、働く場所を変えれば、当事者になれると言っているように聞こえました。

私は、彼の話をとことん聞き切った上で、私が感じていることも率直に伝えました。「組織の真ん中に立っていない。傍観者に見える。辞めるにしても、最後、組織の真ん中に立ち、傍観する立場ではなく、自分に出来ることをして組織に影響力を発揮してから辞めてはどうか」と伝えました。

このような話をするとき、私自身、組織視点で語っているように聞こえないか、本当に相手の立場に立ち、相手の人生を応援する視点で語れているかを気にしながら話すようにしています。もちろん、組織視点もゼロにはなりません。社長という立場でのコメントもありますが、出来る限り、相手の人生において、どのような決断が大事かという視点に立って話すことを心がけています。

結局、彼は、そのタイミングで退職することを辞め、8月末までシェイクに残ることを決めました。そこから、彼は自分を見つめなおし、仕事に対する取り組みを変え、仕事の価値を見直しました。シェイクの中での存在感が、大きく変わりました。シェイクという組織の真ん中に立ち、後輩や先輩に対しても自分が及ぼせる影響を考えて行動し、学んできたナレッジを共有し、お客様に向き合い、そして、本当に自分のやりたいことを考えました。

それまで彼は、組織の視点に立つことは、自分が組織に染まってしまう怖さがあり抵抗する感覚があったのだと思います。2月以降、抵抗することを手放し、組織の視点に立ちました。7月に入って改めて、面談をしたときに私が感じたのは、彼が組織に縛られまいと抵抗していた時は、むしろ組織に縛られており、2月以降、組織視点に立って、周囲に影響を及ぼしたとき、むしろ、組織に縛られず、彼らしい人生が立ち上がったといったことでした。

私の気持ちとしては、もちろん、辞めてほしくないですし、むしろ、組織視点を身に着けた状態でシェイクに残ってほしいという思いはありますが、同時に、これで安心して送り出せるとも感じました。自分の人生を自分が主体者として生きていく覚悟を感じました。人は、半年でここまで成長できるものか、と思いました。

「学校教育を変えたい」という彼の当初からの意思が磨かれ、シェイクで学んだことを活かして、次のステージに進んでいきます。私自身、彼の意思と、人生の選択を心から応援します。他の人にも、このような彼の想いが伝わったのでしょう。皆から応援され、退職していきました。退職の送別会や挨拶の場が、本当に温かい場となっていました。とても「良い退職」だったと感じました。

退職に向き合う

退職に対する向き合い方


経営者として退職に対してどのように向き合うべきか。
組織軸で考え、組織メリットのために、何とか引き止めたいという気持ちが出ることも受け入れた上で、組織軸の視点を一旦脇に置き、人として、退職を決断した人に向き合うことで、しっかりと今後の人生を考える支援ができればいいと思います。

退職を考えるときは人生の岐路。最終的には、本人の人生ですから、本人が覚悟をもって、一歩を踏み出すように支援をしたいと思います。退職時における社員との向き合い方において、意識していることを3つに整理します。

一つ目は、「逃げさせない」ことです。
現状の組織や上司に対する不平不満や、自分に対する自信のなさ、未来に対する不安などが原因で、退職を考えている場合、自分が何から逃れようとしているのかの自覚の支援をして、最終的に自分の人生を自分で選択したと思える状況にしてあげたいと思います。世の中の転職ブームに流されてしまっている場合や、他社から評価されたから転職を決める場合なども、本当に自分がどうしたいのかを考えていない場合があります。転職という人生の節目だからこそ、逃げではなく、自身の意思で選択することを支援することが大切だと考えています。

二つ目は、「依存させない」ことです。
組織が大変だから残ってほしい、今までの恩を返してほしいといったことを伝え、感情に訴えるアプローチは、判断軸が自分ではなくなり依存を生みます。経営者は社員の人生を預かっている側面もありますが、組織や経営者に依存させるのではなく、主体を本人に戻すことが大切だと思います。「あなたが必要だ」といった期待を伝えることも、このメッセージが強くなりすぎると、自分の人生の選択を人に依存する状態になりかねません。あくまでも、本人主体で選択することを支援することが大切だと考えています。

三つめは、「相手のタイミングを尊重する」ことです。
最終的には、逃げだ、依存だ、と私が感じても、それは、私の視点でしかありません。私から見て、絶対にAの道が最適だ、今は辞めない方がいいと思っても、要らぬお世話かもしれません。本人が何かに気づくタイミングや、人生の主体者として覚悟を決めるタイミングは、今ではないだけかもしれません。その時は、相手の人生におけるタイミングを尊重して、見守ることも大切だと思います。

経営者として退職にどう向き合うべきか。現実は、常に葛藤の連続です。
社員には長く働き続けてほしいし、シェイクという会社で自己実現が出来るような会社に成長させていきたいと強く願っています。それでも、退職していく人はいますし、そのこと自体は、決して悪いことではありません。

退職をしても、アルムナイとして繋がり続けることが出来る時代です。東京から離れたところで活動していて、東京に来るたびに連絡をくれるメンバーもいます。シェイクに遊びに来てくれて、一緒に若手社員と座談会をすることもあります。そのような時には、他社で働いてみて分かるシェイクで身につく能力を語ってくれたりします。退職後も、業務委託契約を結んで一緒に活動しているメンバーもたくさんいます。

「退職=悪」と決めつけるのではなく、社員が退職する自由を持ちながらも、シェイクという場で、活動できる環境を作りたいと思いますし、退職したいという社員が出てきたら、少しでも、その人の人生のプラスになるようにこれからも向き合っていきたいと思います。