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『隅田さんのざつ日誌 #1お盆編』 作:味野たたき【5分シナリオ】

「隅田さんのざつ日誌 #1お盆編
作:味野たたき(あじのたたき)

◾️登場人物
隅田 直樹(34) 会社員
小長谷太朗(39) 隅田の同僚
中本 理沙(22) 隅田の同僚

〇オフィス・中
静かなオフィスに3人の社員。
隅田直樹(34)、その隣に小長谷太郎(39)。少し離れた席に中本理沙(22)。

小長谷「隅田さんはお盆返上?」
隅田「奥さんと子供が帰省してるんで。特にやることもないので。小長谷さんは?」

小長谷の胸ポケットから蝉の抜け殻が顔を出している

小長谷「いやあ、バナーの修正依頼が多くてさ。この量、多分俺やらないとみんなお盆返上しちゃうね」
隅田「……せ」
小長谷「せ?」
隅田「いや、せっかくお盆休みに仕事してるんだから夏っぽいことしたいですよね」
小長谷「綿あめと焼きそばとりんご飴買って金魚すくいとか?」

理沙、隅田たちを見る。

理沙「ダークな食べ合わせすぎて……小長谷さんの胃目線になるとやりきれない」
小長谷「(胃を触る)……胃目線って日本語初めて聞いたんだけど」

隅田は小長谷のセミの抜け殻を見てる。
理沙「あと金魚すくい……しなくてよくないすか?」

小長谷「別にいいじゃん」
隅田「中本さん、金魚すくいはいいと思う」
理沙「綿あめと焼きそばとりんご飴持って金魚すくいって、絶対どれか水に落としますって」
小長谷「俺ってフワフワ浮ついている性格だから綿あめ落とすかな」
隅田「いや、別に浮ついてないですよ、ベトベトしてる性格だと思うんで、小長谷さんは焼きそば落としますよ」
理沙「わたし的に小長谷さんはフワフワもベトベトもしてなくて、意外と何かに覆われている気がするんです。だからりんご飴落とすと思うんですよね」
小長谷「えー、りんご飴?」
理沙「りんご飴落とすのは結構最悪で、金魚目線だと、インターフォンを押すとりんご飴持ったオジさんが立ってるんですよ。それで、突然部屋に入ってきて部屋をぐちゃぐちゃに荒らして帰っていくんです。ひどすぎますよ。どうしてくれんすか?」
小長谷「……なんだよ金魚目線て」
隅田「りんご飴買わなきゃいいだけですよ」
小長谷「うるさいよ隅田さん」
理沙「あと小長谷さん、なんでポケットから蝉の抜け殻が可愛い感じで顔を出しているんですか?」

小長谷、ポケットを見る。
隅田、『へへっ』笑う。

小長谷「……え? あ、ほんとだ。ねえ隅田さん知ったでしょこれ。なんで言ってくれないの?」
隅田「あまりにもナチュラルに居たから」
小長谷「隅田さんのそういうとこ、嫌い」
理沙「隅田さんサイテーに8票……小長谷さん実はセミにちょうどいい木だと思われてた説に149票」
小長谷「ちょうどいい木じゃないよ」

隅田、小長谷の肩をもむ。

隅田「ちょうどいい木から飛び立ったんですね。未来に」
理沙「(遮り)いや、さっき入口で死んでるセミいたから多分そいつだと思う」

小長谷と隅田、呆気にとられる。
小長谷、入口に向かうとセミを大事そうに拾う。
小長谷「ごめんね、こんなところでごめんね」

小長谷を見つめる隅田と理沙。
理沙「(隅田に)小長谷さんのああいうところ……嫌いじゃないっす」
隅田「わかるなあ」
小長谷「ねえ、お墓作ろうよ。お墓!」

〇同・前
オフィス前の公園。
木の下にセミのお墓ができている。
小長谷、缶ビールを備える

小長谷「どうか、安らかに」
と、合掌。
隅田と理沙も合掌。

沙「小長谷さん、セミってビール飲むんすかね?」
小長谷「飲むよ。見たこともあるもん」
隅田「嘘だ」
小長谷「ほんとだよ。缶ビールチューチューしてるの見たことあるもん……ああ、喉湧いた」
隅田「そういえば、上の冷蔵庫にお客さんから貰ったビールありますよ」
小長谷「勝手に飲んだらダメじゃない?」
理沙「このセミの葬式ですよ? 盛大飲んでセミの思い出を語って送ってあげましょうよ」
隅田「語り合いましょうよ、小長谷さん」
小長谷「……今日は飲むか。お盆だし」

騒がしい八月の蝉の音。

【おわり】


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